ART&MOVIE

フランソワ・オゾン監督が語る「複雑な映画には、スクリプトドクターが必要」

  • 文 坂口さゆり
  • 2018年8月28日

(c)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

映画「2重螺旋の恋人」(公開中)を引っ提げ、6月のフランス映画祭で来日したフランソワ・オゾン監督。見れば見るほどドツボにハマる本作の魅力とともに、オゾン監督の創作の秘密をお聞きしました。

フランソワ・オゾン
1967年11月15日、フランス・パリ生まれ。93年に国立の映画学校を卒業。短編「サマードレス」(96年)や長編第1作「ホームドラマ」(98年)が国際映画祭で評判を呼び、「焼け石に水」(2000年)でベルリン国際映画祭のテディ賞を受賞。以後、ベルリン、カンヌ、ベネチアの世界三大映画祭の常連になった。毎年のように新作を発表。主な作品に、「8人の女たち」(02年)「スイミング・プール」(03年)「エンジェル」(07年)「危険なプロット」(12年)「17歳」(13年)他多数。

 

公開中の「2重螺旋の恋人」は、フランソワ・オゾン監督が大好きだという米国の女性作家ジョイス・キャロル・オーツの短編が下敷きとなっている恋愛ミステリーだ。双子をモチーフに、ヒロインのクロエ(マリーヌ・ヴァクト)が恋人になった穏やかな精神科医ポール(ジェレミー・レニエ)と、彼にそっくりながら性格は正反対なルイ(レニエの二役)に出会い、2人の男性に惹(ひ)かれていく。

「米国の小説ですので、著作権の問題で映画化までに4年かかりました。映画化の権利を取得したのが2年前。作れない間も頭はずっと働いていてどういう映画にしようかあれこれ想像していたんです。最後は小説とは違います。双子をリサーチ中に『寄生性双生児』を発見して驚き、映画に取り入れました」

無意識やアイデンティティーをテーマに、「すべては女性の頭の中で起こるようなこと」を描いた。穏やかで優しいが性的には満足できないポールと、傲慢(ごうまん)で荒々しい性格ながら性的満足を与えてくれるルイ。クロエがルイに「彼といるとあなたを、あなたといるとポールを想(おも)う」と言うように、クロエは2人の間を行ったり来たりしながら自身の内を彷徨(さまよ)う。

(c)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

オゾン監督によるとこの映画、アルフレッド・ヒッチコック監督の作品がすごく助けになったとか。理由は、「彼の映画にはノイローゼ気味の神経症のヒロインがたくさん出てくるから」だ。

「私はシネフィル(映画マニア)なんです。特に若かった頃は、他の人の映画からたくさん影響を受けました。例えば、舞踏会のシーンを撮るとすると、過去の偉大な作家たちの作品を見て、何をしていいのか、してはいけないのかを学ぶのです。過去の作家たちが私を助けてくれます」

クロエが自分のアイデンティティーを探しながら自己解放をしていくように、オゾン監督にとっての自己解放とはどんなことだったのか。そもそもオゾンが映画監督を目指したのは10代の頃。演技(俳優)の授業を取っていたが、「演技(を自分ですること)は嫌いだと気づいた」と振り返る。

「先生から『演技者としてこうしなさい』と言われると、顔は赤くなるし、セリフもしどろもどろ。俳優の座は自分の居場所ではないなと思いました。一方、先生が生徒に『その演技はいい、よくない』とあれこれ指図しているのを見て、『やりたいのはこれだ!』と思ったんです。映画(カメラ)の後ろにいるのが自分の居場所だと気がついた時、また、自分の進むべき道を見つけた時が、まさに自己解放のきっかけとなりました」

(c)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

1998年に「ホームドラマ」で長編デビューを飾って以来、サスペンスからミュージカル、ファンタジーにミステリーと、毎回様々な作品で見る者を驚かせ、楽しませてきた。アルフレッド・ヒッチコック監督が本作の相棒になったように、オゾン作品の創作の相棒が「過去の映画作家たち」であることは間違いないだろう。だが、オゾンがいくらシネフィルとはいえ、なぜこれほど多様な作品を毎年のように生み出すことができるのか。これは目の前にいる本人に聞いてみるしかない!

「人物はいつも同じではないんですが、映画製作において私が常に頼りにしている『役職』はあります。英語で言うと『スクリプトドクター』。私が書こうと思っている話、撮ろうと思っている話をその人に語って反応を聴く。その人に話を試すわけです。ボクシングでいえば、スパーリングパートナーのような存在。複雑な映画を制作する時は、私は常にスクリプトドクターに相談しています」

前作「婚約者の友人」に引き続き、「2重螺旋の恋人」でその「相棒」となったのは、脚本家のフィリップ・ピアゾ。今回脚本家としても参加しているが、彼は元映画ジャーナリストだという。出会いはもう20年以上前。オゾン監督の短編映画で取材にやってきたのが彼だった。

「フィリップは私の映画をよく理解してくれました。プレスに批判された時に擁護してくれたのも彼なのです」

以来、信頼する友人でもある。互いに映画が大好きで映画について詳しいから、スクリプトドクターとしても格好の相手だと言う。

私にとってスクリプトドクターとは

「フィリップは内容がわからない時は『わからない』と言ってくれます。でも、映画の善しあしを判断するわけではありません。あくまで『話を助けてくれる人』なんです。『2重螺旋の恋人』について話をした時は、フィリップは性や暴力を怖がらないで思い切り入れろと言ってくれました。なぜならこの映画はヒロインの無意識とか夢とかファンタズムとか妄想の世界を描いているからです」

例えば、クロエとルイとのラブシーン。カメラはどんどんクロエに近づき、彼女の声帯を映し出す。

「実は、私はインターネットでアイデアを探す過程で声帯が女性器に似ていることを知りました。フィリップに『クレージーなアイデアを見つけたんだ。口の中にカメラが入ると声帯が見える。それが女性器の象徴で絶頂を示すというバカげたアイデアなんだけど……』と言うと、一言『やれ!』って言ってくれました(笑)」

オゾン監督はまた、スクリプトドクターの必要性をこう話す。

「クリエーションはやはり時間がかかります。1つのアイデアが見つかっても、実現するためには成熟させないといけないし、変換させなくてはいけない。どうやったらいいか何となく勘はあるんですが、具体的にどうすればいいかが自分ではわからない。でも、こういう助っ人が入ると、物事が早く進みます。私が映画を産む人なら、スクリプトドクターは助産師みたいなものなのです」

オゾンを深く理解し、客観的なアドバイスを施す――。そんな強力な助っ人が、オゾン作品をしっかりと支えていた。

   ◇

映画「2重螺旋の恋人」
容姿は同じでも、性格は正反対の双子の兄弟との愛にのめり込んでいくヒロインが、妄想と現実の迷宮に迷い込んでいく姿を描いたサスペンス。原因不明の腹痛で悩まされている25歳のクロエは、医師に精神的なものだといわれ、精神科医のポールを紹介してもらう。やがて二人は恋に落ち同棲を始めるが、ある日、クロエは通勤途中のバスの中から、女性と話すポールの姿を目撃する。疑惑にかられ調べてみると、その人はポールの双子で同じ分析医のルイだった。クロエは自分を愛する優しいポールでは満足できず、満たされない欲望と幻想を別の男・ルイに求めるようになるが……。 監督&脚本:フランソワ・オゾン 原作:ジョイス・キャロル・オーツ 出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット、ミリアム・ボワイエ、ドミニク・レイモンほか。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中

(c)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!