このパンがすごい!

名古屋の名物パンが東京に上陸! 挽きたての小麦が行列を誘う/バゲットラビット

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年2月20日

■バゲットラビット 自由が丘店(東京)

 名古屋の雄、バゲットラビットが、2018年2月2日、東京・自由が丘に進出した。

 名古屋と同じだ。まるで美術品でもあるかのようにうやうやしく飾られた4種類のバゲット、売り場を埋め尽くす人だかり、そして、鎮座した大きな石臼。

 三重県産ニシノカオリを店内で自家製粉し、さまざまなパンに配合。挽(ひ)きたてのフレッシュな香りを味わうことができる。そのひとつがブール。名古屋では1日300個を売る名物パン。110%以上(対粉比。通常は約70%)という驚異的な水分量を誇る。人呼んで「食べられる鞠(まり)」。上の歯と下の歯の間でぽわんぽわん弾んでは、ふにゃーんと溶ける。このもちもち感、快速の口溶けが、食べづらいイメージのある地粉を大人気パンに引き上げた。

月替わりブール「フランボワーズとチョコのブール」

 古井戸和憲シェフの師は、国産小麦のパイオニアと謳われる故・高橋幸夫(名店ブノワトン(現在は閉店))さん。挽きたての地粉に取り組むのは師匠の遺志を継いでいるのだ。高橋さんが人生を懸けたのは、巨費を投じて建設した製粉プラント「ミルパワージャパン」で挽く湘南小麦。石臼をゆっくりと大事に挽くことで小麦の風味を逃さず粉にする。

 湘南小麦のふすま(小麦の皮の部分)を配合した、自由が丘限定の食パンが、自由が丘ワンローフ。まるで小麦の花だ。なによりかぐわしい、湘南小麦の香り。癖もなく忍び足で鼻腔(びこう)に入ってきて、中で花開くように華やかに広がる。もっちりとして、少しねっちりと歯につき、ふわっと舌の上でほどけては、しゅるっと溶けていく。ふすまの香ばしさと、はちみつの香りが繊細に響き合う。そしてあくまで嫌みなく。後味では、もう一種配合された北海道産小麦が活(い)きて、お米のようなでんぷん質の風味が広がる。

 「本当、のびなくて」と古井戸さんは苦笑する。

 ふすまの粒はグルテン(パンの構造の元になるたんぱく質)ののびを邪魔する。長時間の発酵でボリュームを出すほか、ふすまを蜂蜜や水あめといっしょにぐつぐつ煮ることでやわらかくし、甘さも引き出す。そして、他のパンと同様、手にくっついて成形しづらいほど水分をたくさんふくませ、小麦の風味と食べやすさを奇跡的に共存させるのだ。

 食パン売り場には「やわらかいので、形が変わっております」という旨の注意書き。角食パンも、多量の水分によるやわらかさで自重を支えられず、食パンの上辺が下カーブを描いていた。それは食欲をそそりこそすれ、少しも傷ではない。挽きたての自家製全粒粉から木のようなさわやかな香りがやってくるとともに、発酵のいい香りはすーっと鼻に抜ける。中身においては、ふわりとしたエアリーさと、もっちりした弾力が同居してスポンジのよう。溶ければ小麦が甘く、それでいて、舌にまとわらない軽さがある。

 古井戸シェフが、素材の持ち味を引き出し、絶妙の相性で組み合わせるのは、他の食材でも同様。自由が丘限定の、柿とピーカンナッツのライ麦パン。乾いた皮はローストしたくるみのように香ばしく、ピーカンナッツとかつてなかったような響き合いを見せる。オーガニック富有柿の甘い汁のしたたりは、ライ麦の香り、小麦の甘さとめくるめくようだ。

コーンパン断面

 あるいは、コーンパン。誰もがそそられる、この断面。ぽよんぽよんした、加水の多い生地にコーン。ちゅるちゅる溶けて麦のジュースになって、コーンの粒々から弾け飛ぶコーンの汁と合流、たまらない甘さが喉を流れ下る。熟成を尽くした皮の渋い香りと旨味は、まるで焼きとうもろこしにおける醤油のように、コーンをおいしく味付けする。

 ミル(臼)の文化が日本を元気にする。小麦の粒を丸ごと食べれば、ミネラルや食物繊維も多くとれるし、挽きたての麦は香り高く、脂肪分が酸化することもない。ミルによって小麦畑とパン屋、あるいは家庭が直接つながっていく。そんな未来をバゲットラビットの活況は予告している。

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■バゲットラビット 自由が丘店
東京都目黒区自由が丘1-16-14 プルメリア自由が丘 1F
03-6421-1208
9:00〜20:00
火・水曜休み
http://baguette-rabbit.com/

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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写真

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