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<93>ゲイ文化の奥深さを見せびらかしたい 「オカマルト」

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2018年7月5日

 新宿二丁目といえば、世界的にも有名な一大ゲイタウン。同性愛者に限らず、さまざまなセクシュアリティーの人たちが集う街だ。その片隅に、ホモ本ブックカフェ「オカマルト」はある。夜が深まるほどににぎやかになるこの街では珍しく、13時から20時までの営業。古い2階建ての建物の中に2、3坪の飲み屋がひしめく「新千鳥街」の一角にあり、迷路のように場所がわかりづらい。それもまた、訪れる楽しみの一つでもあるのだが。

 ようやく見つけたドアを開けると、目の前には急な階段。2階から響く「いらっしゃ~い」の声に導かれて進む。小さなカウンターは全8席で、満席になることも多い。店の片側は一面の本棚で、ゲイやLGBT関連の書籍で埋め尽くされている。

 カウンターの中から笑顔を見せるのが店主の小倉東(とう)さん(56)。男性同性愛者向けの総合情報誌「Badi(バディ)」に創刊時から携わり、編集長として長年活躍、一方でドラァグ・クイーン、マーガレットとしても活動を続けている。この店をオープンしたのは2016年11月のこと。棚に並ぶ約500~600冊の書籍は小倉さんが長年集めたもので、蔵書は他にも倉庫に約1万冊はあり、時々入れ替えることもあるという。

「子どもの頃、ゲイに関する本や雑誌はほとんどなかったから、少しでも載っているものを集めては貪(むさぼ)るように読んで自分を納得させてた。でも、こういうものって、みんな捨てられちゃうわけで……」

 店を開こうと思った直接のきっかけは、2003年に死去したイラストレーター・木村べんさんの蔵書を引き取ることになったことだった。ゲイ雑誌のイラストなどで人気を博していた木村さんだが、その蔵書は、ゲイだったという事実とともに葬り去られようとしていたという。

「故人のセクシュアリティーを公にしたくない親族からしてみたら、こうした蔵書はゴミどころか存在自体も否定したいもの。ゲイについて語ることが難しかった時代は、エロ本でしか表現できなかったこともある。こうしたものを集めて、人の目に触れて、読まれるようにしたいと思ったんです」

 小倉さんいわく、「ゲイの文化ってこんなにすてきなもので、いろんな人に自慢したくて見せびらかしている感じ」とのこと。本棚には年季の入ったエロ雑誌の横に哲学書があり、その隣にはモノクロームの男性ヌードの写真集があり……。雑然と並べられているが、小倉さんは、むしろ本棚の多様さがゲイやLGBTの豊かで奥深い文化を反映しているように感じるという。

 店を訪れる人もまた、ゲイに限らない。ノンケの男女、“腐女子”、下は生後4カ月から上は80代までと年代も幅広い。とはいえ、LGBTの当事者ではない人が、興味本位で店を訪れてもいいものだろうか。

「ニーチェの有名な言葉に、『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』というものがあるけれど、ノンケの人が珍獣を見る感覚で二丁目に来るのであれば、二丁目からすれば、あんたたちのほうがよっぽど珍獣よ。立場は対等であり、自分も珍獣になりうるということに気づいてさえいれば、周りの人を不愉快にさせることはないと思うの。自分が正常で当たり前と思って育ってくると、そういう視点に気づきにくいんだけどね」

 自分が同性愛者であることを口に出せず、ゲイ雑誌を隠れるように読んでは捨てていた時代に比べると、少しずつ社会にLGBTに対する認識が広がっているようにも思える。その一方で、人のセクシュアリティーに関わることだけに、どう接していいかわからないと戸惑う人もいるのが現状だろう。また、「ホモ」「オカマ」といった呼称が差別表現と言われるなど、言葉の使い方一つにも配慮が求められることもある。

 そんな中、小倉さんは店での会話でもよく「ホモ」という単語を口にするし、店名にも「オカマ」と「オカルト」を組み合わせた造語を掲げている。

「ある時からホモが差別語だなんて言われはじめたけど、むしろゲイと呼ばれるのを嫌い、誇らしげにホモを使う人だっている。もしひとつの言葉の概念にずれがあるのであれば、言葉でやりとりして解決していくべきなのに、一方的に『差別だ』『傷ついた』と言ってたら、会話が通じない。それに僕は、一つの言葉に玉虫色のようにいろんな意味があるところがすてきだと思っていて、言い方一つでかわるもの。そこをうまく操れるようになりたいわよね」

 小倉さん自身、「オカマ」と言われて傷つき、自分がオカマだと思いたくないと悩んだ時期もあった。しかし、言葉自体には罪がなく、何十年もかけてその言葉を理解し、愛せるようになってきたという。

「言葉に向かいあって愛する努力をした覚えがありますか? 例えばオカマという言葉で自己肯定してきた人たちもいるのに、今になって差別語ということで彼らの存在を亡きものにするのかと。そういうことにも気がついてほしくて、わざと露悪的な形で店名にも使ってるんだけど」

「オカマルト」の本棚には、さまざまなセクシュアリティーに関連した本や雑誌があり、下世話なものがあれば、学術的なものもある。その隣では狭いカウンターでゲイやノンケ関係なく肩を並べ、小倉さんを交えて会話を楽しんでいる。白昼の新宿二丁目の片隅で、玉虫色の輝きを放つこの空間は、たまらなく魅惑的であり、どこまでも自由である。

おすすめの3冊

■おすすめの3冊

『OTOKO Photo-studies of the young Japanese male』(写真/矢頭保)
日本の男性ヌードを撮影してきた矢頭保の写真集。古風な日本男児の肉体美を美しいモノクロームで表現している。「1972年に刊行されたもので、男の裸の最高峰とも言える一冊です。三島由紀夫もモデルとして登場しています。うちの蔵書でもかなり貴重なもの」

『THE NEW JOY OF GAY SEX』(著/Dr.チャールズ・シルヴァースタイン、フェリス・ピカーノ、監修/伏見憲明、訳/福田広司他)
ゲイ・ムーヴメントの記念碑となった、全世界のゲイ・ライフの聖典の日本語訳。「単なるゲイのセックス指南書ではなく、生活全般で直面しそうな悩みにもしっかりと応えた内容になっています」

『Woof! A Gay Man's Guide to Dogs』(著/Andrew De Prisco、絵/Jason O'Malley)
タイトルどおり、ゲイのための犬ガイド。「ゲイだって犬を飼う! 人生のライフパートナーとして犬との生活をどう楽しむか、ゲイならではのこだわりやユーモアがたっぷり詰まっています。ゲイに人気のある著名人が飼っている犬種や名前一覧など、見どころがたくさんあります」

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ホモ本ブックカフェ オカマルト
東京都新宿区新宿2-18-10 新千鳥街2F
https://twitter.com/cafeokamalt
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