朝日新聞ファッションニュース

クリス・ムーアが写した「時代」、英国でコレクションの服とともに展示

  • 2018年8月27日

半世紀のモードの変遷 生き生きと

1960年代からファッションショーを撮り、見る人の情感に訴える写真で「レジェンド」とも呼ばれる英国人のクリス・ムーア。84歳の今も現役で、欧米のコレクションを回る。その仕事は、戦後ファッションの歩みを映し出す。

会場入り口の2017年春夏コムデギャルソンのショー写真と現物の服

ロンドンから北に列車と車を乗り継いで約3時間。「キャットウォーキング クリス・ムーアのレンズを通したファッション」展が、ムーアの生まれ故郷にほど近い北イングランドのバーナード・キャッスルにあるボウズ博物館で開かれている。

写真240点と、モデルたちが着た服40点を展示している。入り口には、2017年春夏のコムデギャルソンの巨大な写真。ドレスとコートが一体となった赤いベルベットの服を着るモデルが、ステージで思索的にたたずむ。暗闇の中の赤。遠くの白い明かりを取り込む構図が利いている。

すぐ左には、91年秋冬のヴァレンティノ。真っ赤なドレスを着て華やかにほほ笑むモデルの写真が並ぶ。同じ赤でも、先行きが不透明な現代と、社会に活気があった時代の微妙な明暗を感じさせる。「赤には、エモーショナルな強さがある。デザイナーが何を表現し、私はそれをどう写し撮るかに挑戦してきた」とムーア。

ヴァレンティノの1991年秋冬の服と写真

数年前まで、パリやミラノ、ニューヨークなどでのコレクション期間中にモード界で最も注目されたメディアは、スージー・メンケスが記事を書いていたヘラルド・トリビューン紙だ。ムーアは、この紙面を飾る写真を25年間撮り続けた。

ほぼいつもカメラ席の中央に陣取り、ランウェーに水が張られれば、水面に映るモデルの影をも取り込む。時代の寵児(ちょうじ)が現れれば、デザイナーと共に、周りの観客が高揚している姿もとらえる。その着眼点には何度もうならされた。

展覧会を企画したジョアナ・ハスハーゲン学芸員は「この60年間でファッションショーは劇的に変化した。クリスがいかに時代を切り取ってきたか、そしてそれが一つのアートであることを示したかった」と話す。

ショー写真と服で構成した展覧会

時代ごとに仕事を紹介し、クレージュなどオートクチュールの60年代、ケンゾーやイヴ・サンローランなどプレタポルテが登場しキャットウォークが誕生した70年代、ミラノやロンドン、日本勢が台頭し、スーパーモデルが活躍した80年代と、それぞれ生き生きとした瞬間を写している。ムーアは「良いショーを見ると涙が出てね」と笑う。

この間、カメラはフィルムからデジタルへ移行し、望遠レンズやオートフォーカスの普及などで撮る位置もステージ脇のかぶりつきからステージ奥へと変わったが、こうした変化にいち早く対応してきた。愛用のカメラはずっと日本のキヤノンやニコンだ。

肉屋を営む父と料理人の母の間に生まれ、「つつましく育った」という。4歳でロンドンに移住。高卒後メッセンジャーボーイとして出入りしていた「ヴォーグ」誌の写真スタジオに20歳で勤めた。64年に独立し、60年代後半からパリ・オートクチュールコレクションを撮る。現在は30歳ほど年下の妻と写真エージェントを運営している。

昨年、写真400点を収録した書籍「キャットウォーキング フォトグラフス・バイ・クリス・ムーア」(ローレンス・キング刊)を世界で刊行。日本でも「ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点」(若月美奈著/写真クリス・ムーアと仲間たち、繊研新聞社刊)が発売された。展覧会は来年1月6日まで。(編集委員・高橋牧子)

<展覧会の写真は斎藤久美氏撮影>

詩的な部分大切に、感情に訴える形で

カメラマン席のクリス・ムーア=2016年6月、パリ、大原広和氏撮影

ムーアに仕事への思いを聞いた。

    ◇

――ショーの撮影で大切にしていることは。

「詩的な部分です。どのデザイナーもが持つ唯一無二の微妙ですてきな世界をどう撮るか。難しくていつも悩む。けれど写真を撮ることが私の血や肉となり、私の若さを保っていてくれるような気もします」

――デジタル化は99年から。真っ先に実践しました。

「世界的な競争に勝つため。いつも最先端でいたいし、くじけそうになるけど、決して諦めないぞと自分を励まします。今後はライブ中継をやりたい」

――ショー写真を選んだのはなぜ?

「女性が好きで、人に興味があって、人の魅力を感じることが好きだから。そして、その魅力を人々の感情に訴える形で撮りたい」

――ショーでは、カメラマンは他の観客より冷遇されていると聞きますが。

「確かにあるけれど、自分が必ずしも受け入れられないことはある。それをきちんと抱え込んでめげずに、哲学的に受け止めることを大事にしてきました」

クリス・ムーアが撮ったアレキサンダー・マックイーン2001年春夏作品

――カメラマンとして、好きなブランドは?

「デビューの頃から撮り続けているアレキサンダー・マックイーン。イッセイミヤケやコムデギャルソン、プラダも尊敬している。カール・ラガーフェルドが手がけるシャネルにも関心がある。どれもエモーショナルで詩的だから」

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