相棒と私

野村訓市さん「本気で信用してくれる人のために、全力を尽くしたい」

  • 2018年6月20日

野村訓市さん/撮影 DYSK

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただく連載です。今回は、公開中の注目映画「犬ヶ島」でウェス・アンダーソン監督の相棒となって八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を果たしたクリエーター・野村訓市さんにお聞きしました。

 ◇

 私:野村訓市
 相棒:ウェス・アンダーソン(映画監督)

1969年、米・テキサス州生まれ。主な作品に「天才マックスの世界」(98年)、「ザ・ロイヤルテネンバウムズ」(01年)、「ライフ・アクアティック」(04年)、「ファンタスティック Mr.FOX」(09年)、「グランド・ブダペスト・ホテル」(14年)など多数。

外国人が描く日本に、何度となく憤慨したことのある人は少なくないだろう。だが、映画「犬ヶ島」は違った。日本人が考える日本とはちょっと違うにもかかわらず、美術も音楽も含めすべてが楽しい。ワクワクする。

なぜか? それは、スタッフにしっかり“ツボ”を押さえた日本人がいたからだ。

その人が野村訓市さん。ライター、編集者、ラジオパーソナリティー、クリエーターと様々な顔を持つ。

野村さんがウェスと知り合ったのは14年前。ソフィア・コッポラから「友だちが日本に行くから案内してあげて」と紹介され、長年、気の合う友だちとして友情を育んできた。

そんなある日、ウェスから1通のメールが送られてきた。そこには、「日本の映画を作るから手伝ってくれ」とあった。

「僕はウェスの友だちですが、彼の映画ファンでもあるので、『もちろん』と返信しました。以前から彼は『いつか日本で映画を撮りたい』と言っていたので、彼が描く日本をぜひ見たいと思っていたんです。でも、同時に『何を手伝うんだろう? むちゃすることになったら面倒だな』という気持ちもありました(笑)」 

野村さんが担当したのは、原案、キャスティング、声の出演、資料集め、正しく日本を描くためのコンサルタント、望月峯太郎さんとの漫画化、大友克洋さんとのポスター制作……。役割は「雪だるま式に増えていった」と言う。

「最初から『俳優として参加してくれ』とか『原作を一緒に書いてくれ』と決めて参加することになったわけではなく、監督の『相棒』というと聞こえは良いのですが、つまり何でも屋。とにかく『全部見てくれ』といった感じになっていたので、映画のありとあらゆることに目を通しました」

ウェス・アンダーソン監督

どんな仕事を請け負い、どんな責任を負うのか。ウェスから契約の話は一切なかった。にもかかわらず、友だちだから連絡は深夜だろうが明け方だろうが、ひっきりなしに来る。電話会議もプロデューサーがパリ、ウェスがニューヨーク……となれば、時間は米国とヨーロッパの時差が優先。「訓は普段から夜遊んでて寝ないから」で済まされた。

しかし、野村さんには当然自分の仕事があった。

「すごく時間を取られました。あいつらのせいで間違いなく老けましたよ」

そう野村さんは冗談めかして話すが、3年もの間、自分を犠牲にして「犬ヶ島」に尽力した。尋常ではない。そこまでできたのは作品に入れ込んでいたから? すると、「途中からもはや映画をつくりたい、という気持ちはなかったかも」と意外な答えが。ならばなぜ、そんな面倒なことができたのか。

「僕はもともと映画業界の人間ではありません。いくら仲良しとはいえ、自分の本業の大事な企画にそんな人間をふつう信用しますか? 僕にとってはそれが途中から負担でした。でも、だからこそ、その信頼に応えたいと思った。そもそも自分もウェスのファンで、みんなが次回作を期待している。周りが『見たい、見たい』と言うほど、僕の役割がいかに大きいかを自覚していきました。ウェスの期待に応えないということは、ファンたちをがっかりさせることになる。それはやっぱり日本人として、日本映画でしてはいけないこと。そんな妙な使命感がものすごく大きかったと思いますね」

『のに』がつくことはしてはいけません!

