川島蓉子のひとむすび

<34>桐島かれんさんが伝える、人生の幸せ。「ハウス オブ ロータス」(前編)

  • 文 川島蓉子 写真 鈴木愛子
  • 2018年1月24日

桐島かれんさん

 表参道の交差点近く、通りを一本入った静かなエリアに、瀟洒(しょうしゃ)な一軒家がたたずんでいます。ここは、桐島かれんさんがクリエーティブディレクターを務め、昨年12月16日にオープンした「ハウス オブ ロータス 青山店」。白い壁に明るいブルーのよろい戸が並び、エレガントで無国籍な風情が漂っています。

 建物を囲んでいる白いアーチ状の塀には、幾何柄の穴が簾(すだれ)のようにたくさん開けられ、植物の葉がのぞいています。門から入り口へは深いブルーグリーンのタイルが組み木のように敷かれ、コロニアルな雰囲気を感じさせます。中に入ると、大小の窓やテラスがあって、明るく開放的。

屋外に通じるテラス風の空間。異国のテントにいるかのような気分になります

 桐島さんは、若い頃からモデルやミュージシャンとして活躍した後、写真家である上田義彦さんと結婚し、4人のお子さんを育てながら「ハウス オブ ロータス」をここまでにしてきました。正直言って、お会いする前は少し緊張しましたが、お目にかかってみると、エレガントな空気をしっかりまといながら、明快でサバサバした語り口が心地よい。すっかりリラックスして話すことができました。

「旅好きの母(作家の桐島洋子さん)に連れられ、子どもの頃から世界を巡り歩いてきた中で、異国の手工芸品や民具、雑貨に惹(ひ)かれました。数々の手仕事には、民族の歴史と魂がこもっていてすてきなものばかり。それを紹介できたらうれしいと思ったのです」

 そう話す桐島さんが、当初から掲げているコンセプトは「Happiness of Life」。これは「日常の中で美しいと思える時間」であり、「日々の暮らしの中で『感動』や『よろこび』を感じていただけるような場所でありたい」ということ。

「ひと目ぼれして手に入れて持ち帰ったものは、自分にとってはミュージアム・ピースのように価値があるものばかり。そんな宝がひとつひとつ集まり、暮らしを豊かに彩ってくれます。好きなものだけに囲まれて生きるほど幸せなことはありません」

 さまざまな国を訪れてきた桐島さんが、その地の文化と触れながら培ってきた美意識や哲学を、「装う」「暮らす」「もてなす」という三つの切り口で表現し、伝える場が「ハウス オブ ロータス」です。

中央にある大きなテーブルの上には雑貨が。周囲を巡りながら、あれこれ手に取って、選ぶ時間も楽しいひとときです

 1階はバッグやカゴ、クッション、ルームシューズ、食器、カトラリー、文房具、玩具など、さまざまな雑貨が盛りだくさんで、アジアのバザールのよう。装飾的な彫り物が施されたアンティーク家具の上に、ポーチ類やアクセサリー、オーナメントなどが置いてあります。

 テラスには、天井から植物の鉢や、商品でもあるカゴがつってあり、床やベンチには、ラグやクッションが。さらに奥にあるカウンター付きキッチンのそばには、ティーセットや器類、カトラリーなどが並んでいて、一軒家を巡っていくような造りになっています。

暮らしの中に、カラフルなもの、手作りのものがあるだけで、気持ちがくつろげるのでは。カゴやバッグをつる収納の仕方もありと思いました

 特徴的なのは、いずれも色使いがカラフルで、塗りや編みなど、どこかに手仕事が施されていること。シンプルモダンというより、ちょっとキッチュだったりユーモラスだったり、独自の装飾が施されているのです。

 ボタンやチロリアンテープ、タッセルなどは、難しい手芸に凝らなくても、手持ちの服やトートバッグにつけてみようとか、動物をかたどった鉛筆は、ペン立ての中に入れておいたら楽しそうとか、あれこれ想像が広がります。

 そして、誰かがどこかで慈しみながら作ってくれた、温かさや思いが感じ取れるのが良いところ。それも日本に限らず、世界共通のものであることが伝わってきます。

カラフルなタッセルを、バッグやカゴに付けると、まったく違う顔つきに変わります。わが家では、ドアノブやクローゼットの取っ手に付けることも

ふっと笑みが浮かぶようなデザインのバスケット。ダイニングにフルーツを入れておくのも似合いそう

 そして、この魅力の源には、実用品としての機能や合理的な使い勝手だけにこだわっていない、そんなところにあるのではと思い及びました。暮らしの中にあって、気持ちをなごませ、ゆるませてくれるのは、一見すると無駄と思えるようなところに宿っている――大きめの編みカゴに雑誌を入れたり、部屋の一隅にお気に入りの人形を並べておいたり、そういう工夫や装飾が、気持ちを豊かにしてくれると感じたのです。

 「カワイイもの」「ステキなもの」を探し求める旅を続けてきた桐島さんは、そういったものが減ってきていることに気づいたといいます。
 「世の中からいずれは消え失せてしまうかもしれないものを見つけ出して守りながら、今の暮らしに生かし、未来につなげていくのが私の役割かもしれません」
 という言葉に、潔い力強さを感じました。

ハイウエストでふわっと広がるシルエットの服は、いくつになっても憧れるもののひとつ。シルクの軽さとつややかさが気分を彩ってくれます

 2階は、服を中心に、ストールやバッグなどが置かれています。桐島さんが考える「こころとからだを解放する、心地よい装い」を表現したもので、ふんだんにギャザーが入ったヴィヴィッドなシルクワンピースや、細かい刺繍(ししゅう)がびっしり施されたチャイナ風のジャケット、民族独自の織りが美しいストールなどが置いてあります。

 並んでいる服やアクセサリーは、どれも一見すると派手で装飾的なのですが、実際、身に着けてみると、かたちがシンプルだったり、素材使いがさりげなかったり、主張し過ぎず、着る人の個性を引き立たせてくれる。しかも、着ている自分がリラックスできるものばかり。
 「本質的なぜいたくさや豊かさは、繊細な刺繍、美しい染めや織りの中に、たくさん見いだすことができるのでは」という桐島さんのお話に、大きくうなずくところがありました。

 次回は、そんなブランドを桐島さんがビジネスとしてどのようにここまで育ててきたのか、青山店を通してその先の何を見つめているのか、さらにお話を聞いてみます。

■ハウス オブ ロータス青山店
 東京都港区南青山3-18-4 1・2F



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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

川島蓉子

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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