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<91>小説の中の料理がカフェメニューに 「STORY STORY」

  • 文 吉川明子 写真=山本倫子
  • 2018年6月7日

 小田急百貨店新宿店本館10階にある「STORY STORY」。真っ白くてオブジェのような店名サインの近くにはたくさんの雑貨が並べられ、左手にはカフェがある。でもよく見ると、雑貨の隣や、カフェのカウンターなどに本が飾られており、店の奥に進むにつれ、本棚が増えていく。

 同店のコンセプトは、「『私』、編集空間。」。

 “本×雑貨×カフェ”を掲げ、『私』の人生を彩る、さまざまなシーンに沿った情報やアイテムを見つけ、自由に編集できるというものだ。本、雑貨、カフェはシームレスに配され、自由に行き来できるようになっている。

 気になっていた文庫本と雑貨を手に取り、レジに向かう。「カバーは何色になさいますか?」と聞かれた時、書店好きなら「ここ、有隣堂だったの?」と気づいて驚くに違いない。首都圏で展開する書店・有隣堂では10色の文庫本カラーカバーを用意しており、そのサービスはここでも健在なのだ。

「新宿という立地もありますが、女性が6割と、他の有隣堂とは客層が違います。それに加えて、ここでは他店にはない新たなチャレンジをしています」

 そう話すのは副店長の宇野浩一さん。美術画廊や文房具売場などが揃(そろ)う百貨店のカルチャーフロアの一角という場所を活かし、書店という枠組みを超えたブックカフェをオープンさせたのは2015年4月のこと。有隣堂としては初の試みで、試行錯誤の連続。テーマを決めて雑貨やさまざまな書籍を展開する「フェア」を考えるのも、一苦労という。

「新宿には書店がたくさんありますし、わざわざ百貨店内の10階で新刊だけを売るのは難しいと考えました。それに、奥行きのある空間なので、奥に入っていただくためのしかけづくりが必要でした」(宇野さん)

 通路に面した手前には「くまのプーさん」の商品を集めた棚や、コーヒードリッパーや豆、コーヒーの本が同居する棚、アクセサリーのショーケースなどが混在。そのごちゃごちゃとしたにぎわいが楽しくて、どんどん奥へと進んでしまうのは、まさにお店の“思うツボ”。気になる本を見つけたら、カフェへ。3冊までなら購入前の本を持ち込むことができる。カフェを取り仕切っているのは、中沢智沙さんだ。長年、書店員として働き続けてきた。

「同じ会社とは思えず、まるで転職したみたいでした! 小説に出てくる料理を再現したメニューを開発したり、雑貨やキャラクターとのコラボを考えたりと驚きの連続です。あと、一人で動くことが多い書店員と違って、カフェはスタッフ同士の連携が必要なので、そこも新鮮ですね」(中沢さん)

 小説にちなんだフードメニューには『ランチのアッコちゃん』(柚木麻子)の「東京ポトフ」や、『ファミレス』(重松清)の「気合いのナポリタン」など、物語を読んだことがある人なら、きっと「食べたい!」と思ったものが揃っている。

 そして、中沢さんと宇野さんが一番驚いたのは、昨夏に開催した、「くまのプーさん」の商品の販売促進を目的としたイベント。「はちみつカフェ」と称して、さまざまなメニューを用意したところ、最大で6時間待ちになるほどの人気を集めたのだ。

「はちみつかけ放題の4枚重ねのパンケーキと、森をイメージしたサラダのプレートは大人気で、インスタグラムにもたくさんアップされました」(中沢さん)

 ただ新刊を並べるだけではなく、趣向を凝らしたコラボイベントや、テーマを決めた棚の展開に手応えを感じるようになるまで、オープンから2年の歳月を要したという。

「最近では、出版社や取引先の注目度の高まりを感じており、さまざまなご提案をいただくことが多くなりました」(宇野さん)

 訪れるたびに本や雑貨の配置が変わっており、本にちなんだ多彩なカフェメニューが味わえる。新宿に行ったら必ず立ち寄りたい場所が一つ増えた。

■おすすめの3冊

『小さな家の暮らし』(著/柳本あかね)
 30㎡に夫婦二人暮らし。著者史上いちばん小さな家に暮らして、見つけた楽しみと驚きの工夫が詰まった一冊。「飯田橋にある『茜夜』の店主で日本茶インストラクターの柳本さんの暮らしぶりが素敵なので、その世界観を表現したフェア棚を展開しています。雑貨や暮らしにまつわる他の書籍も集めましたので、ぜひ遊びにきてください」(宇野さん=以下同)

『愛蔵版 モリー先生との火曜日』(著/ミッチ・アルボム、訳/別宮貞徳)
 スポーツコラムニストとして活躍する著者は、偶然テレビで大学時代の恩師・モリー先生の姿を見かける。難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されていた先生と16年ぶりに再会したことがきっかけで、毎週火曜日に「人生の意味」について“授業”を受けることになる――。「ALS患者となった先生が、それに悲嘆することなく、人生の楽しさについて教えてくれるのですが、その一つひとつに心打たれます」

『あなたの人生の科学 上/下』(著/デイヴィッド・ブルックス、訳/夏目大)
 脳科学や発達心理学の発展により、無意識の選択が人生に大きな影響を及ぼすことが明らかになりつつある。ある架空の男女の一生をたどりながら、意思決定のしくみを解明する。「生きているといろんな出会いや縁がありますが、それらが実はどういった意味を持つのかを科学的な側面から見ているところがとても興味深くて面白いんです」

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STORY STORY
東京都新宿区西新宿1-1-3 小田急百貨店新宿店 本館10F
http://www.yurindo.co.jp/storystory/
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