はじまりの場所

こんな歯の磨き方があったのか!

  • 文・高橋有紀 写真・山本倫子
  • 2018年7月24日

ノートパソコンに貼ってあるステッカーが目に入った。「親父ギャグ検定3級」と書いてある。いつも親父ギャグばかり言っているから、部下がくれたのだという。

「場が堅いのが嫌いで、会議中でも言ってるんです。肩肘張らずに、部下とか上司とか関係なく目線を同じところに合わせたいので、自分からくだけたほうがいいかなと思っていて。誰かが何か言ったらすぐ親父ギャグを返す。だいたい寒い風が吹くんですけど、いいんですそれで」

部下から愛されているに違いないこの上司は、花王のパーソナルヘルスケア研究所で室長を務める矢納義高さん。歯ブラシ、ハミガキ、洗口液などオーラルケア商品開発研究の全般を担当する部署を統括している。「ピュオーラ」ブランドの立ち上げなどに携わり、口臭の研究で学位も持つ、自他共に認める「口臭博士」だ。

矢納さんが開発を担当し、この春発売した新製品が「薬用ピュオーラ 泡で出てくるハミガキ」。

ボトルをギュッと押すと、ノズルからニュッと泡が出てくる。この泡を舌の上に直接乗せて、そのまま歯を磨く。ペーストを歯ブラシの上にのせて、という従来の方法とはまったく違うが、一度試したらその手軽さと使用後のスッキリ感ですっかりハマってしまった。いったいどうしてこんな商品が生まれたのか。

「口臭の原因は、舌の上、舌苔(ぜったい)と呼ばれる汚れです。普通に歯を磨くだけではしっかりと洗浄したり殺菌したりができません。歯ブラシで舌を磨く人もいますが、やりすぎると舌を傷つけてしまう恐れがあります。ブラシで擦らなくても、普段の歯磨き習慣の中で舌の汚れを取りたいと思い、行き着いた答えが泡でした」

ペーストでは舌の汚れに作用し、汚れをしっかりと吸着するだけの泡が作れず、洗口液では十分な泡がたたず。最初から泡で舌の上に作用させるからこそ舌の汚れに密着し最大の効果を発揮できるのだという。 さらに、泡はきめ細かいほど汚れを吸い上げる力が強くなる。専用フォーマーで、きめ細かい泡が作れる仕組みを実現した。

目盛り付きのルーペが仕事の必需品。「観察するのが好きなんです」(矢納さん)

着想は10年以上も前。泡という答えに行き着いてからも、舌の上の菌を制御する効果的な成分を探し出し、それを生かすために独自の処方を作り上げるその過程に苦労したと矢納さんは振り返る。

口臭が不快になるのは、菌と菌が結びついて塊を作ることが原因だという。菌の塊を洗い流しやすくする成分として、イソデシルガラクトシドという新規洗浄成分を世界で初めて開発した。関連研究所で素材を合成してもらって有効性や安全性を確認したり、新たな薬事申請をしたり、発売までには多くの年数を費やした。

「花王の常盤(文克)元会長が言っていた『モノがモノをいうモノづくり』という言葉があります。これが僕の中の商品開発のフィロソフィー。モノが主張しないとお客さんに使い続けてもらうことはできません。単なる奇抜なアイディアじゃなくて、他社にはない圧倒的な実効感を感じてほしい。そのための独自の処方設計にこだわっています」

机の上には、ペン立てにペンを立てるように、20種類以上の歯ブラシが立ててあった。メンバーが試作品を持ってくるたびに歯を磨くため、1日に5回も6回も歯を磨くこともあるのだという。

「だから家に帰ったら歯を磨かないことも結構ありますよ。きっと嫁には臭いって思われてるんじゃないかな。笑」

そう言ってまた周囲を笑わせる親父ギャグ上司だが、並んだ歯ブラシたちに、開発者の執念が垣間見えた気がした。

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この仕事場から生まれた商品

the-tansan

「薬用ピュオーラ 泡で出てくるハミガキ」は、泡を舌の上に直のせして使う今までにない新しいタイプのハミガキ。きめ細かい泡が舌に密着し、舌の上の菌を殺菌することで口臭を防いでくれる。2018年4月発売。1日2回の使用で約3ヶ月分。
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PROFILE

高橋有紀(たかはし・ゆき)ライター

2004年に国際基督教大学卒業後、英語学習情報誌「AERA English」の校閲、編集に携わる。 週刊誌「AERA」、ダイヤモンド・オンラインほかでビジネス、教育、カルチャー、トレンドなどの分野を中心に取材、執筆。

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