クリトモのさかな道

移転まで3週間、ありがとう築地市場! 伊藤ウロコ・亀本商店・フグ除毒所

  • 構成・文 中津海麻子 写真・馬場磨貴/篠塚ようこ(駐車場)
  • 2018年9月18日

  

クリトモさんが築地でお世話になった人を訪ねます。最初は「伊藤ウロコ」さん。長靴や前掛け、腕カバーなど市場で働く人たちに欠かせないものから、デザインが楽しい築地Tシャツまでそろい、外国人観光客からも大人気です。店を切り盛りする伊藤嘉奈子さんは、友さんにとって「築地の頼れるお姉さん」。プライベートでランチにも行く仲です。

    ◇

ここの長靴を履いていれば、受け入れてもらえる!「伊藤ウロコ」

  

栗原 斉藤水産に入ったばかりの下っ端時代、よくお使いを言い付かったんです。「ウロコ行ってこい!」と。ウロコ?? 何? どこ? って(笑)。

伊藤 初めて来たときのこと、すごくよく覚えています。「こんにちは! ウロコさんってこちらですか?」って話しかけてきて。初めてお使いに来る人は「言われたからきました」みたいな感じが多いんだけど、友さんは「わからないんで教えて下さい!」「これってなんですか?」って、興味津々で色々聞いてくれてね。かわいらしいし、親しみやすい方だなって。

栗原 ほんとですか? ありがとうございます! でも、市場の中を歩くのも最初は怖かったですよ。道を横切りたいんだけど、ターレがバンバン行き交ってて、どのタイミングで渡っていいのかわからない。まるでベトナム(笑)。モタモタしてると「邪魔だ!」って怒鳴られるし。

伊藤 男社会だし、独特の世界だからね。

栗原 でも、メソメソしてちゃ築地じゃ生きていけない。「さーせん!」って謝っちゃえばそれで終わり。ひるまないことが大事なんですよね。サバサバしてて、慣れちゃうとそれがすごく心地いいんです。

伊藤 確かに友さん、あっという間にたくましくなったもんね(笑)。

栗原 あとは、ウロコさんの長靴を履いていれば、受け入れてもらえる!

伊藤 築地の人たちに支えられ、歩んできたから。友さんにもずっと愛用してもらって、ホントに心強い。

栗原 ウロコさんの長靴は、すっごいおしゃれなの。履き口が前から後ろにかけて斜めにカットされていて後ろが下がっているから、立ったりしゃがんだりしても足に当たらないし、足がほっそり長く見える効果も。もちろん履き心地も抜群。足にぴったりとフィットするから、うちの夫は魚の目が治りました(笑)。

伊藤 え、ほんと? 治ってよかった! あ、この長靴はありがたいことにロングライフデザイン賞もいただきました。

栗原 市場の人はもちろん、一般の人にもオススメ。フェスとかウロコさんの長靴で行ったら絶対かっこいい! あと、私はウロコさんのTシャツも愛用していて。娘にもずっと魚河岸Tシャツを着せてるんだけど、サイズがちっちゃくなってきたからそろそろ買い替えないとな。

伊藤 Tシャツもグッズも、「築地」から「豊洲」になるから、それも楽しみにしていてね。築地を去るのは寂しいけれど、新しい市場も一緒に盛り上げていこうね。

栗原 もちろん! ウロコさんの長靴にTシャツ姿で決めて、豊洲にも出没しますよ(笑)。

>>「伊藤ウロコ」の写真をもっと見る

魚を知ること、魚を愛することが一番大事 「亀本商店」

  

次にクリトモさんが訪ねたのは「亀本商店」。フグをはじめとする高級魚の仲卸で、社長の菊本肇さんは、魚も築地も知り尽くした市場のプロ。テレビ番組のロケなどでもご一緒しました。「心から尊敬する大先輩なんだけど、すごく気さくでお会いすると元気をもらえる!」とクリトモさん。仕事中の菊本社長を直撃しました。

    ◇

栗原 わぁ、アマダイおいしそう! 

菊本 これは山口県だね。6月ぐらいから夏までが一番よくとれるんだよ。

栗原 キンメダイはめちゃくちゃ美しい!

菊本 きれいどころが来てくれるっていうから、赤くてきれいな魚そろえといたよ(笑)。

栗原 またまたぁ(笑)。アカムツもいいですね。でも、私はクロムツの方が好き。

菊本 アカムツは最近高級魚としてもてはやされてるけど、昔は下衆(げす)な魚だったんだよ。脂が強くて、練り物とかに使うしかなかった。それに比べて黒ムツは魚の格が違う。わかってるねぇ。

栗原 一応、料理家と魚屋の社長やってますから(笑)。その魚屋部門を担当している夫は今、亀本商店さんの一角をお借りして仕事をさせてもらってるんです。本当にお世話になってます!

菊本 旦那さん、とても真面目で魚のことをよーく勉強していて感心するよ。うちの社員にも、「魚を売るんじゃなくて、魚の知識を売れ」と常々言っている。魚屋にとって、魚を知ること、魚を愛することは一番大事なことなんだよな。

  

栗原 魚を愛する……魚一筋でやってこられた社長の言葉は胸にしみます。ところで、菊本社長はいつから市場で働かれているんですか?

