上間常正 @モード

老舗ブランドと百貨店の共同企画の新たな力とは ルイ・ヴィトンと伊勢丹新宿店

  • 上間常正
  • 2018年8月3日

  

 伊勢丹新宿店で先月、本館1階のウィンドーディスプレーがすべてルイ・ヴィトンになって驚かされた。店内に入っても1階から4階までこのブランドの期間限定の特設売り場が設けられていて、意表を突かれた思いだった。伊勢丹ではこれまでルイ・ヴィトンの本格的な店内ショップがなかったせいもあったからだ。

 まず1階に設けられた「ザ・ステージ」では、さまざまな記念イベントや新作バッグのプロモーションなど。正面から入ってすぐに見えるため、パリ・シャンゼリゼ通りのルイ・ヴィトン本店に入ったような錯覚に陥ってしまう。しかしよく見ると、他の有名ブランドのコスメ売り場などもいつも通り開かれていることにすぐ気づく。右手にはオレンジ色のモノグラム模様で彩られたメンズの売り場も。

  

 そして2階の白と黒の幾何学模様の什器(じゅうき)で構成された特設コーナーは、新作の婦人靴。今年春夏パリ・コレで注目されたスニーカー「LVアークライト」の限定アイテムも並んでいる。3、4階は今年秋冬の婦人服の新作の売り場だが、3階はややスポーティーな感覚、4階はよりエレガントでラグジュアリーな服と色分けされている。

 また、各階に通じる上下2基ずつのエスカレーターの手すりのベルトにはルイ・ヴィトンのモノグラムが施され、このブランドらしい高級感のある雰囲気をもりあげる。それぞれの特設売り場でテキパキと客に応対をする店員は、日本全国のルイ・ヴィトン店から選ばれた販売員たち。ユニフォームはこの企画のために特別にデザインされたものだという。

  

 この共同企画の発案は去年の末頃から始まったそうだが、双方の当初の思惑を超えて広がったという。その結果として、ある意味では新しくてちょっとワクワクするような、それでいて懐かしさをも感じさせるような異空間ができた。ファストファッションやシンプルなだけのリアルクローズでは、そしてネットショップなどでは、いくら工夫してもこんな楽しさは伝わってこないからだ。

 「ある意味では新しくて~」と書いたのは、今のように多くの人々がファッションを享受できるようになったのは、高級既製服と百貨店の深い関係があったからなのだ。たとえばフランスでは19世紀の後半からボンマルシェやプランタン、サマリテーヌといった百貨店が次々と登場。それまでは限られた超富裕層が対象のオートクチュール(高級仕立服)の閉鎖的なアトリエに代わって、だれでも自由に入って服を選べるようになった。

  

 日本でも事情は同じだが、第2次大戦後の洋装ファッションの普及や、特に1970~80年代の若者ファッションの活性化にあたっては、伊勢丹は西武百貨店と並んで大きな役割を担った。そうした歴史を持つ伊勢丹と、バッグのメーカーとしてはトップの老舗だがオートクチュールの経験をもたないルイ・ヴィトン。その両者の21世紀になってからの今回の協同の試みには、やはり注目すべき新しさがあるのだろう。

 伊勢丹の担当者は「大変な作業だったが、新しいクリエーションをしているようで楽しかった」と語った。ルイ・ヴィトン側も「ブランドのDNAをこの場でどう表現するのかというチャレンジだった」という。そして共通して語ったのは「この空間をお客にどうすれば楽しんでもらえるか」という自問だった。

 

 伊勢丹新宿店の企画会場を回って、最も印象的だったのは過不足のないバランスの良さだった。ルイ・ヴィトンは強烈な存在感を覚えさせたが、館内の他のラグジュアリーブランドの総売り場面積と比べれば小さな規模だし、あえてそれを押しのけようとするよりむしろ調和するかのようだった。だからかえってこのブランドらしさがにじみ出たのではないか。

 そんなことがかなり短期間の準備・作業時間で出来たのは、ルイ・ヴィトン・ジャパン社の卓抜な企画力と行動力、そして伊勢丹新宿店のファッションの老舗としての蓄積の力があってのことだと思う。このような試みの今後の展開に期待したい。時代の行方が不明な時はベテラン(老舗)の踏ん張りが必要なことは確かなのだ。

PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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上間常正(うえま・つねまさ)

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1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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