鎌倉から、ものがたり。

パタゴニアから三崎港へ続く“非日常”。カフェ「雀家」(後編)

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2018年7月20日

>>カフェ「雀家」(前編)から続く

 店を開ける土・日・月曜日。三崎港にあるカフェ「雀家」店主の小雀陣二(こすずめ・じゅんじ)さん(49)は、鎌倉・腰越にある自宅から三浦半島の突端まで車を走らせる。

 その途中で、ピックアップするのは、逗子の焼き菓子工房「BAKEROMI(ベカロミ)」のケーキ、葉山のコーヒーロースター「ファイブビーンズ・コーヒー」のコーヒー、そして三浦のベーカリー「充麦」のパン。「雀家」では、三崎港を望む抜群の立地とともに、食事と飲み物のおいしさにも定評がある。それらを支える品々は、三浦半島を縦断する中で調達されているのだ。

 東京・日本橋で育った小雀さんが、海と山に囲まれた湘南・三浦エリアと縁を得たのは、アウトドアメーカー「パタゴニア」に勤めたことがきっかけだった。

 高校卒業後に、車とバイクが大好きだったことから自動車整備専門学校に進み、自動車工場に就職。しかし、専門学校の同級生が、レースに熱中する姿を目の当たりにして、「自分はそこまでの熱意を持っているか」と自問、違う道を模索するようになった。そのころにマウンテンバイクと出会い、アウトドアの面白さに魅了されたことで、新たな世界に目が向くようになった。1990年代はじめのことだ。

 アメリカのアウトドア界のカリスマ、イヴォン・シュイナード率いる「パタゴニア」は、90年代にはまだ、知る人ぞ知るメーカーだった。同社はシュイナードの自伝タイトルにもなっている「社員をサーフィンに行かせよう」という独自の哲学で、会社経営、働き方、環境への向き合い方に、革命的な価値転換をもたらしていた。

 そのパタゴニアで働きたいと思い、毎月、人材募集の有無を問い合わせて、93年にまずはアルバイトで入社。2年後の95年に、メールオーダーの部署で本格的に採用される。

 岩登り、山登り、スキー、スノーボード、カヤック、ヨット、サーフィン……。

 社内には、プロではないけれど、プロに近い技術と情熱でアウトドアを遊ぶ同僚たちがいた。パタゴニアは鎌倉に旗艦店も開いており、湘南と自分との距離が格段に近くなった。

 パタゴニアに5年、もうひとつのアメリカ発の老舗アウトドアショップ「REI」に2年勤めた後、知り合いの編集者から、アウトドア雑誌の通販ページ担当の話が来て、フリーランスに転身。そこから、雑誌や広告を舞台に撮影や取材を支えるアウトドアコーディネーターとして、仕事が広がっていった

 小雀さんのアウトドアの仕事は、コーディネーター、商品開発、ガイドという三つの柱で回していたが、2013年、44歳のとき、そこにカフェの運営という、もう一つの柱を加えた。「店は毎日開けないとダメになる」と周囲からはいわれたが、仕事を一つに限定するのではなく、四つの柱をバランスさせる方向に力を注いだ。

「カフェではむしろ、アウトドアを消して、『町の喫茶店』に徹したい、とも思いました」

 小雀さんがそう語る「雀家」は、カジュアルな温もりがあふれ、誰もが入りやすい。アウトドアの世界で年季を積み、雑誌や広告の仕事でコーディネートをこなしてきた店主のデリカシーと「目」が、細部にまで、さりげなく生きている。

 カフェはオープンから5年を越えて、今は6年、10年という、この先の節目を見つめている。同時に、「五つめの柱を何にしようか?」と、思案もしている。

「日常のルーティンに身をまかせてしまえば、ある意味ラクです。でも、僕がアウトドアに惹かれたのは、そこに『非日常』があるから。アウトドアでは自分でいろいろなことを考え、工夫しなければなりません。だからこそ出会える場所、人があって、人生の面白さが広がっていくんだ、と実感しています」

 小雀さんのようなフリーランスのあり方には、今の時代に必要な「働き方改革」の原点がある。それは、お上が押し付けてくる官製改革とは違う、内側からのアクションだ。鎌倉、逗子、葉山そして三浦には、そのような仕事の組み立てを許容する、地域の懐の深さがある。これが豊かさでなくて、何であろう。今年もいい夏がやってくる。

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・店舗情報
雀家suzumeya
神奈川県 三浦市三崎3-6-11
https://www.facebook.com/suzumeya



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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

清野由美

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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清野由美(きよの・ゆみ)

写真

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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