花のない花屋

あと何回、元気なうちに会えるんだろう……遠く離れた地に住む母へ

  • 花 東信、写真 椎木俊介
  • 2018年6月7日

  

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〈依頼人プロフィール〉
須田紀和子さん 54歳 女性
アメリカ・ボストン在住
音楽家

    ◇

 私は27年前に日本で出会ったアメリカ人の夫と結婚し、1歳にもならない娘とボストンに移り住みました。

 移住前の何年かは、気の強い母と私はお互いにいろいろな問題を抱え、ほとんど会うこともなく話もしない状態でした。両親もお互い問題があり、彼らは別居状態だったようです。ずっとあとで知ったのですが、当時母は家を出てからというもの、しばらく住み込みで働いたそうです。私が東京で出産したときに来てくれましたが、以前は洋裁などをしておしゃれな母だったのに、みすばらしい姿だったのを見て、ショックを受けたのを覚えています。

 娘が生まれてからも、しばらく私の心は溶けないままでした。3歳の七五三のお祝いで、「娘に着せた着物を孫娘にも着せたい」という母の希望で初めて里帰りしたときから、ようやく少しずつ二人の溝が埋まっていきました。

 今になって思えば、初孫にもなかなか会える機会がなく、母には寂しい思いをさせたかもしれません。

 昨年80歳を迎えた母は、今は同じ敷地内で弟二人と住んでいます。何年か前に下半身に大火傷を負ってからは、後遺症で歩くのもだんだんと難しくなってしまいました。

 とはいえ、長く続けている趣味の押し花のお稽古や作品展は続けており、お友達との交流を楽しんでいるようです。押し花アートの先生は河口湖に住んでおり、毎月一回高速バスでそこまで行って稽古を受けています。30年以上続けている押し花アートは芸術の域に達していて、花、木の幹、野菜、鳥の羽など身近な自然を使って絵画のような作品を作っています。昨年の夏は、いろいろな技法や素材を使って、富士山の作品を作っていました。

 そこで、そんな母に、身の回りやふつうの花屋さんではみつからないような花をたくさん使い、花束を作っていただけないでしょうか。母は花を楽しんだあとに、押し花にするはずです。元気なうちに、ぜひ珍しい花や葉を使ってたくさん作品を作ってほしいです。

 娘は今年、ボーイフレンドと日本旅行をする予定で、私も来年は夫と里帰りをするつもりです。今後、あと何回元気なうちに会えるんだろうと思うと、悲しい気持ちにもなります。東さんが創造する花束を贈り、遠くからですが、少しでも親孝行できたらと思います。

 お願いいたします。

花のない花屋

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PROFILE

東信(あずま・まこと)フラワーアーティスト

写真

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。http://azumamakoto.com

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