てまひま

「削り置きはしない……」お客さんの目前でかつお節を削る専門店で食す「かつお節ごはん」

  • 文・藤村はるな/写真・小島マサヒロ
  • 2018年7月11日

デジタルの進化が進み、世の中がどんどん便利になっている昨今。めんどうなことはすべてロボットが私たちの代わりにやってくれるという時代もくるのでしょうか。もちろん、歓迎すべき未来ではありますが、一度、足を止めて考えたいこともあります。

この時代にあって“てまひま”かけて毎日を過ごしている人がいます。便利の波に乗らない彼らの価値観のなかには、私たちが忘れがちなこと、見落としがちなことが少なくありません。そんな“我が道を貫く”専門家の元を訪れ、生きるためのヒントを得る企画。今回は、かつお食堂の永松真依さんです。

    ◇

早朝8時の渋谷。人気が少ない路地裏で、道行く人の目をひくのが、木の板に大きく書かれた「かつお食堂」の文字。

日本唯一のかつお節ごはんの専門店です。毎週水、木、金曜の朝8時から14時まで営業。

「はつがつお(初顔)でございますね?」

そんな明るいかけ声とともに、店内に入った客を迎えてくれるのが、かつお節伝道師の“かつおちゃん”こと、永松真依さん。

かつお節といえば、昨今ではパック入りのものにお目にかかることが大半ですが、この店では、店主の永松さんが、愛用のかつお節削り器で削ったかつお節をたっぷり使った「かつお節ごはん」を食べることができます。

目の前で永松さんが削る、できたての削り節。愛用のかつお節削り器は4台あり、メンテナンスも欠かさないとか

料理のお品書きは2種類。「かつおだし」が存分にいかせる料理のみを選んでいます

「削りたてのかつお節のおいしさを、もっと多くの人に知ってほしい」。

その想いから、いかに時間や手間がかかろうと、削り置きは絶対にせず、お客が食べる直前にかつお節を削ることをモットーとしているそうです。

「目の前でかつお節を削ると、お客様の反応もそれぞれでおもしろいんです。『昔やってた』『懐かしい』と言ってくださる方もいれば、『かつお節を削っている姿を初めて見た』というお客もいます。自分たちが日ごろ食べている鰹節が本来はどういう形で提供されているのかを、この店をきっかけに知ってもらえるのもうれしいですね」

さらにすごいのが、使用するかつお節が頻繁に替わるという点。

「よりいろんな種類のかつお節を食べていただきたいので、お店で使うものは、月替わりで変えています。たとえば、5月は高知県土佐市宇佐町の竹内商店さんのもの。6月は、鹿児島県枕崎市カネモ鰹節店のものを使ってます」

それぞれのかつお節は、永松さん自身が全国のかつお節工場を回って仕入れしたもの。実際にかつお節を作る現場や生産者の顔を見ているからこそ、提供する際にはより一層「丁寧に、大事に使おう」という気合が入るそうです。

誰よりも深く、かつお節を愛する永松さん。そんな彼女がかつお節に興味を抱くきっかけとなったのは、20代のころ。昼間は受付、夜は六本木などでクラブ通いをしていたいわゆる“パリピ”な日々を送っていたといいます。だが、その奔放な様子を見かねた母から怒られ、反省もかねて、九州の祖母の家に遊びに行くことになったとか。

パリピな日々を送っていたころの永松さん。「現在は食堂の仕込みのために、毎朝3時頃に起きる生活。ちっとも夜遊びしなくなりました」

「祖母の実家に泊まっているとき、朝食の味噌汁を作るため、祖母が台所に立っていたんです。そのとき、かつお節を削る祖母の後ろ姿を見て、『かつお節を削る姿ってなんて美しいんだろう』と感動したのが、かつお節愛に目覚めたきっかけでした」

それからは、寝ても覚めてもかつお節漬け。休日があれば各地の漁港を歩き、全国のかつお節工場へと顔を出す。ときには自らかつおを釣ったり、イチからかつおをさばいて、かつお節を作ったことも。

