上間常正 @モード

「オーシャンズ8」の新しいフェミニズム、そしてファッション

  • 上間常正
  • 2018年8月24日

(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 今月10日から全国公開されている映画「オーシャンズ8」は、第一級のゴージャスな娯楽作品であり、同時にフェミニズムの新たなあり方やファッションとの関係についても考えさせる稀有(けう)な傑作ともいえる。この映画を見た女性の多くはすっきりした気分になるだろうし、男性の身としては深刻で複雑な思いに誘われながらも、どこかほっと救われた気にもなるからだ。

 この映画はジョージ・クルーニーの主演で大ヒットした「オーシャンズ」シリーズ(計3作)の続編で、巨額の窃盗を銃や暴力なしでおしゃれなゲーム感覚でやってしまうというプロットは同じだが、今回はメンバー全員が女性になったことで新たなインパクトと深みが生まれた。

デビー(左)とルー

 ニューヨークのメトロポリタン美術館で毎年開かれるファッションの祭典(メットガラ)の席上で、総額1億5千万ドルの宝石をちりばめたネックレスを偽物とすり替えて盗み出す。映画はそんなスリリングなストーリーで、メンバーの司令塔デビー・オーシャン(サンドラ・ブロック)が、別件の窃盗犯罪で嵌(は)められた形で罪を負って過ごした5年間の刑務所生活の中で実行計画を綿密に練り上げたものだった。

左からデビー、ルー、タミー、ナインボール、ローズ、アミータ、コンスタンス

 デビーは出所してすぐに、相棒役に選んだルー(ケイト・ブランシェット)とほかの5人のメンバーをスカウトする。ハッカーのナインボール(リアーナ)、盗品ディーラーだったタミー(サラ・ポールソン)、落ち目のファッションデザイナーのローズ(ヘレナ・ボナム=カーター)、インド系のジュエリー職人アミータ(ミンディ・カリング)、腕の立つアジア系のスリ師コンスタンス(オークワフィナ)。

 ルーはクールで独自の犯罪美学の持ち主だが、安手のバー経営で細々と日銭を稼いでいた。ナインボールはハッキングの腕は天才的なのに、人とのコミュニケーションが苦手でビリヤードと葉巻で才能を費やしていた。タミーは結婚して今は平凡な主婦。ローズは、かつては一時代を築いたが今は不人気で崖っぷちの状態。アミータは手先の器用さは天才的だが、美人の妹がいて母親から「あんたは早く結婚した方が」と迫られていた。コンスタンスは観光客に手品を見せながら素早く持ち物を盗む生活をおくっていた。

 メットガラには大勢のセレブたちが最高のドレスや宝石で着飾って出席する。人気上昇の若手女優ダフネ(アン・ハサウェイ)にローズのドレスとカルティエが秘蔵する名品のネックレスを付けさせ、晩餐(ばんさん)会で彼女のスープに毒を仕込み、吐き気のためトイレに駆け込み気を一瞬失った間にネックレスを偽物とすり替える。そのための準備作業や、当日は各役割を分刻みで素早くこなす中で、各メンバーの真の実力が遺憾なく発揮される。

 状況の変化に即応するクールな決断力や知力、無駄のないシンプルな動き。また、仕事を楽しむ想像力。メンバー全員が女性という彼女たちの仕事ぶりは、こうした力が男性だけの特徴ではなく、むしろ男性より優れていることを暗示しているようだ。そして彼女らはその力を男性に向けて使ったり、誇示したりはしていない。

 こうした肩から力を抜いた姿勢は、男性を一方的な敵対者、女性を差別の被害者として断罪しがちだったこれまでのフェミニズムのそれとは違うように思える。とはいえ、いまだに男性優位が根強く残る社会の中でメンバーの女性たちが自分の能力を発揮する場を持てずに鬱屈(うっくつ)していたことも確か。そうだとすれば、彼女らの行動は新しいフェミニズムのメッセージだとも受け取れる。

ダフネ(左)とローズ

 7人にプラス1のダフネは、彼女らが犯人だったことに気づき、告発するよりもグループに加担することを選ぶ。ハリウッドの男性優位の商業主義的な映画社会で、ただ踊らされている自分のひそかな思いにも同時に気づいたからなのかもしれない。そうしたしなやかな決断力もメンバーの姿勢と共通しているのだ。

 この映画では、そんなフェミニズムの新たな可能性をとりわけゴージャスでしなやかな形で示している。とりわけ8人の衣装は秀逸だ。準備段階での普段着、そして会場から招待客に化けて脱出するために来たドレスが一人ひとりの個性を効果的に表現していた。

 デビーが着た、姓のオーシャンを思わせる貝やヒトデ、波模様のアルベルト・フェレッティのドレス。ルイは、ややメンズライクなジバンシィのエメラルド色のジャンプスーツ。ダフネのホットピンクのフェミニンなシルエットのドレス……。

 8人の豪華なドレスは、この冒険に参加した一人ひとりの熱意やときめきを象徴しているようで、その思いが伝わってきた。ファッションにはそんな力があるのだ。窃盗自体はいいことではないのだが、こんな大がかりな事件では本当に困る悲惨な被害者はいないのだ。

PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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