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大事な家の思い出と、父の思い出。スペインの漫画『家』

  • 文・嵯峨山瑛
  • 2018年7月9日

撮影/馬場磨貴

  • 『家』パコ・ロカ 著 小野耕世/高木菜々 訳 小学館集英社プロダクション 3024円(税込み)

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誰しも父親のことを書くのは気恥ずかしいのではないでしょうか。どのような夢や憧れをもった少年時代だったのか。どのように母と出会い、自分が生まれたのか。

今回紹介するのは、スペイン・バレンシアの漫画家パコ・ロカによる日本翻訳第2作の『家』です。

週末住宅を媒介に、喪失とその先を描く

父が毎週末訪れては、手を加えてきた豪華ではないけれど大切な家。彼が亡くなってから1年が経ち、草木が伸び、荒れ果てた家を片付け、修繕してから売ろうということで3人の子どもたちとその家族が集まります。

作者は前作『皺』で、両親の老いていくなかで体験したことを描き国際的な評価を得て映画化もされたのでご存知の方も多くいらっしゃるでしょう。
今作では、実際に彼の父が亡くなり、喪失の痛みと向き合いながらこの作品を書き上げました。そういった意味で半自伝的な作品と言えるかもしれません。

3兄妹が家を片付けていくなかで、それぞれに思い出す父の記憶と一緒に過ごした時間、自分の知らなかった父の側面を知っていきます。庭に埋められたアーモンドやイチジクの木や、日陰棚、家族で作った生け垣。それぞれの家の細部描写は父を象徴しています。登場人物は家の思い出をたどりながら父の思い出を再構築していくのです。

日本の漫画に慣れていると、コマ割りは単調で、ドラマチックな展開もない地味な作品に思えるかもしれません。しかしながら、心理的な距離感や時間経過がグラフィカルに提示されている点(例えば94ページ)や、過去と現在、時間によって変化する光の様子など、繊細な色彩表現が心にしみます。

「人は二度死ぬ」といった類の言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。一度目は肉体が滅びたとき、二度目はその人が忘れ去られたとき、というものです。映画『リメンバー・ミー』もそのような内容でした。

この物語の最後、片付けを通して大事な家を手放すことに寂しさを感じた長男と次男のやり取りがこのようなものです。

「この家を売るのはおれたちの過去の一部を捨てるってことだな」
「そうかな。父さんのことを思い出すのにこの家は必要ないさ」

先の考えに照らし合わせると、この家の片付けを機会に、兄妹が自分たちの父の思い出を再構築し、空白を埋めていったのだから、家を手放したとしても父といつでも会えるということが言いたかったのかもしれません。

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PROFILE

嵯峨山瑛(さがやま・あきら)

写真

二子玉川 蔦屋家電、建築・インテリアコンシェルジュ。
大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。
>>二子玉川蔦屋家電 ホームページはこちら

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