「勝浦のかつお祭りをはじめ、全国のかつお関連のイベントやお祭りには極力足を運んでいます。最近一番楽しみにしているのは、沖縄で開催される海神祭に参加することです。もう寝ても覚めてもそのことばかり考えています」

それだけ日々をかつおに捧げているだけに、永松さんのかつおに対する愛情や知識は尋常ではありません。

たとえば、店で使われる月替わりのかつお節にしても、すべてのかつお節は、どこで取れたかつおを使い、どんな人が作ったものなのか。どんなふうに作られたのか。そして、味にどんな特徴があるのかを、こと細かに解説してくれます。

店の壁に貼られているのは、その月に使用するかつお節を作っている生産元の写真。写真自体は、永松さん自身が実際に現地を訪れて撮影。また、店内にある「かつおシアター」では、かつお漁船のDVDも鑑賞可能

そのほかにも、かつお節を上手に削るコツやかつおの生態、日本や世界でかつおはどう食べられてきたのかといった歴史などにも、驚くほど精通。24時間、暇な時間があれば、常に本や地図を片手に、かつおについての知識やトリビアをインプットし続けているようです。

どうしてそこまでかつおに入れ込むのか、永松さんに聞いてみました。

「かつおは縄文時代にはすでに日本で食べられていた魚だったり、日本古来から『足が早い魚』だからこそ、さまざまな調理法が考えられてきた魚でもあります。食べてもおいしいし、調べても楽しい。そんな魚だからこそ、もっと多くの人に知ってほしいんです。あまりにかつおが好きすぎて、この数年間かつお関連のこと以外は何もしていません。もはや、恋人がかつおですね(笑)」

かつお節ごはんに、だし巻き卵、お味噌汁と漬物がついた「かつお食堂ごはん(1000円・税込み)」。口に入れた瞬間に溶けていくふわりとしたかつお節の舌ざわりに、思わず「かつお節は飲み物だったのか……」と錯覚するほど。削りたての削り節をさらにこんもり乗せてもらえる「追いかつお」にも、ぜひトライしたい

  

かつお節を加工した自作の箸置きに加え、益子の職人さんに作ってもらった箸置きなどが並ぶ。「かつおは尾の付け根が細いから、かつおの焼き物は見当たらない」とのこと。

現在の最大の野望は、目黒のサンマ祭りならぬ、「日本橋のかつお祭り」を開催すること。

「日本橋は昔から続くかつお節問屋の創業の地だったりと、かつお節の聖地なんです。それに、かつお節は日本人にとって縄文時代から食べられているような古い魚で、調理方法も多様なのに、実はそのことを意識している人は案外少ない。もっとイベントを通じて、多くの人にかつお節の良さについて知ってほしいなと思っています」(永松さん)

永松さんが頭に巻いている手ぬぐいは「かつお縞」と呼ばれる伝統的なデザイン。また、「かつおをイメージして」とのことで、髪の毛にも青紫のメッシュも入っています。訪れた際は、ぜひ確認してほしい

忙しい現代人は、朝ご飯をなにかと軽く済ませがち。そんな朝ご飯ですが、同店では、かつおモチーフがいっぱいの店構えや、トリビアいっぱいの接客など、単なる「かつお節ごはんの定食屋」の枠におさまらないかつおへの愛をもって、お客さんを待っているのです。

温かい気持ちで食事と勘定を終え、店を後にする際。永松さんの明るい掛け声が。

「ありがつお(カツオ)ございました!」

とどまるところを知らないそのかつお愛。誰しもが、一度訪問しただけで「かつお好き」になること、請け合いです。

  

■INFO / かつお食堂
住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-6-4 The Neat青山 1F
営業時間:毎週水・木・金 8:00~14:00
HP:https://www.facebook.com/katsuosha/

>>永松さんの写真をもっと見る

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