そもそもビジネスでは、友人と一緒に仕事をしないほうがいいと言われる。野村さんにもその思いはあった。

「友だちと仕事をすると『ナァナァ』になるし、『してくれると思ったのに』といった甘えが出る。昔から『のに』がつくことはしてはいけません、と母親に言われていましたが(笑)、まさにそこに陥る可能性があった。ただ僕は、自分の会社も友だちと共同でやっているので、友だちが近くにいる心強さといった良いことも知っているつもりです」

自分の全てを尽くして協力する。それができないなら、きちんと契約するか、タイミングを見計らってやめるか。友情とビジネスをはかりにかけるには、「勇気」が必要なのだ。野村さんは覚悟を決めて前者を取った。

その結果、かけがえのないものを得た。

「僕は仕事柄、モノづくりをする人たちと知り合うことが多い。天才的な人たちはみな魅力的ですばらしいんですが、エゴの大きい人もいれば、最初は『あなたがいないとできませんよ』という話をしながら、完成すると『全部自分がつくりました』というような人がごまんといる。でも、ウェスは違いました」

野村訓市さん/撮影 DYSK

ウェスは原案だけでなく、野村さんが担当した仕事をきちんと認め、クレジットさせてほしいと言ってきた。それがどれほど大きなことか、最初はピンと来なかった。だが後に、ハリウッド映画ではクレジットひとつがどれほどキャリアを左右するかを知った。

「人を『信頼する』と言うのは簡単だけど、自分を考えてみても実際には難しい。今回僕は、ウェスが本気で僕を信用していると気づいてしまった。だから、必死になって応えた。でも、映画関係者でもない僕によくぞ大切な仕事を振ったなと思いましたが」

これほどお互いを信用できる関係がうらやましかった。14年という年月が大きいのか。

「長く知っていたから信用する、というようなことはしていないんですよ。大体、会えば酔ってべろんべろんになっちゃうし(笑)。でも僕は、結果的に有名になった人たちをたくさん知っていますが、その関係を利用したことはない。金もうけをしようとしなかったことは大きいんじゃないですか」

友だちになればバーで飲み明かす。得するように買い物のアドバイスをする。相手をハッピーな気持ちにさせることが第一。野村さんには打算がない。

「みんなよこしまなことを結構考えるじゃないですか。でも、誰かと一生の付き合いしようと思ったら、よこしまなことは考えないですよね。僕が考えるよこしまなことは、『お前の大切なレコードコレクションを、どこの媒体にも公開していないことは知っているけど、僕にだけ見せてくれ』というくらいですから(笑)」

(c)2018 Twentieth Century Fox

そんな野村さんの性格を一流のクリエーターであるウェスが見抜けないはずがない。本作は、今年のベルリン国際映画祭で監督賞である銀熊賞に輝いた。映画祭が終わった後、ウェスから届いた感謝のメールに野村さんは思っていたことを打ち明けた。

「訓を信用しているから」と言われていたことがどれほど苦痛で重かったか。監督賞を取ったことでウェスの信用に少しは応えられたかとホッとしていること……。すると、ウェスが「珍しく長いメールを送ってきた」と言う。

『僕は訓をコラボレーター(共同でつくる相棒)として、すべてを見守っていたよ。すごく感謝しているし、お前以上のヤツはいなかった。これからもまた一緒にいろんなところへ行って楽しい時を……』って、まるで僕は子どもか! みたいな内容(笑)。でも、それがすごくうれしかったんです」

信頼しているなら徹底的に尽くす。その姿勢は必ず相手に伝わるのだ。改めて野村さんにとって「相棒」を問うた。

「信用できる人。もし失敗したり裏切られたりしても自分が悪いと思える人。自分がすばらしいと思ったことについて、全く違う角度から話してくれたり、180倍くらいにして返してくれたりする人。そうすると、1人で仕事をする意味はないなって実感できますよね」

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野村訓市(のむら くんいち)
1972年、東京都生まれ。慶応大学在学中から世界を一人旅する。ライター、編集者として数々の媒体に寄稿し、Triptersとしてノースフェイス等の店舗デザインやブランディング、広告を手がける。現在J-WAVEでナビゲーターとしても活躍。

野村訓市さんからのお知らせ

(c)2018 Twentieth Century Fox

「犬ヶ島」 20年後の日本を舞台に、犬ヶ島に追放された愛犬を探す12歳の少年と5匹の犬たちの冒険を描いたストップモーションアニメーション。作られた人形の数は1097体。犬の人形の最大サイズは106.68cm、最少は15mm……とパペットづくりはもちろん、美術や音楽に至る隅々まで監督のこだわりがたっぷり。

監督:ウェス・アンダーソン、声の出演:ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソンほか。全国にて公開中。
(c)2018 Twentieth Century Fox

詳細は こちら

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