ものはうたう

幅広い作風の秘密。木工作家山口和宏さんの木皿 平澤まりこさん

  • 文・小澤典代、写真・篠塚ようこ
  • 2018年6月19日

 もののある暮らし、ものと生きていく。誰しも日々のなかで、多かれ少なかれものと関わって生活しています。それらは道具や雑貨、工芸やオブジェなど呼び名も用途も様々あって、毎日繰り返される家事や仕事に役立ったり、ときに気分を上げてくれたり、忘れられない大切な記憶とつながっていたりもします。今回はイラストレーターの平澤まりこさんの、ものと人との深いつながりをお伝えします。

    ◇

 木目を生かした鑿(のみ)の跡が美しい木肌に、焼ゴテで描かれた動物が何とも愛らしい印象を添えている。イラストレーターの平澤まりこさんにとって、木工作家山口和宏さんの木皿は、新たな仕事の扉のような存在になりました。

 山口さんは福岡のうきは市吉井町を拠点に活動し、端正なフォルムの器や日用品が多くの注目を集めています。

 平澤さんは、山口さんと知り合う以前から彼の作品のファンでした。

 「15年ほど前、山口さんのスツールを購入したことがきっかけです。作品からは、真っ直ぐに素材と向き合う素直さを感じています。この皿もそうですが、とてもシンプルだから日々の食卓で気持ちよく使うことができるし、傷がついたり、汚れたりしても、それが味わいとなってどんどん魅力的になるんですよ」

 山口作品に惚れ込んだ平澤さんは、雑誌の取材で製作現場を訪ねるなど交流を重ねていきました。

 「一緒に食事をしたり、親しくしていただくなかで、会う度に学ぶことがたくさんありました。素材には謙虚に向き合いながら、自身が思う美しさや、ものとしての完成度の追求にはとても厳しくて。いつもやさしく穏やかな方ですが、ものづくりへの姿勢には貫き通す強さを感じています」

イラストレーター平澤まりこさん

 実はこの木皿は、山口さんからのオファーで始まった、平澤さんと山口さんによる二人展の作品なのだそうです。

 「この制作には、それまで経験した仕事とは違ったアプローチが必要でした。だから、とても思い出深いものですし、私にとっては、傍にあるだけで日々を楽しくしてくれるものでもあるんです」

 志があるクリエイターの先輩として、山口さんから多くを吸収したと語る平澤さんですが、このコラボレーション作品を手がけるときには戸惑いがあったそう。

 「山口さんの作品は、それだけで完成されているものです。そこに自分が何かプラスすることができるのか、余計なことになりはしないかと、なかなか取りかかることができなくて、そのまま1週間ほど眺めていました。すると次第に、木目から発せられる何かを受け取ることができたんです」

 そのヒントから焼ゴテを使うことを思いついた平澤さん。さまざまな樹木の木っ端で練習を重ねた結果、樹木の香りの違いに触発され図柄のイメージへと結びつきます。

 「木から得たインスピレーションから制作へのスイッチが入り、動物や植物といったモチーフにつながりました。私の絵が加わることで、より人の暮らしが楽しくなるものをつくりたい、という山口さんの言葉からも勇気をもらいました」

 こうして誕生した木皿をきっかけに、コラボレーション作品に意欲的になり、作品に対する考え方がさらに柔軟になったと語る平澤さん。幅広い作風の秘密を垣間見た気がします。

>>【フォトストーリー】平澤まりこさんのその他のコラボレーション作品はこちら

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PROFILE

小澤典代(おざわ・のりよ)

小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に『日本のかご』『一緒に暮らす布』(ともに新潮社)、『金継ぎのすすめ』(誠文堂新光社)などがある。また、ブログ「小澤典代のいろいろ雑記」でも、気になるひと・もの・ことを紹介。
http://blog.fu-chi.main.jp/

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