長期的視野に立ち、昔ながらの教育を ~甲陽学院中学校・高等学校校長~[PR]

  • 2018年6月15日

甲陽学院中学校・高等学校 今西 昭校長(右)と、鈴木 顕 アエラムック教育編集部副編集長

 これからのリーダーには「しんがり」を務められる資質も必要だと甲陽学院の今西校長は言う。人当りがよく協調性がある生徒が育つ環境の根底にある、長い伝統の中で培われた変わらない甲陽の教育の本質とは。

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一貫教育ならではの自由なカリキュラム

鈴木 この応接室に大きく飾られているのは、高校野球の全国大会優勝旗ですか。

今西 戦前の話ですから大会の名称も「全国中等学校優勝野球大会」ですが、現在の全国高校野球選手権大会の前身ですね。本校はこの大会に計4回出場し、初出場した第9回大会では優勝しています。地元での人気はすごかったようで、立命館との準決勝戦では、本当にスタンドからあふれた観客がグラウンドになだれ落ちたという記事が当時の朝日新聞に載っています(笑)。

鈴木 近年はスポーツよりも大学進学などの学業面で注目されることが多いと思いますが、設立当初から変わらない甲陽学院の教育理念と特色を教えてください。

今西 学院の設立趣旨に「一年の計は穀を植うるにあり、十年の計は樹を植うるにあり、百年の計は人を植うるにあり」という言葉があります。長期的視野に立ち、促成栽培ではない本物の教育をしていきたいということです。日々の学習においては、できるだけ昔のやり方を変えないことを大切にしており、一例として土曜日も午前中4時間の授業を行っています。

鈴木 そういう教育は、中高一貫だからこそ可能だという面もありますか。

今西 そうですね、たとえば中1の数学では週6時間授業のうち3時間を幾何に充て、自分の言葉で証明を書く練習をさせています。英語では、週6時間のうち3時間はネイティブスピーカーの教員によるオールイングリッシュの授業です。高校受験がないので3年ずつで学習を区切る必要がありません。中学・高校の教育課程を独自に編集・再構成し、6年間をひとまとまりとして学習を組み立てることができるのは一貫校のメリットでしょう。

鈴木 単に先取り学習をさせるということではないんですね。

今西 理科であれば、中1の最初に元素記号と周期表を教えてから段階的に学習を深めていきます。生徒の理解に役立つなら、教科書の順序にとらわれず柔軟にカリキュラムを編成することが主旨であって、とにかく先取りをというつもりはありません。時間的余裕が生まれれば、その分実験を増やすなど有効活用しています。

  

学びの楽しさを伝える熱意あふれる授業

鈴木 現在、大学入試改革の議論で焦点となっている思考力・判断力・表現力を養う教育がすでに実践されている印象ですね。

今西 そうあってほしいと思っています。冗談では「時代がようやく甲陽学院に追いついてきた」という話をしますが(笑)、少なくとも周囲の状況に合わせて自分たちのやり方を変えることには、非常に消極的な学校です。

鈴木 時には中高生にとって高度な内容を扱うこともあるかと思いますが、生徒たちは授業についてきていますか。

今西 甲陽学院の教員は、良くも悪くも非常に学究的、自分の担当する学問が好きで仕方がないというタイプが多いんです。私がここの生徒だった時代から、大学受験などそっちのけで自分の専門である縄文土器の素晴らしさを語るような先生がいました(笑)。こんなに面白いのだから君たちにもぜひ教えたい、という情熱は生徒たちにも伝わるようです。

鈴木 学ぶことは大人が本気で夢中になるほど面白いんだ、というのは子どもでも感じますよね。甲陽学院では、大学進学指導はどのように行っていますか。

今西 本校の前身のひとつである高等商業学校は、戦後の学制改革で大学になる道を選ぶことも可能でした。しかし当時の経営者が、大学になるよりも生徒たちが望む大学への進学を応援できる中等学校であるべきだと決断し、今に至っています。こうした経緯からも、私たちが生徒に「この大学に行きなさい」「ここはやめなさい」と言うことはありません。何であれ彼らの進路選択を支持し、その実現を応援するというのが私たちの変わらぬスタンスです。

