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<90>水タバコから会話が始まる 「いわしくらぶ東京」

  • 文・吉川明子 写真・石野明子
  • 2018年5月24日

 JR中央・総武線水道橋駅西口から東京ドームを背にして歩くこと1分。雑居ビルの3階に「いわしくらぶ東京」はある。三方向に窓があり、とても明るくて心地良い店内。ソファには何人かの先客が思い思いにくつろいでいた。

「この風景、どこかで見たことがある!」と、真っ先に思い浮かんだのは学生時代の部室だった。放課後、校舎の一角に向かうと、そこには必ず誰かがいる。雑談をしたり、おやつを食べたり、机に突っ伏して寝たり――。部活動をやっていた人には伝わるのではないかと思うが、ここには部室のようなまったりとした雰囲気が漂っている。ただし、ここは部室とは決定的に違う。みんな、時折白い煙をくゆらせているからだ。中東圏で一般的なシーシャ(水タバコ)だ。

 シーシャとは、フレーバー(香り)が付けられたタバコの葉を加熱し、出た煙を水に通して吸うというもの。約30種類のフレーバーがあり、「メロン」「バナナ」「チョコレート」といったおいしそうなものから、「コーヒー」「ウィスキー」「テキーラサンライズ」などの飲み物系までさまざまだ。1回1500円で、約1時間半味わえる。友達とシェアすることも可能だ。

 シーシャを吸っていると、気になるのは隣の人のフレーバー。「それ、何の味ですか?」「吸ってみます?」と、見知らぬ人との会話が始まり、いつの間にか店に居合わせた全員が車座になって会話が盛り上がるのも、ここではよくある光景。

「ここはシーシャカフェではあるのですが、僕はコミュニティカフェだと思っています」

 そう話すのは、昨年5月に同店をオープンさせた代表の磯川大地さん(29)。店の歴史をさかのぼると、2012年4月に、磯川さんの出身地である北海道北見市に「いわしくらぶ」を作ったのがはじまりだ。

 さらにさかのぼって、磯川さんが北見市内の高校に通っていた頃のこと。松下幸之助の自伝を読み、小学校を中退して一代で世界的企業をつくりあげた生き様に感銘を受けたという。

「学歴はいらないと思って、高校を中退して東京に飛び出したんです」

 東京・江戸川区にある書店「読書のすすめ」に押しかけで弟子入りをした。この店は、夜になると学生、実業家、学者などさまざまな人たちが集まるサロン的な役割を果たしており、そこに魅力を感じたからだ。2年間の“修行”時代、磯川さんは下北沢にあるシーシャ専門店によく通っていた。

「地方から出てきたよそ者には、都会に入り込むすきがないんです。シーシャを介すると、隣の人としゃべれるようになるので」

 2年後に一旦北見に戻った時、地元にもサロン的な居場所を作りたいと考えた。それが「いわしくらぶ」だった。

「“いわし”の由来は、ニュースで北海道のいわし漁を見ていたから(笑)。理由は後付けですが、いわしは小魚の群れで泳ぎ、成長すれば回遊するようになります。だからここに集まった人がいろんな場所で面白いことができるようになればと今は思っています」

 磯川さん自身が東京にも拠点を作りたいという思いがあってできたのがこの店。口コミで評判が広がり、20~30代を中心に、少しずつコミュニティができつつある。店内で自由に閲覧できる本棚には、新たなビジネスを興した人による体験をつづった本など、ビジネス系のものが多いことからも、単なるコミュニケーションの場というよりは、起業やフリーランスといった働き方に関心がある人が集まってきていることがうかがえる。

 磯川さんは現在、東京と北見に加え、網走で3軒目のカフェ出店計画を進めている。それと同時に、香港や深セン、シンガポールなどのアジア各地にも足を運んでいる。

「カフェ運営以外にもやりたいことが多くて。日本の文化を輸出するための拠点を海外に作ってみたいんです。いわしの回遊基地を増やすような感じかも」

 それと同じくらい、「いわしくらぶ」の運営を大切にしているのは、自身が「読書のすすめ」やシーシャカフェといったコミュニティの場で育てられたという自覚があるからだという。

「サロンに人が集まり、人が人に知恵を授けたり、刺激し合あったりする。民間の生きた実学を授ける場ってすごくいいなと思うんです」

■おすすめの3冊

『俄(にわか) 浪華遊侠伝』(著/司馬遼太郎)
舞台は大坂、度胸と愛嬌(あいきょう)を併せ持つ侠客(きょうかく)の視点から幕末を描いた物語。「『読書のすすめ』にいた時、人から『商人をするならこれを読め』と勧められました。『小説?』と驚きましたが、生き様を背中から学ばせてもらったような読後感。この本から、“覚悟”の大切さを教えてもらった気がします」

『マイパブリックとグランドレベル─今日からはじめるまちづくり』(著/田中元子)
個人が積極的に関わることでつくられる公共空間(パブリックスペース)のあり方についてさまざまな角度からとらえた一冊。「グランドレベルとはビルなどの1階のこと。道路に面しているここをどうデザインするか? そこが交差点となってどうまちづくりをするか? といったことがわかる一冊です。僕がいま網走に作っている店は1階にあり、コインランドリーのあるカフェなので、この本もすごく参考になりました」

『お金のいらない国』(著/長島龍人)
突然、お金のない国に来てしまった主人公。そこに暮らす人々の価値観と生活ぶりにはじめはとまどうが、次第に共感を覚える――。「これも小説です。お金がないから対価が支払われない。そのかわり、労働など他のもので支払う。小さなサロンである『いわしくらぶ』でも、お金以外の対価で成り立っていることがいくつもあります。そういう価値観が垣間見える一冊です」

    ◇

Book & Shishaいわしくらぶ東京店
東京都千代田区三崎町2-19-4 矢嶋ビル3F
https://iwashiclub.com/
写真特集はこちら

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