相棒と私

夏川結衣さん「その人が存在してくれているだけで、安心して仕事と向き合える」

  • 文 坂口さゆり 写真 馬場磨貴
  • 2018年6月5日

  

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただく連載。
多くの俳優が出演したいと望む山田洋次監督作品。俳優・夏川結衣さんにとって、公開中の「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」は5本目の山田作品となる。そんな夏川さんが相棒に挙げてくれたのは、山田監督と40年以上ずっと映画を作り続け、「耳」で山田作品を支え続けてきた録音技師の岸田和美さんだ。

   ◇

私:夏川結衣
相棒:岸田和美(録音技師)

「あくまで私が岸田さんを勝手に相棒と思っているだけで、ご本人に申し上げたことはありません。もちろん私のことをどう思っていらっしゃるかも伺ったことはありません。ご迷惑をお掛けしたら申し訳ありませんので……」

そう断った上で、夏川さんは語り始めた。

初めて岸田さんに出会ったのは、2011年10月に放送されたテレビドラマ「幸福の黄色いハンカチ」(日テレ系)だった。山田洋次監督の名作映画のドラマ化で、脚本・監修を山田監督自ら担当。録音は岸田さんが担当した。

「岸田さんにごあいさつした時から違和感がなかったんです。年齢もキャリアも違いますが、気が合うというか、私自身、無理せずにいられました」

その後、夏川さんは「東京家族」で初めて山田監督作品に出演。「小さいおうち」「家族はつらいよ」シリーズ3作の計5作で岸田さんを含む山田組で仕事をしてきた。

録音技師の岸田和美さん

録音技師は、俳優の声の調子を聞き分ける。何カットもカメラを回せば俳優の声が微妙に変化するし、俳優の体調に問題があれば声が変わることもある。撮影現場で耳を澄ませ、最終的な演技のOKを出すのも録音技師の役割。俳優にとってセリフをきちんと録音してもらうことは、映画を成立させる上でもとても重要なことなのだ。

「山田監督はきちんと台詞(せりふ)を言うように指導されます。私は滑舌も良くないし、熊本県出身なのでアクセントが気になります。そんな時、『どうでした?』と岸田さんに尋ねると、正直に答えてくださる。私の台詞がきちんと伝わっているか、岸田さんは明確にジャッジしてくださるんです。本当はそうじゃないかもしれませんが、岸田さんの『大丈夫』という言葉にホッとします。私は岸田さんがいなかったら困ったと思います。『家族はつらいよ』はシリーズを追うごとにキャストの皆さんが身近になっているようにスタッフもそうです。岸田さんには、アイコンタクトで通じ合えるほど信頼感があります。それも『東京家族』からご一緒させていただいたからこそだと思います」

そんな山田監督の撮影現場は「厳しい」と夏川さん。撮影時間は朝9時から夕方5時、6時ごろまでと、まるで定時退社の会社員みたいだが、撮影中は山田監督からの厳しいご指導を受けて、撮影が終わっても、ご飯を食べに行く気もしなくなるほどヘトヘトに。「早く帰ってお風呂に入って寝なければ」という気持ちになるそうだ。

監督が厳しいのは俳優だけではない。スタッフにも真剣にぶつかる。みな良い作品を作るために集まっていて誰もが真剣勝負。そんな現場にはかなりの「緊張感と一体感」が張り詰めている。

撮影現場では休憩時間など、自然と俳優さん同士が集まる場や、スタッフさん同士が集まる場が出来上がるが、山田作品で夏川さんの居場所となっているのが「岸田さんを含む録音チーム」の場だ。

「普段は俳優が集まっている場か、1人でいることが多い。でも、山田組ではシリーズ1から録音チームに自分の居場所を間借りする時間がどんどん長くなっています。今や8割くらい。私がそこにいることを当たり前のようにしていただいています。蒼井優さんや美術さんも言っていますが、録音チームに流れる気がすごくいい。それを作り出しているのが岸田さんなのだと思います。私はそこにいると撮影で張り詰めていた緊張がほぐれる。自分を取り戻す作業ができるんです」

  

自分の居場所探しが必要なのは、この時代、俳優だけではないだろう。

その人が存在してくれているだけで、安心して仕事と向き合える――。自分の居場所を見つけた夏川さんにとっての岸田さんのような“相棒"は、きっと誰もが手に入れたい存在に違いない。

   ◇

夏川結衣(なつかわ ゆい)
熊本県出身。モデルを経て「空がこんなに青いわけがない」(93年)で映画デビュー。映画初主演の「夜がまた来る」(94年)で、ヨコハマ映画祭「最優秀新人女優賞」を受賞。テレビドラマ「青い鳥」「結婚できない男」など数々の話題作に出演。映画「孤高のメス」(2010年)で日本アカデミー賞助演女優賞を獲得。その他映画出演作に「歩いても 歩いても」(08年)、「64―ロクヨン―前編/後編」(16年)など多数 。

映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」

映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」
映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」

山田洋次監督が家族を描く人気シリーズ第3弾。「熟年離婚」「無縁社会」に続き、第3作のテーマは「主婦への讃歌」だ。
今回中心となるのは、3世代で暮らす平田家で、家事を切り盛りする史枝(夏川結衣)。コツコツ貯めてきたへそくりを泥棒に盗まれたことから、夫・幸之助(西村まさ彦)にへそくりがバレてしまう。散々嫌味を言われた彼女はついに堪忍袋の緒が切れて家出。平田家の暮らしは大混乱に……。

監督・原作:山田洋次 出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優ほか。全国公開中

詳細は、http://kazoku-tsuraiyo.jp/

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