鎌倉から、ものがたり。

鎌倉駅から徒歩25分の自由。イオタ・デリ カフェ

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2018年3月9日

 前回、紹介した鎌倉・二階堂の「moguRa(モグラ)食堂」。そこから荏柄天神参道の梅並木を抜けて、県道204号を報国寺方面に10分ほど歩く。8世紀の創建と伝えられる杉本寺を超えた先に、カジュアルなたたずまいのイオタ・デリ カフェがある。

 モグラ食堂のたかはしまみさんの息子さん、タカハシショウヘイさんが、友人のミュージシャン、石谷泰樹さんと、昨年11月に開いた。入り口が道路に向かって開かれ、その横にはウッドデッキ。ピザとお惣菜(そうざい)を中心にしたオープンな店だが、それだけではない。週に2、3回は音楽ライブを催し、2階はベビーヨガなど、地域の人たちが集まる催しに提供する。そんなコミュニティ機能を持たせたスペースなのだ。

 タカハシさんは、鎌倉生まれの鎌倉育ち。絵を描くことが好きで、20歳の時に美術好きな仲間と、若い芸術家が集まるカフェを池袋に開いた。そこで「場づくり」の面白さに目覚め、5年後になじみ深い鎌倉で、モグラ食堂を開くことになった。

「別に地元愛というわけではなく、母に居場所を作ってあげよう、と思ったから。そうしたら、その店に妹まで居ついちゃった(笑)」

 モグラ食堂では昼の時間帯を母のまみさん、妹のめいやさんが、夜の時間帯をタカハシさんが担当。夜はライブを入れ、アルコールも出して、昼とはまた違う雰囲気で回していた。

 そのライブでたびたび演奏を担っていたのが、小学校の同級生だった石谷さんだった。石谷さんとは、「ミュージシャンやアーティストが気軽に集まれる店をやりたい」と、話が盛り上がり、そこから今度は「イオタ」のプロジェクトがスタート。当初は、鎌倉駅の近くを想定していたが、結果は駅から徒歩25分という今の場所に落ち着いた。

 「遠いかな、とは思ったのですが、石谷くんが、こっちの方がのんびりしていていいよ、といったから、それもそうだなって」

 自在な生き方は、横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校時代に受けた、自由な教育によるところが大きい。遠足は子どもたちだけで現地集合。教科書を使わず、児童の自主性と好奇心を優先する校風で、それが自分の性格に合っていた。「ほっんと、自由で、何でもやらせてもらいましたよ」と、傍らの石谷さんも”証言”する。

 鎌倉で最初に開いたモグラ食堂は、横国大付属小のすぐ近く。デリのお惣菜やピザには、鎌倉野菜をはじめ、小坪や佐島の魚など地域産のものを積極的に使う。それは、やはり地元への思いがあるから?

「いえ、そういうのはなくて、食材については、ただ『おいしい』から。あ、ここで地元愛っていえば、『ものがたり』になるんですかね?」

 屈託はないけれど、単純ではない。安易な展開にもっていかないところに、芯の強さを感じさせる。

「こだわりがないように映るかもしれませんが、その部分も実はこだわりなんです。ただ、店の立地に関しては、こだわり過ぎるよりも、偶然の出会いに身をゆだねてみる方が面白いんじゃないか、と。その場所で出会える人は、違う場所でやっていたら出会えなかったかもしれない。そう思うと、出会いが大切になるし、飲む酒もうまくなると思うのです」

 店のお客さんが途切れると、タカハシさんと石谷さんはデッキでしばし日なたぼっこ。その前を下校途中の小学生たちが、大きな笑い声をあげて通りすぎる。その楽しげな姿に、20年前のふたりも、こんなんだったんだろうな、とイメージが重なる。

 「ここは飲食店というよりは、地域密着の場。子どもたちと一緒にちょっとピザを食べにくる。ベビーヨガに来たついでに、ランチを食べていく。小腹が空いた時に、300円のつまみで、ワインやコーヒーを1杯飲んでいく。そのくらいの気軽なベースになればいいなと思いながら、やっています。まだまだ発展途上なんですけどね」

 若い世代が、元からある建物を使って、さらっと地域のベースを作る。そのようなアクションを鎌倉の古い町並みが、支えている。

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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

写真

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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