たすかる料理

按田餃子の、餃子以外の名物「ラゲーライス」

  • 按田優子 写真・鈴木陽介
  • 2018年6月4日

「按田餃子」の按田優子さんの本『たすかる料理』から、たすかる自炊のコツをご紹介します。三つめは按田餃子名物、「ラゲーライス」の作り方です。

    ◇

按田餃子は当初15時から営業をしていましたが、ランチをやってみようということになり、餃子以外にも名物を作ろうという話になりました。まず鈴木さんのリクエストを聞いてみました。鈴木さんは、ランチ時に食べるものにもこだわりがあるようで、「片手で食べられて、カレーライスのように一皿で完結していて、熱すぎなくてお腹がいっぱいになるけど眠くならないもの」という要望がきました。

ならば、私は金針菜とキクラゲは入れたいと言いました。すると、すぐに「それはラゲーライスだねー」と返ってきたので、ラゲーライスとやらの名にふさわしい面構えの料理にしました。ハト麦と同じで、みんなにもぜひ食べてもらいたいと思って、一皿のなかに金針菜とキクラゲの一日に食べてもらいたい量を入れられるようにレシピを組み立てようと思いました。それらは、母に食事を作るようになってとても身近な存在になったからです。

でも、それだけでは完結した一皿にはならないので、茄でた塊の豚肉を料理の柱にしました。チチャロンの途中で寄り道してラゲーライスを作ろうと思ったのです。というわけ で、按田鮫子の一日は豚肉を茄でることからはじまります。この肉を、茶碗の底に調味料と一緒に潜ませて漬物と生姜をのせたら豚そぼろ飯のできあがり。また、豚肉を茄でると おのずと茄で汁が残ります。それを定食につけるスープや麺類のスープにしています。

茄でた豚肉と茄で汁で作ったスープが同じテンポで使われていくように茄でる水分量を計算しています。そういう計算が大好きです。そんなことを気にしないでおいしい肉と茄で汁を作ることだけに専念したらよいのかもしれませんが、肉ばかり余った、茄で汁ばかり余ったなど、オペレーションが乱れることによって、働くスタッフが緊張して余計なことを考えながら調理をしなくてはならないことのほうが、結局のところおいしくできないのではないか?とも思います。

お店では80点を保つ工夫をしています。作っていて楽しくて、おいしそうだな、と思う余裕を持ちながら働いてほしいのです。ラゲーライスを生み出したことによって、お店の料理の考え方や味の軸が立ったのは、幸運でした。そして、おいしくできてホッとしました。何せ、ランチ営業をしようと思っていた2日前に、味もオペレーションも同時に完成したのです。もし、ラゲーライスが生まれなかったら、今頃つぶれていたかもしれません。危ないところでした。

というわけで、ある日スタッフが「ラゲーライスは中国でなんてオーダーすればいいんですか?」と訊かれて、たいそう困っていましたが、中国にはありません。何かの料理の模倣ではないのです。豚肉、キクラゲ、金針菜、ハト麦。これらが入っているのがラゲーライスの定義です。

調理法、調味料の種類や加えるタイミング、使う具材にはいちいち自分なりの理屈があります。それは母のための食事を作りながら経験した、食べ物による体調の変化が元になっています。自分の中に湧いてきた、自分が作ったものを食べて元気になってほしいという切実な気持ちを食材の分量に翻訳して、お店仕様に整えた結果です。

<鈴木陽介> なかなかベストな食事を見つけられない。だからお昼ご飯を決めるのは難しい、と常々思っているのですが、そのなかでもカレーライスは不思議と食べたくなる回数が多い気がします(僕だけかなあ)。味もそうなんだけど、あの形状がお昼どきの慌ただしさ(わりといつも暇ですが)によいというか、一皿で完結していてスプーンで食べる感じがいいんです。

でも高校生だったらまだしも、毎日ガブガブとカレーライスを食べていけるほどの強い胃袋を持っているわけでもなく、何かカレーライスのような形状で体に優しい、健康的なものをメニューにできないか、と按田さんに相談したのがラゲーライスのはじまりでした。

キクラゲと豚肉を煮込んだものをご飯にかけて食べる。黒酢を横に置いて、疲れている時は多めにかけるなど、体調によってかける量を調節しながらスプーンで食べる。作り方とか細かいことを僕はよく知らないけども、テトリスで言うとまさか落ちてくるとは思わない欲していた複雑なかたちのピースが落ちてきて、僕の体にバシッとハマったわけであります。この説明だとわからないと思いますのでぜひ按田鮫子に食べに来てください。

◎レシピ[ラゲーライス]

柔らかく煮た塊の豚肉と玉ねぎ、戻した金針菜とキクラゲを少しの水で煮る。玉ねぎに火が通ればできあがり、という風に簡単な作り方に落とし込むのに、学生時代の吉野家でのアルバイトが役に立ちました。味つけは、塩と醤油をお好みで。ご飯と煮込みをお皿によそったら、口の中のペーハーに注意しながら、黒砂糖、黒酢、生姜の細切り、などを駆使してバシッとはまる味を探してみてくださいませ。

BOOK

『たすかる料理』

『たすかる料理』(リトルモア)
按田優子 著 鈴木陽介 写真

自炊はわがままでいい。台所にしばられず、自分らしく食べて、生きるには?
東京・代々木上原で行列の絶えない「按田餃子」のしなやかな生活のすすめ。

「按田餃子」は、水餃子をメインにした小さな飲食店。女性がひとりでも入りやすく、キャッチコピーは「助けたい包みたい按田餃子でございます」。

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PROFILE

按田優子(あんだ・ゆうこ)

菓子・パン製造、乾物料理店などを経て独立。その土地の気候を生かした保存食に興味があります。かつて仕事でペルーのアマゾンを訪れること6回。餃子屋を開くなんて夢にも思いませんでした。

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