川島蓉子のひとむすび

<50>デザインホテル「クラスカ」がつくるもの。「CLASKA Gallery & Shop "DO"」(後編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2018年9月12日

堀井和子さんと作ったクリスマスツリーをかたどったオブジェ

>>前編から続く

前回は、「CLASKA Gallery & Shop “DO”(クラスカ ギャラリー&ショップ ドー)」を手がける大熊健郎(おおくま・たけお)さんのお話でした。「ドー」は、器や台所用品、服やアクセサリーなどが揃(そろ)っている、いわゆるライフスタイルショップです。

置いているもののそれぞれから、「モダンで上質な日常使い」というシーンがうっすら透けて見えるところが、このお店の良いところ。それは、大熊さんをはじめとするスタッフが、もの作りの現場に出かけ、作り手と話し合って、仕入れたり一緒に作ったりしているからです。

外から見ている大熊さんの仕事は、かっこいいライフスタイルショップの筆頭バイヤーです。多くの人が憧れる仕事に就いていて、しかも全国で13店舗も構えている「ドー」のリーダーを担っている――どうしたら、そうなれるのかと思う人が多いに違いありませんが、大熊さんは「こうなろうと思ってやってきたわけではないのです」とはにかみながら一言。ちょっと意外な答えでしたが、今回は、そこをつっこんで聞いてみました。

穏やかながら思いがこもった話しぶりの大熊さん

若い頃の大熊さんは、大学で美学美術史を専攻し、マガジンハウスの書籍部でアルバイトしていました。時代は新世紀に入った頃で、バブルはすでにはじけ、人々が浮かれ騒ぐのをやめて、日常の暮らしに目を向け始めていた時期。

美しいものが好きでちょっとミーハー――その頃の大熊さんの様子を勝手に想像してしまいました。大熊さんは就職にあたり、南青山の骨董(こっとう)通りにあった「IDEE SHOP(イデーショップ)」が気になっていました。

そこは、“オリジナル家具の企画販売、国内外のデザイナーのプロデュースを中心に、「生活の探求」をテーマに、生活文化を広くビジネスとして展開すること”を標榜(ひょうぼう)していた企業。そして黒崎輝男さんという、業界でも名をはせている方が、バリバリと業容を広げている時期でした。入りたいと応募してみたところ、「新卒は採っていないが入ってみたら」と採用されることに。

その後1995年、「イデー」は骨董通りから根津美術館に向かう通り沿いに、カフェやギャラリーを併設した大型店舗を構え、まさにライフスタイルを提案するショップとして、国内はもとより海外からも注目を集めたのです。大熊さんは、カタログの編集を手がけたり、ギャラリーの企画・運営を任され、「初めてのことも多かったのですが、やりがいのあることばかりで手応えもありました」。

イデーを離れ、ギャラリーとショップが同居している「ドー」を構えることに

しかしその後、イデーの経営は大きく傾いていき、オーナーが代わることに。大熊さんは何とかそこで、仕事を続けていこうとしたのですが、体調を崩したこともあって、とうとう退職することに。

その後、「古いホテルをリノベーションして作った目黒のデザインホテルの中で、モノ作りする人のインキュベーションの場作りをやってみないか」と誘われ、引き受けることにしました。振り返れば、今の地方創生や若手の職人育成などにもつながる話ですが、2008年のことですから、時代に先駆けた考えを、まずはかたち化していく難しい仕事でもありました。

いろいろと考えた末、「お店を通してモノ作りの人と共同して、作り、伝えていくこと」をやろうと、「ドー」を構えることにしたのです。「イデーでは、バイヤーやギャラリーの経験があったので、店を構えるのは何とかなると思ったのですが、オープンしてから、そう甘くない現実が待っていました」と大熊さん。

イデーはロケーションも良かったし、世の中で話題になってもいたので、「お客さんとは自然と来てくれるもの」と思っていたのですが、東急東横線の学芸大学駅から歩いて10分強のところにある「ドー」は、周辺にほとんどお店がないところ。わざわざ来てもらわなければならない場へと足を運んでもらうため、「試行錯誤しながらでも、工夫を重ねるしかないと思いました」。

そして、イデー時代からの知り合いのアーティストやデザイナー、作り手の人たちと一緒に、オリジナルの企画展を開き、ギャラリー展示するとともに、オリジナルの商品を作って売ることを、スタート時から続けたのです。

堀井和子さんと作ったクリスマスツリーをかたどったオブジェ

たとえば、料理研究家である堀井和子さんとは、以前からご縁があった間柄。モノ作りへの関心が高い堀井さんとオブジェを作り、パッケージも手作りして展示・販売したところ、堀井さんのファンが集まってくれる――そんなイベントを続けました。

「僕が尊敬する知り合いの方々にお願いして、一緒に企画を立てたり、モノ作りするのは楽しい仕事でもあります」と大熊さんはさらりと言いますが、それだけで済まされないのはよくわかります。何しろ企画から展示まで、少人数で継続的にやっていくわけですから、たくさんのやりとりが必要な手間ひまかかる仕事なのです。でも、そこに手をかけたからこそ、「ドー」を訪れる人が増えてファンがつき、よそからも声がかかって店舗が増えていったのです。

九谷焼の大鉢は「ドー」で出会い、わが家で愛用している一品

わが家のダイニングテーブルの上には、山茶花(さざんか)を描いた大鉢が置いてあります。大熊さんが、九谷焼の産地で惹(ひ)かれた伝統の一品だとか。これを「ドー」で目にした時、「季節の果物を入れたら、ダイニングテーブルに季節感が出そう」と、うれしくなって手に入れました。今やすっかりわが家のテーブルになじんでいます。

こうやって、チャーミングなものたちが「ドー」を通して紹介され、日常の暮らしの中で使われ、また「ドー」を訪れたくなってくる。そんな好循環が生まれている意味が、わかった気がしました。

■CLASKA Gallery & Shop "DO"



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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

川島蓉子

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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