川島蓉子のひとむすび

<44>女性も泊まりたくなるカプセルホテル「ナインアワーズ」(前編)

  • 川島蓉子
  • 2018年6月20日

「ナインアワーズ赤坂」。グリーンが配されたモダンな建物
Photo: Nacasa & Partners

港区赤坂に、5月1日、“トランジットサービスを提供するカプセルホテル”をうたった「ナインアワーズ赤坂」が登場しました。

“トランジットサービス”とはどういうものなのでしょうか。

「出張や旅行、残業といった、都市における移動の通過地点的な要素を含んでいます」。株式会社ナインアワーズの代表取締役ファウンダーを務める油井啓祐さんは、そう説明してくれました。

必要とされる機能は“リセット”であり、「汗を洗い流す。眠る。身支度するという基本行動に特化して、その三つの機能と品質を追求するサービス」を提供する、ユニークな視点を持ったカプセルホテルと言えます。

「ナインアワーズ」という名は、1h(汗を洗い流す)+7h(眠る)+1h(身支度)=9h(ナインアワーズ)から付したもの。忙しい日々の中で、この三つの要素を快適に済ませることができて、価格に見合った上質さがあるというのですから、利用したい人が多いことは間違いありません。そのニーズに応えようと、「都市生活にジャストフィットする宿泊の機能を備えた、新しい滞在価値を提供する」をうたったカプセルホテルが「ナインアワーズ」です。

白を基調とした意外性のあるカプセルホテルとして登場した京都店
Photo: Nacasa & Partners

京都に第1号店をオープンしたのは2009年のこと。最初に訪れて驚いたのは、いわゆるカプセルホテルのイメージとは、大きくかけ離れていることでした。閉鎖的な空間にカプセル状のベッドがずらり。少しわい雑でごちゃごちゃしていて、清潔感にも安全性にも欠けるところと、勝手に思い込んでいたのです。

ところが「ナインアワーズ」は、清潔感のあるシンプルな空間。すっきりしてモダンな造作、使い勝手がいい機能、リーズナブルな価格設定など、好感の持てる要素がたくさんあるのです。

未来的な雰囲気がするカプセルのデザイン。中は、思いのほか広い感じがします
Photo: 鈴木愛子

いわゆる“カプセル”と呼ばれるところに入ってみると、しつらえてあるのは寝具と照明だけで、テレビをはじめとする、他の機能が付いていないせいもあるのでしょうか、思いのほか、広くてゆったりした心地良さがあるのです。使い手の視点に立ち、プロダクトデザイナーの柴田文江さんが、丁寧に手がけた仕事と感心しました。

館内は、男性フロアと女性フロアにくっきりと分かれていて、エレベーターもシャワールームも別なので、ひょんなところで出会うことは、まずありません。安全性や安心感という意味でも、よくできていると感じました。シャワーやロッカールームへの道筋を伝えるサインもわかりやすい。これはグラフィックデザイナーの廣村正彰さんの仕事で、美しく明快なデザインです。

それまでの私の中には、カプセルホテルは男性専用の特別な場という偏見があり、ちょっと近寄りがたい印象だったのですが、「ナインアワーズ」を取材して、それがガラリと変わったのです。

「ナインアワーズ」は、その後、成田空港や仙台など、さまざまなロケーションで展開してきたのですが、建物や内装のデザインが、その地にフィットしたものになっているのも特徴のひとつです。

外光が入る明るいフロアにカプセルが並んでいます
Photo: 鈴木愛子

その最新版として、今回登場した「赤坂ナインアワーズ」は、竹橋に続いて、建物と内装デザインを、建築家の平田晃久さんが手がけました。建物の随所に大きな窓がしつらえてあって、光や緑、街路をのぞむことができる――開放感があってリラックスできる空間です。

「赤坂という街は、すり鉢状になっている地。高いところに高層建築が、低いところに低層建築があって、地形の高低を建物が強調しているのです。このユニークさを、ホテルの中に流し込むことはできないかと考えました」と平田さん。

ここにいると、窓越しに、街を歩く人たちの気配や様子が感じ取れるのですが、それが煩わしさや落ち着かなさに陥ることなく、街や人と近い温かさみたいなものにつながっているのは、過ごす人たちの気持ちを考えた空間の造りによるところが大きいと感じました。

居心地が良さそうで開放的なコーヒースタンド
Photo: 鈴木愛子

また、入ってすぐのところに、ハンドドリップ専門のコーヒースタンド「GLITCH COFFEE BREWED @9h(グリッチ コーヒー ブリュード アット ナインアワーズ)」が――焙煎(ばいせん)抽出だけでなく、コーヒー豆の産地や農園、品種、精製方法にいたるまで、すべてにこだわっているということで、気軽・手軽にコーヒーがいただけます。最近、こういうコーヒースタンドが増えていて、チェーン店とは一味違う個性を出しているのが好ましいと感じていました。

ここも、カウンター形式のお店が、レセプションのすぐ隣にあって、滞在客もそうでない人も利用することができる。このあたりも、街に向けて開放された雰囲気を出す一助になっているのかもしれません。

今後も「ナインアワーズ」は、「浅草や新大阪など、続々と登場していく予定があって、それぞれ違うコンセプトで取り組んでいきます」と油井さん。「場所から触発されて、それぞれのアイデアが出てくることを楽しんでいます」という発想が、どんなかたちになっていくのかも楽しみです。

次回は、ここまで成長を遂げてきた「ナインアワーズ」の生みの親とも言える油井さんが、なぜこのビジネスを手がけることになったのか、その志とストーリーに触れたいと思います。

■ナインアワーズ赤坂
東京都港区赤坂4-3-14

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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