相棒と私

井浦新さんが語る、監督と俳優は「相棒」になれるのか?

  • 文 坂口さゆり 写真 馬場磨貴
  • 2018年7月25日

  

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』で主演の外交官・千葉一夫を演じた俳優の井浦新さんです。本作ほか2本のドラマをともに作ってきた演出家の柳川強さんについて語ってくださいました。

   ◇

私:井浦新(俳優)
相棒:柳川強(NHK ドラマ演出家)

やながわ・つよし 1964年4月生まれ、大阪府出身。88年NHK(日本放送協会)入局。NHK名古屋放送局専任ディレクターなどを経て、NHK制作局ドラマ番組部チーフ・ディレクター。過去の主な作品に、終戦ドラマ「鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~」(2007年 放送文化基金脚本賞ほか、ギャラクシー賞優秀賞、文化庁芸術祭テレビドラマ部門優秀賞受賞)、「セカンドバージン」(10年)、連続テレビ小説「花子とアン」(14年)、「コントレール~罪と恋~」(16年)、「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(18年)など多数。

映画監督と俳優の関係は、「相棒」として成り立つのか――。という疑問が浮かんだのは、井浦さんが演出家の柳川強さんを挙げてくれたからだ。

映画監督はオーケストラで言えば指揮者であり、会社組織で言えばCEO(最高経営責任者)のようなものだ。黒澤明は「天皇」と呼ばれた。溝口健二は「現場でダメ出ししかしなかった」と言われる。小津安二郎にしても、俳優の位置、動きから視線まで全て自身が計算したとおりに実行することを求めた。世界に名を馳せた映画監督でなくても、多くの場合、映画監督と俳優は「相棒」という関係は成り立ちにくいのである。

井浦さんもそれを認めつつ、キッパリこう話した。

「確かに、映画監督と役者は『師弟関係』の方が成り立ちやすいと思います。僕にも恩師の映画監督はいますが、その恩師が相棒に当てはまるかと言えば、そうではありません。でも、柳川さんはある意味、同志。相棒と言える監督だと思います」

柳川強さん

柳川強さんはNHKの演出家だ。戦争をテーマにした硬派なドラマを多く手掛けてきた。柳川さんとの出会いもドラマから。井浦さんが初めてオファーされたのが、2008年12月に放送された『最後の戦犯』の主人公吉村修役だった。

「映画の現場が僕を産んでくれたから映画をやり続けていく、とシンプルに考えていた」

井浦さんにとって、柳川さんからの出演依頼は思いもかけないことだった。テレビをあまり見ないこともあって、それまでドラマといえば「ポップでわかりやすい」イメージ。作り手にもそんなイメージを抱いていた。だが、柳川さんはそれを見事にひっくり返した。熱量の高さに圧倒された。

「こんな監督と一緒に実際にあった物語を映像化していくという事は価値があることだし、本当にやり甲斐がある」と出演を決めた。

「とにかく熱いし真面目だし緻密。細かいんです。役を演じていく上でも演出はものすごく細かく、口の開き具合、瞬き一つから事細かく言ってくる時もありました」

その姿勢は多くの映画監督と変わらない。だが、柳川さんはじっくり俳優と話し合う。一緒に役を作りあげていく。その姿勢が違った。

「きちんと話すことができるから信頼が生まれる。その中から挑戦しようという気持ちも生まれます。柳川さんとは早い段階でそういう感覚がありました。監督の求めるものをとにかく演じ切りたい。その思いを抱えながら、長い撮影期間を乗り越えました」

志がある人とはきちんと話すことができる――。この最初の出会いによって、「柳川監督との絆みたいなもの」が生まれた。

  

そのあとのコラボ作品が2016年の「コントレール~罪と恋~」(NHK)だ。井浦さんにとって、柳川監督は戦争や社会派作品を作る人、というイメージだっただけに、不倫ドラマと聞いたときは「嘘でしょ? そもそも女性が撮れるんですか?」とふざけたほどだった。

映画オタクである柳川さんの「フランス映画のような質感のある映像作品に仕上げたい」という挑戦に井浦さんも乗ったが、井浦さん自身にとっても難しかった。無差別殺人事件の犯人を止めようとしてある男性を殺してしまい失語症になってしまった男の役。彼は殺した男の妻・文(石田ゆり子)と、その事実を知らぬまま恋に落ちてしまう。

「どんな温度でどんな芝居を打てばいいのか。信頼して話し合える柳川さんだからこそ挑戦できました」

撮影前に綿密に話し込んだ。決まった事に関してはお互い愚痴を言わず、思いっきりやると決めた。男性の少ない現場だったこともあり、「その点でも心が折れないよう助け合いながら乗り切った」。共犯関係が生まれたような作品だった。

相棒の情熱があったから

ちょうどそのドラマを撮り終える頃、柳川さんから「相談がある」と話があった。

「まだいつかは確定できないけど、どうしてもやりたいことがある。『コントレール』とは全く違う世界観だからこそこれを一緒に作った新くんとその物語を一緒に撮りたい」

それが公開中の映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』だ。

対米交渉・対沖縄折衝に奔走した外交官の姿を通して沖縄返還交渉の舞台裏を初めて描いた社会派作品。井浦さんが演じるのは「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と称されてきた、外交官・千葉一夫。

「こんな志がある人がいたなんて嘘でしょう?」と信じられなかったほどの人物だが、沖縄密約は数年前まで公にされていなかったこともあって、千葉一夫の名前は公にされてこなかった。

『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』 (c)NHK

当初ドラマとして制作された作品が今回映画化されたのは、「監督の情熱」と井浦さん。90分放送されて消費されていくドラマで終わってしまっていいのか? 映画にしなければいけないんじゃないか? 撮影中、柳川監督からそんな言葉を聞いた。そして、監督はその思いを実現すべく自身が責任を持ってNHKと交渉。映画として独立させ、上映する映画館を決め、宣伝会社にも自ら持ち込み、「すべて監督が動いて映画として成立させた」と言う。

柳川監督の信念は、沖縄返還に尽くした千葉一夫の信念にも重なる。井浦さんにも伝播する。

「芝居は終わりましたが、僕がこの映画のためにできることはまだまだあります。監督と一緒に行ける映画館があれば、そこで見てくださった方たちときちんと対話をしながらこの作品を深めていきたい。監督の熱量が高いのでそういう気になります(笑)」

井浦さんと柳川さんの間には言葉にしなくても、1つの目的を達成するための意思疎通が間違いなく図られている。

   ◇

井浦新(いうら あらた)
1974年9月生まれ。東京都出身。是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」(98年)で初主演。以後、映画を中心にドラマ、ドキュメンタリー、ナレーションなど幅広く活躍。主な映画出演作品に「ピンポン」(02年)、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(08年)、「空気人形」(09年)、「かぞくのくに」(12年)、「11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち」(12年)、「白河夜船」(15年)、「光」(17年)など多数。公開待機作に「止められるか、俺たちを」も(10月13日公開)。またテレビドラマは、「返還交渉人」の柳川強監督の「最後の戦犯」(08年)で初出演・主演を果たす。

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』

(c)2018 Twentieth Century Fox

米軍の理不尽な沖縄占領と人生をかけて戦い続けた実在の外交官で、“鬼の交渉人”と言われた千葉一夫の知られざる物語を描く。監督:柳川強 語り:仲代達矢 出演:井浦新、戸田菜穂、尾美としのり、佐野史郎、大杉漣、石橋蓮司ほか 東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開中。
制作・著作:NHK/配給:太秦
【2018年/100分/DCP/16:9/日本】(C)NHK

公式サイト www.henkan-movie.com

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!