パリの外国ごはん

通いたい店、一気にベスト3入り。ベトナム料理「Lao Viet」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年3月6日

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。食への飽くなき興味のもと、二人して調べまくり、質問しまくり、味見しまくり……。今回は、いきなり早くも本連載ベスト3入りの太鼓判が押された、ベトナム料理です。

  

  

  

 最寄駅のPorte d’Ivryから中華街に続くavenue d’Ivryへは向かわず、トラムの走っている大通りを、お店なんて一軒も無さそうな方向へ歩いて行く。本当にこっちで合っているかな? と不安に思い始めたころ、お店に到着した。

 駅からは歩いて5分ほど。小雨の降り続ける好天ではない中、店内は満席だ。先に着いていた万央里ちゃんの姿を探すと、いちばん奥の席に座っていた。ここは彼女が前から「一度連れて行きたい」と言ってくれていたベトナム料理店。彼女の家からは1時間もかかるのに、わざわざ足を運ぶという。一歩入ると、そこはナチュラルに少しセピア色で、旅先にワープしたような感覚になった。

  

 店員さんがメニューを持ってきてくれた。表紙からすでになにやら個性を放っている。もとから渋めな色合いが褪せて、レトロな雰囲気だ。中を開くと、自分たちのところで作った料理を撮影した、と分かる写真が料理名とともに並んでいた。ページをめくれど料理写真は続き、最後の料理にふられた品番は179。18ページもあった。途中、写真は無しで料理名だけ記載された箇所も若干あったけれど、それでも2時間くらい眺めていられそうなメニューだ。

 「うわぁ、なんかいっぱいあるね~」と喜びの声を上げると、「他では見たことのない料理が結構あるんだよ。でもね、あっこちゃんに食べて欲しいのがひとつあってね。焼きなすがあるんだけど……」と万央里ちゃんが言うので、ページをめくって探す。「本当にシンプルな焼きなすなんだけど、すごくおいしかったの。あと、その上にある青菜炒めもおいしかった」。じゃあその二つは取ろう!と決定。

アジア料理に行くと悩ましいのは……

 そこから、選ぶのはそんなに簡単じゃなかった。食欲を刺激する料理がいくつも目に付く。ミント、コリアンダーと一緒にレタスで包んで食べるらしいラオス風チャーハンや、チキンのバジル炒めがごはんに乗ったもの、バインセオもこちらのはひと味違いそうだし、とキリがない。アジア料理の店に行って悩ましいのは、ごはんと麺の両方が食べたくなること。粉ものにも惹かれる。炭水化物欲が盛り上がり、この日も大いに悩んだ。

 「カレーっぽいのが食べたい」と言っていた万央里ちゃんは最終的に、トム・カーカイ(鶏のココナッツスープ)ともち米を頼むと決めたようだ。ならば、お米のものじゃないほうが良いな、とパッタイの幅広バージョンのような焼き米麺を取ることにした。

 オーダーをすると、万央里ちゃんイチ押しのなすの一品はもうやっていない、と言われる。残念~。代わりに、「様子を見て追加しよう!」と話していた、目玉焼きにひき肉炒めとピリ辛ソースのかかった、見るからにごはんの友として抜群であろうひと皿を注文。それにカイラン(青菜)炒め、スープ、もち米、米麺。店内は相変わらずぎっちりいっぱいで、隣のテーブルの人たちが帰って行き空いたのも束の間、またすぐに次のお客さんが案内されてきた。

  

 まず最初に登場したのはカイラン炒め。これには干したさきイカのようなものが入っていて、いい味を出しているという。たしかに、イカの出汁がよく出ていた。カイランの茎の太い部分は斜めに切ってあり、シャキシャキしながらも口当たりが良い。ニンニクがみじん切りではなく、潰した粒のまま入っているのも個人的にはポイントが高かった。おしょうゆにちょっと甘みのある味付けで、コクはあるけれどさっぱりしている。

  

 続いて運ばれてきたのは卵だ。上に、赤ピーマンとひき肉の炒めものがかかっている。これもやっぱりおしょうゆベースの味。ただ、甘みはさっきと違って、シーズニングソースだろうか。卵は、目玉焼きというより高温でさっと火を通した感じの“フライドエッグ”。そおっとよそわないと割れてしまいそうで、だからそおっと慎重にしたのに見事に割れた。もとのお皿に流れ出た黄身をレンゲですくい、ごはんにかける。バジルが効いていておいしい。

  

 そしてスープ。鶏肉はぶつ切りのことが多い気がするが、こちらではそぎ切り。それで食べやすく、おいしさを増している気がした。お砂糖ではなく、赤タマネギから溶け出した甘みが全体に感じられる。優しい甘みでクリーミーで、もち米とよくあった。

  

 最後に幅広米麺が出てきた。もっちもちでどんぐりの粉でも入っていそうだ。麺自体にボリューム感があり、食べ始めると途端におなかが張った。そりゃそうだ、その前にもち米も食べている。でも、もうおなかいっぱい! と思うのに後を引く味で、麺の食感も楽しくて、ついつい食べてしまう。それでちょびちょび食べ続けていたら、シイタケのような味を感じた。

 それを伝えると万央里ちゃんが「あ~、シイタケじょうゆ使ってるのかもね」と聞き捨てならないことを言った。シイタケじょうゆ? そんなのあるの?? と聞くと、sauce aux champignons (きのこ風味のソース)なるものがあるらしい。へぇ~、知らなかったなぁ、そんな調味料があるのか。この麺は、しょうゆの他にオイスターソースも使われている気がしたけれど、そのシイタケしょうゆも入っているのかも。だとしたら、うまみ三重奏だな。

  

 カイラン炒め、卵、米麺と3品ともおしょうゆベースの味なのに、味の印象はそれぞれ異なっていて、そしてどれもコクがありさっぱりしていた。ほかのお料理もおいしいに違いない。このお店、この連載で訪れた中で、通いたい店ベスト3に一気に躍り出た気がする。いろいろ試したいから、次回は4、5人で夜に行きたいなぁ。

  

Lao Viet
24, boulevard Massena 75013 Paris
01 45 84 05 43
12時15分~15時、18時30分~22時
火休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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