パリの外国ごはん

あ~また戻ってきたいなぁ。インドネシア料理「Indonésia」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年5月15日

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は、インドネシア料理。以前、バリ島に住んでいたことがある室田さんのために、川村さんが見つけたお店です。

  

  

  

 前々回、イラン料理を食べに行ったのは完全に私のリクエストだったから、今度は逆に、万央里ちゃんの行ってみたいお店に行けると良いよなぁと考えていて、ひとつ思いついたことがあった。“そういえば、インドネシア料理食べたいって言わないなぁ”と。彼女はバリ島に住んでいたことがあって、とても好きな場所だったよね……そう思い、パリにあるインドネシア料理店を探してみると、とても数が少ない。それでも1軒、良さそうなお店を見つけた。

 「サテ、食べてなくない?」と、その名も“インドネシア(フランス語発音だとアンドネジア)”というレストランについて書かれた記事を送ると、「明日インドネシア了解です」とお返事が届いて、翌日さっそく行くことになる。

 リュクサンブール公園にほど近いヴォージラール通り沿いに、その店はあった。少し奥まって控えめな入り口。店内は奥に長細く、アジアを感じるしつらえではあるけれどコテコテではなくて、落ち着いた印象だ。

メインは、スズキをバナナの葉で包んで蒸したもの

 メニューには、インドネシア語の料理名とその料理の出自である地名、そして細かな説明がフランス語で書かれていた。私は大学1年のときにバリ島へ一度行ったきりで、覚えているのはナシゴレンとミーゴレン、それにサテくらい。インドネシアの料理はからきしわからない。ヴィーガン、ベジタリアンと記されたものもいくつかあり、それは万央里ちゃんにお任せすることにして、それ以外の料理について順に読み込む。

 簡単に、サテと思っていたけれど、前菜にあるサテの説明は「挽いたコリアンダーと甘みのある醤油でマリネした鶏肉の串焼き、ピーナッツバターとちょっぴり辛いタマリンドのソース」。これ以上ないくらいに丁寧だ。私が思い描くサテの味と違うかもしれないなぁと思って、前菜に頼むことにした。メインは、スズキをバナナの葉で包んで蒸したものに決める。

 ランチは前菜+メイン、もしくはメイン+デザートで14ユーロ。前菜・メイン・デザートと取ると16ユーロ。良心的だ。

前菜「挽いたコリアンダーと甘みのある醤油でマリネした鶏肉の串焼き、ピーナッツバターとちょっぴり辛いタマリンドのソース」

 出てきた前菜は、潔かった。楕円形の皿に、ひと串。でもそのひと串に、説明にあった味付けが説明と同じくらい丁寧に施されていることが、十分に察せられる風貌をしていた。食べてみて、やっぱり~、と思う。私が思い浮かべていたサテはピーナッツの味に包まれたものだ。でもそうではなかった。ピーナッツバターの味はそこまで目立たなくて、それよりも甘じょうゆが前面に出た、お弁当のおかずにしたいような味付けだ。

 みたらし団子のタレとまでは言わないけれど、とろ~っと加減がお団子にまとわせてもおいしそう。たったひと串だったから余計にそう感じたのか、やっつけ仕事で作った印象をまるで受けない串焼きで、大切に食べた。

お豆腐と野菜のガドガド

 万央里ちゃんが注文したガドガドは、お豆腐と野菜に、サテと同じソースがかかったもの。このソースだったらベジタリアンでも食べ応えがある。そして食欲を刺激する。

スズキをバナナの葉で包んで蒸したメイン料理

 メインでは、ユネスコの無形文化遺産に指定されているらしいルンダン・パダンという牛肉のココナッツ煮込みと、カルダモンにシナモンも入った仔羊のカレーにも大いに惹かれた。だけどこの日は“バナナの葉で蒸した”ことに気持ちが持って行かれたのだ。くるんと巻いて楊枝で止められた葉を広げると、切り身のお魚の上にレモングラス、ネギ、ライムの葉が散らしてあった。

 これは、とても味が優しそうだ。添えてあるタレを少しかけて食べてみる。きゅうりのキューちゃんの漬け汁によく似た馴染みある味で、懐かしささえ覚えた。スズキは香味野菜の香りがほのかについていたからそのままで食べたくて、むしろこのタレはそのままちょんちょんとごはんにかけて食べたいくらいだった。

ベジタリアン対応のメインには、テンペを使っている

 一方でヴィーガンプレートを頼んだ万央里ちゃんは、テンペに喜びを弾けさせていた。テンペというのは大豆を発酵させて固めたもので、彼女がバリにいたときによく食べていたのだそうだ。味見をさせてもらうと、なんて言うんでしょうね、ぴかーんと引き込まれる味ではなかった。主張する味は特に無い。のだけれど、あんまり味のはっきりしないチーズのような、毎日食べていたらいつの間にかなくてはならない存在になっていそうな気がした。そう思わせたのは食感かなぁ。いずれにしても、また食べてみたい。

バナナの葉に包んで蒸して作るフラン(左)と、バリ風クレープ

 ピーナッツバターでガツンとおなかがいっぱいになるのではないかと思っていたのが、想像していたよりずっとライトだったので、デザートも食べることにした。ひとつはバリ風クレープ。バナナの葉に包んで蒸して作るフランがあるというので、それも注文。

バナナの皮を開くと、中にはバナナが入った、くず餅のような色のフランが

 マダムが2皿をテーブルに置いたとき、実は2人とも一瞬止まった。この緑の色はすごいな……。はなっから自然な色とは思わずに食べた。でも、ココナッツのすり身をくるんだクレープは目に見えるものしか入っていない素朴な味でおいしい。バナナの皮を開いたら、くず餅のような色のフランがぷりんと顔を見せた。中にはバナナが入っている。ココナッツミルクの味がするフランはこれまた疲れが和らぐ優しい味だ。

バリ風クレープ。驚くような緑色の秘密は……

 「どうやってこのお店を知ったの?」と聞いてきたマダムに、逆にこちらから質問を投げかける。フランの生地の正体はタピオカ粉。クレープ生地の緑は、パンダンの葉の色によるらしい。確かにメニューに、パンダンの葉と書いてあった。

 店で出しているものはすべて手作りで、いまサービスをしているマダムが以前は厨房に立っていたそうだ。「もともと、インドネシアの政治的亡命者が働ける場所としてオープンした店と書かれた記事を読みました」と伝えると、「そうなのよ。35年前に。実際に働くのもそうだけれど、フランスで生活するにあたりどういうことを知っておくべきか、という文化的な違いを伝える役割もあったの」と教えてくれた。インドネシア以外の出身の人たちもやってきては働いて、それぞれの道に進んで行ったという。

 パリにはこんな、あ~ここはまた戻ってきたいなぁと思うフランス語もあまり通じない外国ごはんのお店がいくつもあるけれど、ここもそんな1軒だった。マダムに(こちらのマダムはフランス語が話せた)、お料理教室をぜひ開催してほしい!と2人でリクエストして帰って来た。

  

Indonésia(アンドネジア)
12, rue de Vaugirard 75006 Paris
01 43 25 70 22
12時~14時30分、19時~22時30分
日曜休み


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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

川村明子

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

室田万央里

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

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無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
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