パリの外国ごはん

見た目も味もゴージャス。迫力の美インド料理「DESI ROAD」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年8月21日

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は、暑さで脱力気味の2人が、「午後をずっとここで過ごしたい」という、お料理も空間もうっとり美しくておいしい、インド料理のお店です。

    ◇

夏の暑い空気と照りつける光は、つかの間すべてを手放してぼーっとしてしまおう、とふと思いたくなる時間の流れる、力みのない食堂に行きたいと思わせる。そんな気分で少し前に、ポンピドゥーセンターの近くにあるインド料理ビストロ「MG Road」に行った。窓が広く取られたパリのビストロ風な内装のこの店は、とても良い意味で、少し気の抜けた炭酸飲料のように、外と画して時間の流れが緩やかだ。

手前の椅子はインドの古い映画館のもの

左岸の6区に姉妹店を出したのは知っていたのだが、訪れる機会がないままでいた。聞けば、そちらの方がよりクラシックな料理を出すという。「ヴェジタリアン・タリーもあるって」と万央里ちゃんに伝えると、「行きたい!」と即答だった。

姉妹店「Desi Road」の場所には、シックでこぢんまりとした伝統的なインド料理店がずっとあった。インド料理といえば、と左岸に暮らすフランス人からその店の名をあげられたことは一度や二度ではない。その歴史を継いで、メニューにはクラシックな要素を盛り込んだという。

華やかな料理写真に心が躍るメニュー

料理の説明が細やかに書かれている

このランチをとても楽しみにして、2人そろってあらかじめウェブサイトでメニューをチェック済みだった。それで、行く前からほぼ食べたいものは決まっていた。ひとつはベジタリアン・タリー。もうひとつはチキンのタリーか、シェフのチョイスによる盛り合わせのどっちかが良いかなぁと思っていたら、店のスタッフに、盛り合わせが写真映えするとすすめられた。じゃあ、と盛り合わせを取ることにして、ナンとロティも試したい。結局ひとつに絞りきれず、“本日のナン”に、ひまわりとかぼちゃの種、ごまを加えたロティの両方を注文。万央里ちゃんはそれに、自家製ドリンクを頼んでいた。

自家製レモネード Nimboo pani

こちらのオーナーはインテリア・デコレーターで、以前はインド・ファブリックの家具ブランドを運営していた。店内奥に並んでかかるランプシェードは、彼女のデザインによるものだ。私が座った椅子は、インドの古い映画館で使われていたらしい。テーブルもクッションも、サイドテーブルも、どれもすてきで欲しくなるものがいくつもあり、食べる前にまずインテリアに目が行った。

MG ROADとは場所もエリアも違うのに、こちらにもなぜか店内には気を緩ませるのを奨励するような、いいじゃないか休んだら、と言われているかのような空気が漂っている。それが決してだらけたものではなくて、凛(りん)とした印象さえ受けるのだから不思議。なんとも魅力的だ。

左が“本日のナン”でバジル入り、右がシード入りロティ

食べ始める前から、午後はずっとここを自由に使っていいよと言ってくれないだろうかと思うほどにくつろいでいたら、美しいたたずまいのナンとロティが運ばれてきた。“本日のナン”はバジル入り。ふんだんに種子を散らしたロティは、とても薄くて、正直者な感じだ。

きれいだなぁと写真を撮っていると、思わず背筋をしゃんとしてしまうほどに迫力の盛り合わせプレートがテーブルに置かれた。タリーはこれまたまず目で楽しめるプレゼンテーションで、器が欲しくなる。

シェフによるチョイスの盛り合わせプレート

シェフによる盛り合わせは、日によって内容が変わるのか、中身については書かれていなかった。メニューにあるアラカルトの料理と照らし合わせてみると、サーモンに仔羊、チキン・ティッカ(=切り身)と3種のタンドーリに、嵩(かさ)があるのはホウレン草のフライのようだ。

どうにも目を奪う、ホウレン草から手をつける。バリバリバリっとフォークを突き刺すや崩れた。1枚1枚衣をまとって揚げられたホウレン草の下には粗くつぶしたポテトがあり、上にかかったヨーグルトソースは少し甘い。ざくろの酸っぱさと、タマリンドソースだろうか甘酸っぱさが加わり、おつまみにぴったりな味だ。

サーモンは、甘みの強いソースが下に敷かれていた。メニューには、豆とマンゴーを合わせたチャツネとある。それと生クリームを混ぜ合わせたもののようだ。子どもでも食べやすそうな味で、ごはんが欲しくなった。
対して、サーモンの隣に置かれたチキンは、なかなかにスパイシーなソースを伴っていた。ヨーグルトがベースの緑の葉を感じる爽やかな味に、ガラムマサラなどでマリネされたお肉で、インド料理を食べている実感が湧いてくる。

最後にとっておいた仔羊肉が、クミンをばしっと効かせたパンチある味付けだった。しっかりマリネされたことがわかる、漬け込まれていた味のするお肉はほどよく柔らかくて、同時に、表面の焼き目は力強く香ばしい。ためらわず、骨を手でつかんで食べた。

ナンは大好きだが、やはりおなかが張る。それに比べるとロティは食べやすい。シード入りを選んだことで、それぞれの種子を炒(い)ったような香りが、コントラストのある料理の合間に、口直し的な役割を果たした。サイドディッシュで取ったホウレン草のソテーも、バターにレモンがたっぷり絞ってあり、合わせてあったスパイスはフェネグリークかと思ったけれど、メニューを見たらクミン。爽やかかつ華やかで、こちらも口に残った料理の味を、一度リセットしてくれる名脇役だった。

ベジタリアン・タリーにはプレーン・ナンがお供

ベジタリアン・タリーも味見させてもらう。液体っぽい感じのダルは甘みがしっかりして、カリフラワーと玉ねぎのカレーはニンニクをふんだんに使ってはいるが辛さは控えめ、カルダモンの香りを放つ玉ねぎとポテトのカレーはホワイトソースのようなものが合わせてあり、どれもなかなかに個性的だ。

どちらのプレートも味付けが複合的で、日本の味とは明らかに違うけれどなじめないものではなく、食べ進むごとにお総菜的な味わいを感じていった。これ、ぜんぶ、お弁当のおかずに良さそうなんだよなぁ。お弁当箱に詰めた状態で食べてみたい。おいしさが増す気がする。

2皿だけど、これで3人前です

食べている途中で、どうもおかしいと思い「これって2人分のプレートだよね?」と盛り合わせ料理のお皿を示して万央里ちゃんに聞いてみると「うん、これ一人前じゃないね」と同じように感じていた。スタッフに確認したら、やはり二人前のGrand (大きな)とメニュー名に付いた盛り合わせだった。

  

ポン・ヌフからすぐのドーフィンヌ通り沿い

DESI ROAD デシ・ロード
14, rue Dauphine 75006 Paris
01 43 26 44 91
12時~14時、19時~22時
無休(祝日は休みの場合あり)


>>パリの外国ごはん バックナンバーはこちら

PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

川村明子

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

室田万央里

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

今、あなたにオススメ

Pickup!

Columns