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<97>読むべき本を経営コンサルタントが選書 「フォルケ」

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2018年9月6日

 JR五反田駅と、都営浅草線高輪台駅のほぼ中間地点、桜田通りに面したビルの1階に完全予約制のイベントスペース兼ブックサロン「選書する書店 フォルケ」はある。入り口に店名は掲げてあるものの、重厚感のあるドアからは正直なところ、入りやすい雰囲気はほぼ感じられない。

「全く知らない人がここに入ってくることはほとんどないですね(笑)」

 そう話すのは、店長の堀越吉太郎さん(45)。本業は経営コンサルタントで、高校を半年で中退後、2年間引きこもっていた過去を持つ。その時に、自宅にあった世界文学と日本文学全集をむさぼるように読み、生きる勇気を古典文学からもらったことが、引きこもりから脱出するきっかけになった。この時の体験から、「いつかは出版業界に貢献したい」という気持ちを抱くようになったという。

 そんな堀越さんがこの店を開いたのは2018年元旦。同店のファウンダー(設立者)でもある内藤崇さん(49)から、「こんなスペースがあるんだけど、どう活用したらいい?」と相談を持ちかけられたのが始まりだった。内藤さんはアンティークショップだったこの店を投資目的で買い、いろんな人が集い、懇親の場も持てるようなサロンを作りたいという漠然とした希望を抱いていた。

 そこで、堀越さんは経営コンサルタントの本領を発揮。「選書」をベースに、「人と人とが出会い、人と本が出会い、人を成長させる優れたコンテンツを提供する」をコンセプトとした企画書を書き上げた。

「選書を軸にしたのは、ニーズがあると感じていたからです。北海道に1万円で選書してくれることで大人気の『いわた書店』というところがあり、店長の岩田徹さんにお会いしてお話を聞いたことがありました。すごく面白くて、自分でもやってみたいと思ったんです」(堀越さん)

「堀越さんが『俺の選書は売れる!』って言うんですよ(笑)。でも、ドイツでは本をプレゼントする文化があり、私も日本にもそういうものがあればいいと思っていたので、いいコンセプトだと感じました」(内藤さん)

 選書をする堀越さんの強みは、引きこもり時代に読み込み、自分を救ってくれた古典への造詣(ぞうけい)の深さと、15年以上も年間300冊以上の書籍を読み続けてきた膨大な読書量。そこに、経営コンサルタントで鍛え上げた、相手の気持ちを引き出しつつ、自信を持ってプレゼンテーションするスキルが加わる。

「選書を希望される場合は2冊で5000円の有料で、ご記入いただくアンケートをもとに選書しています。また、イベントで選書会を行うこともあり、その時はご本人と数分お話してヒアリングした上でご提案します。実際のところ、イベント時に選書を希望される方の方が多いですね」(堀越さん)

 同店の蔵書は約800冊。聖書や中国の古典である『論語』、仏典、世界中の古典文学を中心に、ビジネス書や入門書などを揃(そろ)えている。オープンして約半年、選書を依頼した人の満足度は高く、喜んでくれているという実感があるという。「今まで自分が読んだことがない本を紹介してほしい」「興味のある分野への理解をもっと深めたい」といったリクエストが多く、堀越さんはそんな要望も加味して選書を行っている。

 しかし、選書して本を売るだけでは到底店を運営できない。それでも、この事業を続けられる背景にはいくつかのポイントがある。ひとつは堀越さんも内藤さんも店の運営以外に本業があるということ。もうひとつは、利益よりもコミュニティーの構築を目指しているということだ。

「これからの時代、コミュニティービジネスが重要になってくると考えています。古典をはじめとした本から得られるものを共有できれば、人とのつながりがより深いものになり、そこからビジネスが派生すれば、展開も早い。実際、ここに集まっているのは起業家やビジネスマンが多く、そこからさまざまな価値が生まれると考えています」(内藤さん)

 現在、同店では週に1~2回、読書会や朗読会、ビジネスセミナーなどのイベントを開催し、終了後は懇親会も設けている。まだ半年だが、少しずつ人とのつながりが生まれつつあるという。

 経営コンサルタントである堀越さんから見ると、出版業界は、もはや「本を作って売っても、もうからない仕組み」に思えるという。それでも、内藤さんが言うような「コミュニティーの構築」に意義を感じ、本の持つ力にも可能性を感じている。

「本からしか得られない教養は重要です。聖書や論語のように、何千年も残っている本には物事の本質が記されており、古典こそが苦しい時の力になります。古典のすごさをもっと知ってほしいからこそ、選書を軸にしたブックサロンという形のコミュニティーサロンをやっていきたいという思いがあります」(堀越さん)

 堀越さんと内藤さんは、出版業界とは畑違いの世界で経験を積んできたからこそ、既存の出版業界にはない視点で、本を軸とした、全く新しい何かを創ろうとしている。その下支えとなっているのは古典の数々。古くて新しい、ハイブリッドな空間の構築は始まったばかりだ。

おすすめの3冊

■おすすめの3冊

『聖書物語』(著/山室静)
キリスト教の聖典にして、人類最大の古典と言われる「聖書」。これらを物語風に記した、聖書への手引書がこちら。「欧米の考え方の根底には聖書があります。聖書を理解することは、グローバル社会を生きる上でも必要なことです。聖書に関する解説書はたくさんありますが、この本はダントツで面白い! 聖書の大きな流れを把握することができます」

『星の王子さま』(著/サン=テグジュペリ)
世界中の言葉に訳され、70年以上にわたって読みつがれてきた物語。「名作中の名作。何度読んでもいい。寓話(ぐうわ)でありながら人間の本質を突いていて、自分の置かれた状況によって得られるものもさまざまです。子どもの王子さまが主人公というところも、読書経験が少ない人にとって入りやすいのではないでしょうか」

『論語』(訳注/金谷治)
古代中国の大古典「四書」のひとつで、孔子とその弟子たちの言行を集録。「聖書が西洋なら、論語は東洋の考え方の根底にあるもの。論語のことを知っていても、読んだことのある人は少ないはず。512の名言集をはじめから読んでもいいのですが、パラパラとめくって目に留まったところを読むだけでもいいんです。岩波版は原文と読み下し文、訳文が全て記されていて、索引も充実しているのでおすすめです」

    ◇

選書する書店 フォルケ
東京都品川区東五反田1-2-43 ハウス島津山1F
https://info.folkebook.com/
写真特集はこちら


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