このパンがすごい!

「卵の量を10g単位で変えて50回」ぷにゅっとした食感を実現のドーナツ/ THE STANDARD BAKERS

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年9月11日

 採石場跡の巨大地下空間(大谷資料館)で名高い宇都宮・大谷石の里に、ベーカリーレストラン「THE STANDARD BAKERS」が誕生。

 昭和的なレストハウスだった建物をリノベーション、木製の屋根裏や鉄骨の梁(はり)を生かした、居心地のいい空間だ。供されるのは、地元食材を使った、インパクト抜群のパン。

ガーリックトースト

 芝生か? というぐらい青々と茂った「ガーリックトースト」。水平に切ったバゲットの空き地を緑化するように薬味がふりまかれている。小ネギ、そしてパセリ(いつものお飾りではなく堂々主役!)。怪獣になったみたいに、緑の空き地を持ち上げ、ガオーと大口でかぶりつく。皮ばりばり、直後にじゅるじゅるーと、中身にたっぷり吸わせたエスカルゴバターがあふれだす。ニンニクのコクとバターの甘さ、ネギとパセリの芳香と苦みがお互いを引き立てる。

グランシェフ氏家由二さんと、シェフの白石和也さん

 以前この欄で紹介した宇都宮のパニフィカシオンU、オーナーシェフの氏家由二さんが、パンをプロデュースする。シェフに迎えたのは、「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」時代の同僚だった白石和也さん。この2人、すごいパンを生みだす名コンビだ。

 岩か? と思ったらドーナツ。「クラップフェン」の、なんとも不思議なぷにゅぷにゅ感! オイリーさとともに、ぷにゅっと悦楽の歯ごたえ。まきちらされるレーズンの果汁、ラムの芳香。そこへ追い打ちをかけるように、ちゅるーんと溶けてくる国産小麦の甘さが、やさしくもセクシー。

 この食感を出すため、「卵の量を10g単位で変えながら50回はやり直しました」と白石さん。「大谷なので、クラップフェンが石っぽくていいんじゃない? と思ったんですが、大谷石は四角なんですよね(笑)」と氏家さん。

ズッキーニとナスのピゼッタ

 軒先で月2回日曜日に朝市を開くなど大谷の生産者と連携。「ズッキーニとナスのピゼッタ」に使われるのも地元産。ズッキーニの、ジューシーさ、さくさくさ、青い香りに感動。軽めの火入れが、素材を活かす。フォカッチャ生地は、唾液(だえき)に触れてゆるっと溶け、小麦の甘さが滲(にじ)んでは、野菜の味わいとランデヴー。ふるふると揺れるほど生地がやわらかいのに驚愕(きょうがく)。

「ミキシングはあまり練らない。下手したら小麦と水が混ざりきらないぐらいの短さ。水分も多いので、パンの形になるかどうか、ぎりぎりのせめぎ合いです」(氏家さん)

パン・ド・ミ ラ・フレーズ

 栃木にきたら、脊髄(せきずい)反射的にイチゴが食べたくなる人情に見事応える「パン・ド・ミ ラ・フレーズ」。二大人気食材、イチゴと食パンが無敵の合一。ふわりとエアリーに弾んでふにゃーんとあえなく溶け、イチゴの香りが口中にあふれかえる。イチゴのセミドライを噛(か)んだときがショータイム。いっしょに巻き込まれたミルククリームとあいまって、沸き起こるイチゴミルク的快楽。

 ヴィジュアルを見たら、手にとらずにいられない「卵サンド」。ミニ食パンみたいな形の生地は、ふわりもっちりという理想のクッション性能。そこからはみだす山盛りの卵サラダ。那須御用卵のすばらしい甘さと、ちゅるりと溶けるパンのミルキーさの相性。ケッパーの心地いい酸味と相まって、もうすいすいがぶがぶだ。

 このパン生地もありえない作り方をすると白石さん。

「冷水で冷たい生地を作ってすぐに冷凍。必要な分だけ解凍して使います。最初、氏家に『これ作ってみて』って言われたレシピ通りこねたらどろどろ。計量をまちがえたと思って3回やり直しましたがやっぱりどろどろ。でも、そのまま進めてみたら、もちもちのパンになった」

 すごいパンと、古い建物を生かした空間、それにおいしい地元食材。3つがそろったこの店は、市街地から遠く離れているというのに平日でも人だかり。

「魅力的なベーカリーレストランを作れば、人が集まってくるんだって実感します。これから焙煎(ばいせん)所を作る計画もあります」(白石さん)

 食によって、大谷がもっともっとおもしろい町になっていく。

>>続きはこちら

■THE STANDARD BAKERS
栃木県宇都宮市大谷町1159
028-652-5588
10:00~17:30(土日祝は8:30~18:00)
火曜休(大型連休期間は火曜営業。年末年始、その他不定休あり)
https://the-sbk.com

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら


PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

写真

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰

日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

連載をまとめた「日本全国このパンがすごい!」(朝日新聞出版)が待望の書籍化!北海道から沖縄まで全国の「すごいパン屋!」を紹介。ディレクターズカットを断行、エッセンスを凝縮し、パンへの思いもより熱々で味わっていただけます。
税込1,296円

今、あなたにオススメ

Pickup!