鎌倉から、ものがたり。

山グルメの夢、三崎港で週3日起動する。カフェ「雀家」(前編)

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史 
  • 2018年7月6日

 京急「三崎口」駅からバスに揺られて南へ。バスは三浦半島の突端、まぐろで有名な三崎漁港を目指す。その終点「三崎港」のバス停ロータリーに面して、なごやかなたたずまいのカフェ「雀家」がある。

 ゆるい坂道に建つ小さな二階家。道路に沿って建物が斜めに接地している様子や、引き戸の入り口に手づくり感が満載で、まるで絵本の中から出てきたようだ。

 木の温もりがあふれた店内は、「小屋」の感覚で、木の階段を上がって2階に行くと、カウンター席の向こうに三崎港の眺望がぱぁっと開ける。

「わぁ、いいお店ですねえ」

 思わず上げた歓声に、主の小雀陣二(こすずめ・じゅんじ)さん(49)が、にこっと笑って返してきた。

「僕も最初、歓声を上げたんです。こんなところで店ができたらいいねえ、って」

 "本業"がアウトドアコーディネーターの小雀さんは、「チュンチュン」の愛称で、雑誌、広告、テレビやラジオなど、アウトドア関連の撮影や取材現場で活躍してきた。マウンテンバイク、カヌー、スキー、サーフィンと、多彩なアクティビティに通じる一方で、カヤックツアーやキャンプのガイド、商品開発など、手がける仕事は多岐にわたる。中でもアウトドア料理の腕前は折り紙付きで、『山グルメ』『ダッチオーブン極楽クッキング』『BBQがウマくなる本』など、ファンにはなじみのレシピ本も数多い。

 そんな小雀さんが、三崎にカフェを開いたのは2013年、5年前のこと。

「この建物は、もともと若い大工さん夫婦が、自分たちで建物を修復して、『食堂みなと』を営んでいたところです。その大工さん夫婦に赤ちゃんが生まれることになって、彼らの友人の高階美佳子さんが後を引き継ぎ、定食屋を営んでいました。その高階さんが鎌倉に『sahan(サハン)』(連載「葉山から、はじまる。」)をオープンした後、しばらく空き家になっていたときに、ご縁があって僕が見にきたんですね」

 築50年の建物はかつての洋品店で、漁港が船乗りたちでにぎわった昭和の面影を、今も町の真ん中に残している。人の手が丁寧に入った空間は、新築では出せない味わいに満ち、心ある人たちがこの建物に思いを寄せ、受け継いだことを物語っている。

 日本橋3丁目という、東京のど真ん中で生まれ育った小雀さんの実家は床屋さん。両親ともに理髪師として働いていたため、小学生のころから、「親の帰りが待ちきれずに、自分で食事をつくっていました」。そんな少年にとって、大きなお楽しみだったのが、親戚のお兄さんが連れていってくれた町の喫茶店。「プリンアラモードスペシャル」のような豪華メニューとともに、カウンターの向こうでマスターがコーヒーを淹(い)れている姿が憧れだった。

「実はこの建物はキッチンが狭くて、1階と2階の切り盛りが難しいんです。でも、ここに出会って、以前からボヤッと抱いていた『喫茶店をやりたい……』という夢にスイッチが入りました」

 店を開けるのは、土・日・月の週3日。アウトドアコーディネーターというフリーランスの生業に、カフェ店主という違う色彩の仕事が加わって、毎日が回っていく。

「ウィークデーに店を閉めていると、最初は『つぶれたか』なんていわれましたが、5年続けた今は、『あ、アウトドアに行っているんだね』と、だいぶ理解されるようになりました(笑)」

 住まいは鎌倉の腰越にあり、もとより大の海好き。三崎は観光地でもあるが、ひなびた漁港の雰囲気が魅力的で、土地の人が温かい。店をきっかけに、鎌倉から三崎まで、それぞれ違う土地柄を味わっている最中だ。

(→後編は7月20日に公開予定です)

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受講料:1000円

www.josai.jp/lifelong/ex/culture/180401_5.html



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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

清野由美

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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