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<89>本と植物をつなぎたい 「弥生坂 緑の本棚」

  • 文 吉川明子 写真 石野明子
  • 2018年5月10日

 東京メトロ・千代田線根津駅から、東京大学農学部キャンパス方面に向かう弥生坂。坂道を上る途中に突然現れる小さな店が「弥生坂 緑の本棚」だ。

 軒先には箱に詰められた古本や多肉植物などが雑然と置かれている。古本の背表紙につい視線を奪われ、足を止めてしまう。ついでだからと店内に入ってみる。中央に鎮座するのは大きく生い茂ったヤシの木。まわりを囲むようにディスプレーされた本は植物に関するものばかりだ。

「約5000冊ある本のうち2000冊は植物に関するものを揃(そろ)えています。でも、幅広い人に来てほしいので、小説や漫画、実用書など品揃(ぞろ)えは幅広いですよ」

 代表の綱島則光さん(52)は、約30年間花屋で働き、2016年2月にこの店をオープンさせた。コンセプトはズバリ“本と植物”。読書好きだった綱島さんは、仕事が忙しくなるにつれ、いつしか本が遠ざかっていった。一方、生業としていた花屋は年々需要が減り、先行きの不安を感じていたという。そんな時、ハードカバーの本をくりぬいて鉢植え代わりにし、そこに植物を植えたオブジェを見て、「本と植物をつなぐ仕事をしてみたい」と思うようになった。

 花屋で働きつつ、集めた古本をインターネットで販売してみたり、「ブックカフェ開業講座」に参加したり、と下準備はしてきたつもりだが、オープン当初は「こんなに売れないものなのか!」と、驚きを隠せなかった。しかし、緑あふれる空間で本を選ぶ楽しさや、カフェですごすひとときを少しでも多くの人に味わってほしいという気持ちに揺らぎはなかった。確かに“本と植物”の組み合わせの心地よさは、店に入った途端に実感できる。

「本当はもっと店内のグリーンを増やしたいのですが、湿気が多すぎてしまうと本が傷んでしまうので……。実は本とは相性がよくないんですよね(笑)」

 しかしながら綱島さんは植物のプロ。エアープランツや多肉植物を多めに揃(そろ)えることで、“本と植物”の共存のバランスを取っている。値札の付いた植物は購入可能で、綱島さんの育て方アドバイス付きだ。

「エアープランツは水やりがなくてもいい、と思われているようですが、霧吹きなどで水をやって管理しないと枯れてしまいますよ」

 実はこの店、気づかれにくいのだが、奥の方にカフェスペースがある。店内を進むにつれて通路のように狭まっていくが、気にせず直進すると、緑に彩られた静かな空間にたどり着ける。そこはまるでオアシス。

 メニューを開いてみると、「骨付きチキンカレー」などのしっかりしたフードメニューからスイーツ、ドリンク類まで幅広く揃っているのがうれしい。ところで、メニューでやたらと目につく(グラパラリーフ付き)とは?

「これは食用の多肉植物なんです。うちの店らしさ、ということで、いろんなメニューに取り入れています」

 見た目は多肉植物の葉のよう。口に入れてみると、サクサクとした食感とみずみずしさが感じられ、ほんのりとした酸味もある。舌でも“植物”を堪能できるのは、確かにこの店ならではだろう。

 オープンから2年が過ぎ、根津の地に少しずつ定着している同店。多忙な花屋を辞めてゆっくり読書できるかと思いきや、一人で店を切り盛りしているため、結局のところ読書からは遠ざかったままだという綱島さん。しかし、さまざまなイベントを開催したり、客の反応をみながらメニューを開発したりと、日々の変化を楽しみつつ、“本と植物”のある空間を育んでいる。

「本と植物は相性がよくないと言いましたが、本は何年も残るものですし、植物も育てれば長く生き続けます。案外似ているところがあるんじゃないでしょうか」

■おすすめの3冊

『House "n" Landscape』(発行/もじゃハウスプロダクツ)
京都のランドスケープデザイン&建築設計事務所「もじゃハウスプロダクツ」が制作している、緑と共に生きる家をテーマにしたリトルプレス。「植物に関するリトルプレスがあれば、店で扱うようにしていて、これもその一つ。樹木医でもある建築士さんが作っているこのリトルプレスは、植物好きには魅力的な家がたくさん載っています。植物と共存し、一緒に生きていくところがすてきなんです」

『イモヅル』(発行/藤田一樹)
「サツマイモと、人と、本のまわり」をテーマにした自費出版のリトルプレス。ここまでよくイモについて掘り下げられるものだ! と新鮮な驚きに満ちた一冊。「このVol.3には、幼稚園や保育園の秋の定番行事であるいも掘り遠足がいつ、どのように始まったかを深掘りした記事があります。そこには想像以上の深みがあるのですが、ぜひ本書で確かめてみて」

『捨てるな、うまいタネ』(著/藤田雅矢)
いつもは何げなく捨てているリンゴやスイカ、アボカドの種。もしこれをまいてみたらどうなるのか? そんな夢をサポートしてくれる実用的な一冊。「種の中には命が詰まっています。まいた種の育て方だけじゃなくて、命のはじまりとしての種の存在を再確認できます。著者の藤田さんをお招きして、イベントをしたこともありますよ」

    ◇

弥生坂 緑の本棚
東京都文京区弥生2-17-12野津第2ビル 1F
https://midorinohondana.com/
写真特集はこちら

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