菊本 ガキのころからたまにおやじの手伝いはしてたけど、ちゃんと働き始めたのは大学卒業してからだね。前の東京オリンピックの次の年だったから、かれこれ50年以上前だな。

栗原 すごい、まさに生き字引!

菊本 長くやってるだけ(笑)。

栗原 そのころから築地は変わりましたか?

菊本 昔の人の方が旬を大事にしたよね。7月にすし屋に行ってマグロを頼もうとしたら、おやじから「マグロは夏に食べる魚じゃない!」と一喝されて。昭和40年ごろから日本人がアジをよく食べるようになってね、俺が10月や11月に売ろうとすると「売るんじゃない!」と怒られるんだよ。

栗原 ちゃんと旬を売れ、と。

菊本 そう。でも、今じゃ魚も野菜もスーパーに行けば一年中売ってるだろ? 料理研究家としては、そこらへんどう思うの?

栗原 私が一番大事にしてるのが「四季」なんです。だって、その食材が一番おいしくなるし、安く手に入るから。そのおいしさを引き出してあげればいいんです。

菊本 友さんみたいに料理の仕事をやってる人が、旬の大切さ、おいしさを伝えていってくれるとうれしいねぇ。今の季節は何がいい?

栗原 私、小ヤリイカが好きなんです。パリッと焼き上げて、青唐辛子としょうゆかけて。

菊本 へー、いいねぇ。1杯いきたくなるね(笑)。

栗原 今度飲みながら魚談義しましょう!

>>「亀本商店」の写真をもっと見る

これぞ築地市場!「フグ除毒所」

  

菊本社長と飲む約束を交わし、亀本商店を後にしたクリトモさん。

「これぞ築地市場、というレアスポットがあるんです。行ってみましょう!」

目の前に現れた建物には「除毒所」という看板が。毒!? とひるむ取材スタッフに「ふぐの毒の処理場です。ここで毒のある内臓を取り除き、食べられる部分だけが仲卸業者で売られるんです」とクリトモさん。

立ち入り禁止区域内にあって一般の人は入ることができませんが、今回は特別に中を見学させていただきました。

一年中、大小さまざまな種類のふぐが持ち込まれ、最も扱いの多い春先には300キロ近くに上るそう。それを免許を持つ職人の方がどんどんさばいていきます。また、仲卸や場外の業者から持ち込まれる毒も、ここで管理・処理。大きな冷凍庫でまとめて冷凍し、ゴミとして焼却されます。

  

さらに、場内の東京築地魚市場ふぐ卸売協同組合によって、ふぐ調理師免許取得を目指す人を対象にした実技講習も実施。
「私たちが安心してフグのおいしさを堪能できるよう、築地市場が支え続けてくれた。感謝ですね」

>>「フグ除毒所」の写真をもっと見る

「築地市場がなければ、夫とも出会えなかった」

グルメ、人、レアスポットと、築地市場の魅力や思い出をたどってきたさよなら企画。最後にたまたま遭遇したのは、市場で仕事中だったクリトモさんの夫、賀茂晃輔さん。斉藤水産勤務時代の先輩で、「魚の目利きやおろし方を徹底的にたたき込んでくれた。今の私があるのは夫のおかげ」とクリトモさん。

「築地市場がなければ、夫とも出会えなかった。またまた築地に感謝!」

現在、2人は会社を運営。料理家として、魚屋として、ともに魚のおいしさを発信しています。

市場を見渡せる眺めのいい駐車場で、クリトモさんは最後にこう一言。
「最初はとにかく慣れようと必死だったなぁ……。たくさんのご縁をくれた築地市場への恩返しのためにも、これからは豊洲からたくさんの『おいしい』を届けていきたいですね」

>>写真の続きを見る

>>「クリトモのさかな道」のバックナンバーはこちら

PROFILE

栗原友(くりはら・とも)料理家

写真

1975年生まれ、東京都出身。2012年から4年間、築地「斉藤水産」に勤務した。現在は料理教室を中心に活動する傍ら、魚料理の啓蒙や、魚を用いた食育に力を入れている。また、東京・浅草の遊園地「花やしき」内の居酒屋「夜のさわぎ」をはじめとする飲食店のプロデュースなど、幅広く活動中。近著に『クリトモの大人もおいしい離乳食』(扶桑社)、『クリトモのさかな道 築地が教えてくれた魚の楽しみ方』(朝日新聞出版)。http://kuritomo.co.jp/

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

栗原友(くりはら・とも)料理家

写真

1975年生まれ、東京都出身。2012年から4年間、築地「斉藤水産」に勤務した。現在は料理教室を中心に活動する傍ら、魚料理の啓蒙や、魚を用いた食育に力を入れている。また、東京・浅草の遊園地「花やしき」内の居酒屋「夜のさわぎ」をはじめとする飲食店のプロデュースなど、幅広く活動中。近著に『クリトモの大人もおいしい離乳食』(扶桑社)、『クリトモのさかな道 築地が教えてくれた魚の楽しみ方』(朝日新聞出版)。http://kuritomo.co.jp/

今、あなたにオススメ

Pickup!