はじまりの場所

「北欧、暮らしの道具店」の職場が今日もご機嫌な理由

  • 文・高橋有紀 写真・山本倫子
  • 2018年9月10日

毎日顔を出す常連でにぎわう店。リアルに例えればそんな店だろう。熱心な固定ファンが多い「北欧、暮らしの道具店」はインテリア雑貨や日用品、アパレルなどを扱うECサイトだ。店長の佐藤友子さんは、実兄の青木耕平さんとともに、同店を運営する株式会社クラシコムの取締役も務める。

2007年に兄と2人で始めた小さなウェブストアは、現在では50人を超えるスタッフを抱え、メディア事業、広告事業など多角的に展開する企業になった。

会社が大きくなるたび引っ越しを重ね、現在の国立市内のオフィスは7カ所目。

おしゃれ雑貨店の運営拠点、さぞかしこだわりが? と想像するが、オフィスの中はいたってシンプル。佐藤さんがこだわっているのは、物理的な設計よりもむしろオフィスの中の雰囲気についてだという。

キーワードは「雑談」だ。

「ちょっと集まったときにお茶を飲みながら話し始めるとか、キッチンでお茶を淹(い)れながら流れるように会議室に行くとか、雑談を大切にしています。会議室でさあやろうかっていうんじゃなく、雑談しながら自然に始める。キッチンから会議は始まっていると思うんです。自分がいつも”話しかけやすいオーラ”を出せているかも含めて、意識しています」

雑談を大事にするのは、企画のタネとなる最初の「ワクワク」が最終的に顧客にも伝わると考えているからだ。内なる動機が発露しているか。どこかを真似(まね)しただけのものになってはいないか。ワクワクの火付け役が自分の役割だと佐藤さんは考えている。

人が増えるたびに席替えをするのが大変ということで、執務フロアは7月から固定席を設けないフリーアドレス制に

「自分たちが楽しんでいないものは、不思議と売り上げにもつながらないし、それはお客様に伝わってしまう。インターネットって、いったい何の波動が伝わっているのかなって思うぐらい、伝わってしまうんです。お客様は、私たちの動機を見抜いています。動機が生まれるまでのプロセスとして、雑談ってとても有効だなと思うんです」

楽しさだけではない。佐藤さん自身が社員にとって「話しかけやすい人」でいることは、経営の効率にも直結する。

「スタッフはよっぽどタイミングを見計らって話しかけてくれていると思うんです。仮に私が機嫌悪そうにしていることで話しかけるまでに10分とかロスしてしまったら、そういう小さい蓄積が積もることで会社としては周回遅れになっていきます」

オフィス内でご機嫌でいられるように、ひとりでリフレッシュする時間は意識的に確保する。ランチはできるだけひとりの時間に、というのが創業当初からの佐藤さんのマイルール。ひとりで外に出たら20分ぐらいでさっと食事を終え、40分ぐらいはコーヒーを飲みながら考え事をしたり読みかけの本を読んだりする。

雑談が生まれる空気が重要。そう言うのは簡単でも、現実には、殺伐としたオフィスで働く人の方が多いだろう。それってどうしてなんでしょうか?

「殺伐とした空気の本質って、そこにいる人たちの機嫌が悪いことだと思うんです。どうして機嫌が悪いのか。それは自分の仕事の意味が分からなくなってしまっていたり、この仕事が何になるのだろうという不安があるからでは」

会社を運営する以上、すべての仕事に100%意味を持たせることはできないかもしれない。それでも不安やコミュニケーションの不足から「モヤモヤ」している人がいないかどうか、嗅覚(きゅうかく)を働かせる。

モヤモヤを減らすため、「なぜこの仕事をやる必要があるのか」を伝えるコミュニケーションにも時間を費やす。そのとき、佐藤さんは「会社のため」という語り方をしないように気をつけているという。店長という立場から常に考えるのは「お客様がどう思うか」。社員がモヤモヤしているとき、実はその原因が「お客様」からは離れたところにあることも多い。そういう場合は、なるべく原点に立ち戻って考えてもらうように仕向ける。

「不安はみんな抱えていると思いますが、そこにいかに経営側が真摯(しんし)に向き合い続けられるか。私も不完全な人間ですし完全に不安を払拭(ふっしょく)したり不機嫌をなくしたりはできません。でもこういう価値観をもって会社やお店を運営している、こういう経営者であろうと努め続けているんだということは、見せていきたい。そうでないと誰もついてきてくれませんから」

月間のPV(ページビュー)は約1500万超、売り上げの半分はリピーター。人が集まる場所に流れる「いい空気」は、決して自然発生したものではない。

仕事場の写真のつづきはこちら


この仕事場から生まれたもの

青葉家のテーブル

北欧、暮らしの道具店オリジナルブランド「KURASHI&Trips PUBLISHING」から今年4月に製作した、西田尚美主演の短編ドラマ「青葉家のテーブル」の第一話「トモダチのつくりかた」をYouTubeチャンネルにて公開中です。
主人公の青葉春子と息子のリク、春子の友人・めいことその恋人ソラオの4人が織りなす同居生活を描いています。
青葉家の舞台はなんと店長佐藤の自宅。続編は今年の秋頃に公開予定です。

「北欧、暮らしの道具店」
hokuohkurashi.com

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PROFILE

高橋有紀(たかはし・ゆき)ライター

2004年に国際基督教大学卒業後、英語学習情報誌「AERA English」の校閲、編集に携わる。 週刊誌「AERA」、ダイヤモンド・オンラインほかでビジネス、教育、カルチャー、トレンドなどの分野を中心に取材、執筆。

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