Woman’s Talk

「夫との暮らしは普通ではないからいい」 角田光代さん(作家)

  • 2017年12月22日

  

 古典は苦手という角田光代さんが『源氏物語』を出した。物語の面白さとわかりやすさ、千年の刻(とき)を経て紫式部のため息と呟(つぶや)きが聞こえてくるような現代語訳だ。人気作家の素顔を知りたく、10の質問。

Q1『源氏物語』の面白さは?

 ストーリーの巧みさですね。光源氏一人の話ではなく、因果応報がどんどんねじれていく構成の緻密(ちみつ)さ、巧みさが面白かった。紫式部の表現が非常に今日的です。こんな感情の発露を千年も前に書けたんだと吃驚(びっくり)しました。悪口の書き方、容姿のけなし方、貴族気取りする人への辛辣(しんらつ)な毒舌、いい恋愛と悪い恋愛、本人が意見を述べる時、その筆が冴え渡っていて、あれ、面白いかもと(笑)。古典に対する苦手意識があったのに、すっかり払拭(ふっしょく)されました。特に上巻最後の「少女(おとめ)」では人間が急に生々しく立ち上がってきて、とても身近に感じました。そして改めて自分は物語がぐんぐん動いていく小説が好きで書きたいのだと、自分の小説観がはっきりしました。

Q2 多作です。小説を書く源泉は?

 デビューして10年目以降、たくさん書かないとダメになると思いたくさん書くことを自分に課しました。だからいつも何か燃えたぎるものがあってというのとは違います。ただ一貫してあるのは怒りみたいなもの。常識的な考え方に対して「本当にそうなのか」という気持ちがあり、それが何に反応するかで、どんな小説を書きたいかになっています。

Q3 いつも「嫌いな人」を書くとか?

 ええ。今年映画化された『月と雷』を見ると、みんな一生懸命生きていて好感が持てたんですけど、執筆中は全員嫌いでした(笑)。絶対、自分の人生に関わってほしくない人たちです。でも嫌な人を書く時も糾弾はしたくない。自分にも同じところがあり、どこかで共感していると思うし、嫌いな人だと距離をとって見ることができます。逆に好きなタイプの人を小説にいれると、私の普段の正義を持ち込みそうで、それはしたくないんです。

Q4 作家で良かったと思うことは?

 昼日中に堂々と誰にも遠慮せず、小説を書けることかな。昨年まで9時〜5時で書いていましたが、いま朝はフレックスに。前夜、深酒すると、起きられなくなって、でもそれはそれでいいかなと。

Q5 仕事を離れて一番好きな時間は?

 お酒を飲んでいる時間。レモンサワーと赤ワインが好きです。落ち込んだ時も、お酒を飲みます。

Q6 落ち込みやすいんですか?

 すごく落ち込みやすいです。だから「クヨクヨするな」と日記に書いたり、『源氏物語』が出たあとは仕事場に貼ってあります。敬語を省いて物語を優先したので、叩(たた)かれると思ったんです。間違いもすごく気になり、ご指導頂いている大学の先生に迷惑がかかったらどうしようとか、クヨクヨポイントがいっぱいありました。思考がネガティブなんです(笑)。

Q7「家族」がテーマの小説が多いです。「家族」とは?

 若い頃、家族とはいいものだという既成概念に対して何か怒りの気持ちがありました。でも自分たちに合う家族の形でいいと思えるようになって「家族っていいな」と。今は夫と二人家族ですが、いわゆる普通の家庭ではないです。夫は仕事で缶詰になると三カ月の間三回しか姿を見せないこともあるし、私も一カ月缶詰生活になったりする。仕事を優先しすぎて別居生活みたいな時もありますが、お互いが了解して、ようやく家族をつくり始められたなと思っています。家族とはこうあるべきと考えると、苦しいと思います。

Q8 旅好きと聞いています。どんな旅を?

 若い頃は安宿に泊まってゆっくり一人旅をしましたが、いまは仕事で行くか、誰かと一緒に1週間ほどです。知らない土地で知らない人とちょっと気持ちを交わす瞬間が好きで、若い頃は知らない人の家でご飯を食べたりしていました。でもそれはもうできないですね。10月にはスペインのバレンシアに行き、ハーフマラソンの大会に出ました。マラソン大会は国内外で年に2〜3回出ています。今年で12回。日頃も週2日、10キロから15キロは走っています。フルを16回走れば文体は変わると村上春樹さんが書かれていたのを読み、あと4回だなと(笑)。

Q9 最近、一番良かった買い物は?

 (20秒考え込み)必要なものを買うだけですからねぇ。(腕にしているものを指摘され)、これはfitbitです。1年ほど前に買い、入浴時以外、ずっとしています。あ、これですかね(笑)。歩数や寝る時間などが記録されます。日々、たくさん歩くので、ただ歩くのも悔しいんです、何歩歩いたか知りたいんです(笑)。

Q10 いつもバッグに入っているものは?

 本ですね。海外小説と日本の現代小説が好きです。1〜2日で読むこともありますし、3週間かかることもあります。外出用と家用とトイレ用とお風呂用があって、同時進行して読んでいます。

(撮影:ミズカイケイコ/ヘアメイク:森野友香子(Perle)/インタビュー:追分日出子/撮影協力:山の上ホテル「バーノンノン」)

かくた・みつよ
 1967年神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」でデビュー。2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、09年、ミュージシャンの河野丈洋氏と結婚。11年『ツリーハウス』で伊藤整文芸賞、11年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、14年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。今年、『源氏物語 上』(河出書房新社)を刊行。来年5月に『源氏物語 中』が刊行される。

■この記事は、2017年12月12日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。

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