上間常正 @モード

ファッションと「一帯一路」 中国現代ファッションの大きな可能性

  • 上間常正
  • 2018年6月8日

 経済発展が続く中国は、世界の高級ブランドの新たな巨大マーケットとしても注目されている。ブランド製品の下請け生産地から消費国へと脱皮する中で、ファッションへの関心や理解も高まっていて、ファッション関連の雑誌やネットサイトなどが活発なファッション報道を展開している。最近はパリやミラノのコレクションで活躍する中国人モデルの姿も見かけるようになった。

 では、ファッションの発信についてはどうなのか? 中国にはどんなデザイナーがいて、中国の人々は国産のどんな服を着ているのだろうか。東京・虎ノ門の中国文化センターで6日から15日まで開かれている「シルクの記憶――中国ファッション30年の歩み展」は、そんな問いに応える多くの興味深い情報を与えてくれる。

「展示作品より」

 今回の展覧会は日中平和友好条約締結40周年、中国の改革開放40周年を記念して、中国の中外文化交流中心(センター)などが主催して開かれた。中国では改革開放以後の経済発展によって、ファッションも急速に発展して新しいスタイルが次々と生まれているという。

 会場には、中国のトップレベルのベテラン、中堅、若手の各世代のデザイナーらの作品30点がデザイン画と共に展示されている。全体の印象としてはかなり作り込んだオートクチュールのようなロングドレスが目立つ。長いトレーン(スカートの後ろの部分の裾)や複雑なドレープ、リボン飾りなどの確かな手業の仕事ぶりは力作といえるだろう。

「展示作品より」

 しかし、現代のパリ・オートクチュールと比べるとデザイン的な完成度、現代的な感覚では太刀打ちできるようなレベルではないと言わざるを得ない。中国での西洋服の歴史の短さから言えば仕方ないことなのだが、とはいえ素材のシルクの上質さや刺繡(ししゅう)の技術、色使いなどには中国の長い伝統の重みが感じとれる。伝統文化の重みといえば、パリの伝統文化はそれこそ全く太刀打ちできない、とも言えるのだ。

 初日の6日には、日本の若手デザイナーとも協力した新作のファッションショーが開かれた。こちらは展示作よりもっとシンプルなデザインの服なのだが、やはり中国独自の伝統を何とか表現しようとの意識、そしてそれを何とか現代的に表現しようとの思いで肩に力が入り過ぎているとの印象が否めなかった。そうした思いは大切なことだが、こだわり過ぎるのは見る方にはおうおうにして退屈に映ってしまう。

「ショーの作品より」

 しかし、中国のデザイナーの「こだわり過ぎ」を突き抜けた先には、行き詰まってきた西欧中心の現代ファッションを大きく変革させるような強い力が秘められているようにも思える。世界の服飾文化の歴史の中で見れば、パリ中心の近代ファッションはとても変わった変種で、しかもそれがグローバル化してしまったことは異常な事態だともいえるからだ。

 主催者側のあいさつでは「一帯一路」の言葉が使われ、「古くからシルクロードを通しての東西文化の交流が、文明の発展に大きな影響を及ぼしてきた」とコメント。この交流をもう一度見直して、今後の新しい発展を探ろうとの提案なのだろう。「シルクの記憶」というタイトルにはその狙いが込められている。この提案を中国の覇権拡大策との見方もあるが、もっと柔軟に受け止めてみる必要はある。

  

 「一帯一路」は東アジアからインド、西アジアから東欧までの多様で広大な地域が含まれている。それと比較すれば西欧文化圏はユーラシア大陸の狭い地域に過ぎない。日本はその西欧文化圏の中で遅れてスタートして、結果的にはとにかくかなり成功し、“名誉白人”のような地位を得た。しかし主力メンバーには決してなれないのだ。

 ファッションの世界でも、日本のデザイナーは大きな影響力を与えた。しかしそれはあくまでも異端の前衛派として。その影響で出てきたアントワープやオランドのデザイナーたちと違って、どんなに実力があってもパリやミラノの老舗ブランドのデザイナーには決して起用されなかった。

 考えてみれば、日本は西欧文化圏でも「一帯一路」圏でも、その端の辺境に位置している。どうせ端っこならどちらにつく方が、プレーヤーとしての活躍の可能性がよりあるだろうか。ここらで改めて考えてみる必要がある。その意味では、中国のファッションの今後の展開に注目しつつ日本がどうかかわるかを考えていかなければいけないと思う。

シルクの記憶——中国ファッション30年の歩み展
期日:2018/06/06(水) 〜 2018/06/15(金) 
時間:10:30〜17:30(初日は15時から、最終日は13時まで)
会場:中国文化センター
お問い合わせ:03-6402-8168
https://www.ccctok.com/

PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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