パリの外国ごはん

美人餃子と、主張しない北京ダック。化学調味料不使用「Le Petit Pékin」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年6月12日

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は2人が「こういう中華、ほかにどこかあっただろうか?」「今まで食べた中で一、二を争う餃子(ぎょうざ)!」と絶賛のお店です。さて、その理由は……?

  

  

  

10区のパルマンティエ大通りを歩くたびに気になるお店があった。おそらく前はカフェだったのだろう、ビールメーカーの看板を残したまま赤い庇(ひさし)が取り付けられていて、端に小さくLe Petit Pékinと白で店名が書かれている。れんがの壁にアジアっぽいちょうちん型のランプがつるされ、中華料理店ぽくない内装にアジアのインテリアのアンバランスさが目を引いた。

ガラス扉には白い紙がペラっと貼ってあった。近づくとそれがメニューだった。前菜2品、餃子が3種類、生麺が2種類。その、A4普通紙にプリントアウトしただけのメニューに、オープンしたばっかりなのかな?と思った。品数の少なさに潔さを感じ、なんかこのお店面白そうだぞ、そう思いメニューの写真を撮った。それが2017年の9月。

「グルタミン不使用を保証します」

前回ご紹介したポーランド総菜店に行ったときに「この近くに気になってる中華があるんだよね」と万央里ちゃんに話した。すぐ近くだから歩いて行ってみない? とサンドイッチを食べた後に向かうと、ガラス扉に貼られた紙は2枚に増えている。

あれ? 餃子と麺だけじゃなくなってる。ほんの少しがっかりしたけれど、バリエーションが豊かになったお料理がこれまた興味深い。下に太字で、「グルタミン不使用を保証します」とあった。万央里ちゃんはベジタリアンものに惹(ひ)かれたようだ。「今度ここ来たい」「じゃあ次回来よう」そうして10日後に訪れた。

メニューを改めて見て、前菜にあるカボチャのポタージュ以外、全部食べてみたかった。麺と餃子は必ずや試したい。このお店の春巻きはおいしそうな気がするし、前菜にあるウズラもも肉の塩コショウ風味にも惹かれた。だけれど、断トツでこれは!と思ったのが、自家製辛味ソーセージだ。餃子は12個か6個で選べたので、6個にしてお料理も一品取ろう、ということになった。

なかなか決められず、注文を取りにきたお母さんにアドバイスを求める。いろいろと説明してくれる中で、いちばんシンプルに「鴨は、おいしいよ」と簡潔に言い切った北京ダックに決めた。ソーセージと鴨、麺は万央里ちゃん希望のベジタリアン、すでにお肉は十分あるから餃子もベジタリアンにしよう、ということになった。

ピリっと刺激的な自家製ソーセージ

まず出てきたソーセージは、みっちりぎゅぎゅっと詰まっていて、ふだんビールはまったく飲まないくせに、これはビールだなーと思った。お肉はひいているのではなくて手で切っているというだけあり、みっちり詰まっていても、硬くはない。山椒(サンショウ)がかなり効いていて、ハッカのあめをなめたみたいにスーッとする。メニューの説明書きに、山椒は花椒と緑山椒を2種類使っているとあった。それに唐辛子も加えているらしい。横に添えられた枝豆も辛みがついていて、お皿全体がなかなかスパイシーだ。

春雨がたっぷり詰まった餃子

対して、すぐに出てきた餃子は口の中がほっと休まる味だった。たっぷりの春雨に、にんじん、きくらげ、豆腐が混ぜ込んであり、お醤油ベースの優しい味付けがされている。その具を包む皮も、手作りだと感じられる、分厚すぎず適度な厚みでパクパクいける食べやすさ。12個頼んでもよかったかもしれない。

ベジタリアンヌードル

ちょうどよいタイミングで運ばれてきた麺には、錦糸(きんし)卵がたっぷり乗っていた。具として、3種のきのこ炒め、とあったけれど、油っけはほとんどない。野菜だしにきのこの風味で、香りからしてほっとする味だ。具に隠れた麺を引き上げると、グレーがかっていた。

麺はグレーがかっていた

よくよく見ると黒っぽい粒つぶがあるから、何かを練りこんでいるのだろう。きのこかなぁ。おいしいねぇ、と食べていて何か聞くのをすっかり忘れていた。この麺もまた表面が平らではなく、ねじれがあって手作りを感じるもので、コシもありかつ滑らかで口当たりがとてもいい。こういう麺を食べると、自分でも麺を打ちたくなる。お肉と野菜が具のバージョンも食べてみたい。

手作り感満載の北京ダック

最後に運ばれた北京ダックに、実はソーセージ以上にホクホクした。こんなに素朴な、どうだー! って言っていない北京ダックは初めてだったから。北京ダックって、たとえ庶民的なお店でもいつも花形で、どうだー! とお皿ごと言っている気がする。この鴨は、もうおうちで食べる感覚で、お茶わんを取り皿代わりにごはんの上に乗せて食べるのがぴったりだった。なんならはじめからごはんに乗せて出してきてくれてもいいくらい。

何がそう思わせるのだろうなぁと思ったけれど、麺のスープもおだしのきいた優しい味で、総じて味が、おうちのごはんなのだ。もし近所に住んでいたら、病み上がりにでも食べに行きたくなるかもしれない。こういう中華、ほかにどこかあっただろうか? 少し前に、6区にあった、まったく化学調味料を使わない満州料理屋さんが閉店してしまったから、これだけそういったものに頼らず作っている中華は、ほかに今のところ思い当たらない。ほんと、近所にあったらなぁ。遠くても行くけれど。

不思議な味のデザート

ひとつだけオチがあった。おなかに余裕があったから、デザートも頼むことにした。メニューにun printemps à partagerと、訳すなら“共有する春”となんだかロマンチックなものがあった。中国語名は可分享的春文。伝統的なデザートらしい。それで頼んでみたのだ。グリーンピースとライムにアガベシロップの組み合わせとは書いてあったけれど、いささかライムが唐突な印象の、面白いものだった。

赤いシンプルな庇のル・プティ・ペキャン

Le Petit Pékin(ル・プティ・ペキャン)
162, avenue Parmentier 75010 Paris
09 50 59 95 34
12時~14時30分、19時~22時30分
日曜休み


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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

川村明子

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

室田万央里

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

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無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
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