「形」を教える中学、「自由」を学ぶ高校

鈴木 一貫校では珍しく、中学と高校の場所が別々ですね。

今西 歴史の偶然でそうなったのですが、結果的にはそれが甲陽学院の大きな特長になっています。学習面においては6年間の一貫性を保ちつつ、生活指導においては中学と高校でメリハリをつけることができるからです。中学生に対しては、主に「形」の面から指導をしていきます。わかりやすい例でいえば中学には制服があり、持ち物の規定もあります。一方、高校生になるとそうした形のうえのルールが一切なくなります。

鈴木 非常にユニークな指導法ですが、高校でいきなり自由になると生徒たちは戸惑いませんか。

今西 そうですね、初めは不安を感じることもあるようですが、自由におぼれるような生徒はいません。自然に高校生らしいふるまいを身につけていきます。中学1年生と高校3年生では、心身の成長度合いも、物事に対する受け止め方も大きく違います。中学生は「大きめの子ども」として扱い、規範意識をしっかり植え付ける。高校生は「小さめの大人」として扱い、責任や自覚を持たせる。それによって少年期から青年期へのスムーズな橋渡しを手助けできると思っています。

鈴木 体育祭や文化祭などの行事も中高は別々ですか。

今西 そうです。それについては一貫校なのにやや物足りないという声もありますが、別々に実施することで、中学時代に組織のリーダーを務める機会が一度は与えられます。もちろんまだ頼りない面もありますし、足りない部分は教員がフォローしますが、一度その経験をしておくと、高校生になった時にはまったく手がかからないほど見事なリーダーシップを発揮してくれます。

鈴木 生徒たちの気風・気質に特色はありますか。

今西 人当たりがよく協調性がある、ひと言でいえばやさしい生徒が多いですね。それは本校の美点だと思います。

鈴木 やさしいだけでは競争に勝てないぞ、とハッパをかけるようなことはしないんですか。

今西 世の中には先陣を切っていくリーダーも必要ですが、「しんがり」を務めることのできるリーダーもまた不可欠です。頂上までみんなを引っ張っていくだけでなく、下山の時に仲間がはぐれないよう目配りできることも、これからのリーダーに求められる資質だと思います。

  

時流に流されず教育の理想を高く掲げて

鈴木 甲陽学院をめざす子どもや保護者に望むことを教えてください。

今西 子どもに責任感を持たせるため、「自分のことは自分でしなさい」と教える保護者が多いと思います。もちろんそれは大切なことですが、世の中は自助と共助で成り立つものです。本校の生徒たちには、自立する強さを持ちつつも、もしも「自分でできない」人がいれば手を差し伸べるやさしさも持ってほしいと願っています。

鈴木 学習面で、受験生へのアドバイスはありますか。

今西 過去問題をよく研究してもらえれば、そこに本校のアドミッションポリシー(入学者受け入れの方針)が表れているはずです。国語では長めの記述問題が必ずありますし、算数では過去に出題例のない問題をひとつは出すようにしています。正解には届かなくとも、自分の頭で考え、自分なりに表現する力を養ってほしい。それが私たちからのメッセージです。

鈴木 小学校で英語が教科化されます。今後、入試に英語を取り入れる予定はありますか。

今西 教科だから試験に出すという発想は本校にはありません。実際に今も甲陽学院の入試には社会科がありませんが、それは暗記に偏った学習を受験生にさせたくないからです。中学入試であれ大学入試であれ、入試制度への過度な適応は、自分たちが培ってきた良さを殺すだけだと思っています。

鈴木 進学校は厳しい受験指導でエリートを育てる場、といった世の中のイメージと、甲陽学院はずいぶん違うようですね。

今西 甘いといわれるかもしれませんが、理想は高く掲げておきたいからです。今の世の中で役立つことは、すぐに役立たなくなることでもあります。個人的には「人材」という言葉があまり好きではないんです。どのような意味でも、人間は何かの「材料」や「道具」ではありません。人間そのものが教育の目的であるべきだと思うからです。

鈴木 甲陽学院のユニークな特質は、長い伝統のなかで培われたことがわかり興味深いお話でした。どうもありがとうございます。

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甲陽学院中学校・高等学校
今西 昭 校長
いまにし・あきら/1957年生まれ。80年京都大学経済学部卒、民間企業勤務を経て82年から母校・甲陽学院中学校・高等学校教諭。2015年から同教頭、17年から校長(第11代、同窓生では初)

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