上間常正 @モード

ベテランが作る服のリアルな確かさ 2018秋冬東京コレクション

  • 上間常正
  • 2018年4月13日

ヒロココシノ(いずれも2018年秋冬東京コレクションより、撮影・大原広和氏)

 ファッションの動きを知るためには、ブランドが春夏、秋冬物と年に2回、ショーや展示会の形で一斉に開く新作発表をウォッチしておく必要がある。なるべく多くのブランドを見ようと思うのだが、多くの事情にかまけてなかなかそうもいかない。とはいえ、ずっと見続けてきたベテランのブランドはなんとか都合をつけて優先的に見てしまう。

 義理という理由もあるのだが、ベテランが作る服には長く続けてきた意志の強さや感性の高さ、また経験が培った服の完成度の高さがある。そして、ことさらの新しさや創造力よりも着る人(デザイナー本人も含めて)への配慮が行き届いているからだ。トレンドへの目配りもさりげなく効いている。

 東京発のリアルクローズ・ブランドが若い世代の学生や会社員のための服だとすれば、こちらは大人の女性に向けたリアルクローズといえるだろう。値段はそれなりに高いが、着心地やファッション性では値段以上の差があって、長く着ることもできる。今年秋冬の東京コレクションから、こうしたベテランの新作をいくつか選んでみると……。

 久しぶりに見たヒロココシノのショーは、入念な構成で見応えがあった。まず淡いグレーの単純なストライプ柄を横や縦に、また斜めにも組み合わせてそれが多様な模様に変化する。さらに襟や袖、スカートの裾などのパーツが大型になって立体化してボリューム感を増し、色や素材の変化も加わって目を楽しませる。

 次のモチーフはタンポポと夜空の星。ストライプが抽象的な幾何学柄なのに対して、タンポポや星は有機的な自然を感じさせる。空に浮かぶたくさんの小さな星は、植物という生き物が再生のために放った種子のようにも思えた。

 有機的な自然と抽象柄とのこうした組み合わせは、このブランドの和とモダンの融合という一貫した特徴といってもいいのだろう。複雑なはずの構成を軽やかでシンプルな形で見せるのはベテランならではの確かな技と経験の力なのだ。

トクコ・プルミエヴォル

 デビュー30周年を迎えた前田徳子のトクコ・プルミエヴォルは、活動拠点のパリをテーマにした楽しいショーだった。エッフェル塔やセーヌ川、美術館などをモチーフに、鮮やかな色彩と大胆な柄模様の小粋な服が並んだ。会場には主な支持層の熟年の客が目立つが、若い世代の女性も多かった。違う年代が一緒に楽しめるのがこのブランドの特徴で、それは服に力があるからだ。

ユキ トリイ インターナショナル

 相変わらず小粋でシック、かつ若さを失わないユキトリイ。タータンチェックのジャケットとヒョウ柄のブラウス、ファーとツイードのスカートといった異なる要素を組み合わせて、華やかだが落ち着いた服を見せた。後半の渋い色使いのロマンチックな花柄のコートやドレスも、心をふと和ませるような温かさを感じさせた。

タエ アシダ

 デザイナーがもう少し若いタエ アシダは、赤と黒のエッジの効いたやや男性的なスーツスタイルなどで力強い女性像を表現した。また「FLY LIKE BIRDS」「SING LIKE WIND」とレザーに刺繍(ししゅう)でレタリングしたリボン飾りのメッセージも印象的だった。とはいえ父親である芦田淳(ジュン アシダ)譲りの上質なエレガンスは、ほかのブランドでは出せない格別の味わいがある。

 四つのブランドに共通するのは、デザイナーが自分も着たい服だということだろう。そこには長く服を作りながら時代と共に生きてきた現実的な生活感覚や体験の積み重ねが込められている。どのブランドにも共通するエレガンスの香りは、そうしたことに裏打ちされている、と言ってよいだろう。

 これだけのレベルのブランドがいくつもあるのは、パリやミラノ以外にはほとんどないのだ。

PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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