ダブレット 井野将之さん「持ち味はユーモア、世界で輝く」
- 2018年7月12日
「グランプリは、ダブレット」。6月6日、パリであった若手デザイナーの登竜門「LVMHヤングファッションデザイナー賞」の授賞式。プレゼンターの米女優エマ・ストーンが告げた瞬間、会場は大きな歓声と拍手に包まれた。90カ国1300人の候補の中からアジア人で初の頂点に立った。
カップラーメンの容器に入った布の塊に水を注ぐと着られるように膨らむTシャツ、ハンガーにかかったまま真空パックに入れられたプリントシャツ、そして刺繍(ししゅう)された文字から垂れるカラフルな糸……。井野将之は自身の服の持ち味を「ユーモアがある」と自己分析する。最終選考ではカール・ラガーフェルドやマーク・ジェイコブスら大御所の審査員に片言の英語でアピールした。「良くも悪くも、他の人たちと違うアプローチが認められたのだと思う」と振り返った。
全て日本製 工場との関係、大切に
完成度の高い縫製や高度な技術が必要で、「生産してもらう工場の人とのコミュニケーションが何より大切だから」と、全て日本製にこだわっている。
原点は、過去の失敗。実は15年ほど前にも一度、独立したが、すぐに立ちゆかなくなった。アパレル会社員時代の感覚で生産を委ねる工場関係者と交渉し、関係が悪化したことが原因だったという。「以降は、何より人間関係を重視している。それが品質維持に直結する。自分たちだけで服は作れませんから」
前橋市生まれで、中学時代まではサッカー少年だったが、高校に入ってから体育会系の人間関係に疑問を抱く。同時におしゃれに目覚め、クリストファー・ネメスなどのデザイナーブランドに憧れた。専門学校、アパレル会社、独立の失敗などを経てミハラヤスヒロでシューズとアクセサリーを手がけ、2012年にダブレットを立ち上げた。
一躍ファッション界で注目を浴びる存在になったが「受賞は、たまたま。これを機に会社を大きくしたいとは思わない。10年後も20年後も、今と同じようにブランドを続けていたい」。約3900万円の賞金については「まだ決めていないが、こういう形になったのか、とわかる使い方をしたい」と話した。(後藤洋平)
楽しさと確かな土台
WWDジャパン・ドットコム、村上要編集長
ファッション界における「平成の喜劇王」。日本ブランドの多くは海外を意識した途端にシリアスになるが、ダブレットは本当に楽しみながら服作りを続けている。「楽しい」は万国共通。それがLVMHで認められた一番の要因だろう。
一方で井野さんは、80年代の米西海岸の古着や90年代の日本のストリートウェアなどの知識も深く、上っ面だけのブランドではない。しっかりした土台があるのも魅力だ。
