スリランカ 光の島へ

<4>祈りの夜

  • 文・写真 石野明子
  • 2018年8月24日

この日はこの仕事を片付けよう、とか頭の中を整理中、
「あ! この日はポヤデーか。保育園が休みだ……」
学校・会社が休みになる日、スーパーマーケットから肉が撤去される日、酒屋が休みになる日(休み前日は長蛇の列)、月に一度の満月の日、それがポヤデー。

ポヤデーとは仏教徒が満月を祝福する日で、不浄の行い(経済活動や飲酒、肉を食べること、うそをつくことなど)をやめお寺へお参りに行く日である。祈りの行為はプージャとよばれ、その日は朝から晩までプージャに向かう人をそこかしこに見かける。だが日が沈んでからのプージャに一番たくさんの人が集まる。あたりが暗くなってくるころ、白い服をまとった人たちがお寺に集まってくる。

お寺の前ではブッダに奉納するための花を売るお店が並び、スリランカ・ジャスミンの優しい香りがただよっている。でもその香りもブッダのためのもので嗅いではいけないのだそう。寺院の奥からは派手な抑揚はないゆったりとした、でも力強い読経が聞こえてくる。

  

私には宗教とは何かとか語る知識も素養もないけれど、祈る姿にはとてつもなく引かれる。神様という存在するのかどうか不確かな存在(私にとっては)を心のよりどころにし、その教えに従い、自身の時間やお金を神に捧ぐ。神の存在を信じて疑わないその心への興味と言ったらいいか。信仰心によって得られる安らぎとはどんなものなのか。カメラを通してのぞく祈りのまなざしは、きっと自分はしたことのないものだと思う。

平日のある日、スタジオのスタッフがプージャがあるから今日は休みたい、と電話してきた。家族のためのプージャだったり、彼女本人のためのプージャだったり、いろいろあるので翌日「何のプージャだったの?」と聞いたら「近所のお寺に大きなブッダの像ができたからどうしても行っておきたくて」とうれしそう。仕事休んでまで行く? と正直思ってしまうけど、きっと彼女たちには「仕事を休んでまで行くこと」なのだ。

スリランカに住んでいると、イスラム教のラマダンが始まったなぁとかキリスト教のミサの行列に出会ったり、ふとしたところに鮮やかな色彩のヒンドゥー教の寺院を見つけたり。世界に存在する他の宗教の存在が日本にいた時よりもずっと身近だ。出会う人たちももちろんいろんな信仰を持っている。でもどの宗教に属していたとしても、信頼関係を築くのに宗教は何も関係がない。合う人は合うし、合わない人は合わない、それだけ。

  

ポヤデーのお寺から帰ろうとしたとき、袈裟(けさ)を着た小さな男の子と両親と思われる2人が宿舎の入り口で話しているのが見えた。身内を失った子やまた家庭の経済事情から、ほんの小さな頃からお寺に自分の子供を託す家庭もある。その子は家族と離れて良い僧侶となるためにお寺で勉強しながら暮らしていく。スリランカの僧侶は結婚することもない。そんな家族だろうと思う。外灯の逆光で表情はよく見えないけれど、母親の手が男の子の頬に触れながらずっと離れない。思わずつないでいる娘の手をぎゅっと握り直してしまった。

まだまだ続くお祈りの声と、空に浮かぶ大きな白い満月。その子に幸せな未来が訪れますように、と願いながらお寺をあとにした。

(第5回に続く)

>>写真のつづきはこちら

>>「スリランカ 光の島へ」のバックナンバーはこちら

PROFILE

石野明子(いしの・あきこ)

いしのあきこ

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。
Instagram @studiofortlk
http://studio-fort.com/
http://akikoishino.com/

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

石野明子(いしの・あきこ)

いしのあきこ

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。
Instagram @studiofortlk
http://studio-fort.com/
http://akikoishino.com/

今、あなたにオススメ

Pickup!