東京ではたらく

イラストレーター:神田めぐみさん(33歳)

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2018年9月13日

  

職業:イラストレーター
勤務地:各地
仕事歴:11年目
勤務時間:不規則
休日:不規則

この仕事の楽しいところ:外で見てきたことを自分が好きな絵という形で表現し、たくさんの人に伝えられるところ
この仕事の大変なところ:締め切りに追われること

    ◇

フリーランスのイラストレーターとして活動して11年目になります。仕事は主に出版社などから依頼を受けて雑誌や書籍、ウェブ媒体などのイラストを描くこと。フリーランスなので仕事がたくさんある月もあればそうでないときももちろんあって、そこはお勤めの方とは少し違いますね。

依頼があればどんなジャンルの絵でも描きますが、一番力を入れているのは山や旅などにまつわる分野です。

イラストレーターというのは基本的に依頼された内容についての資料をもらって、それをもとに絵を描くのですが、私の場合は実際に山や旅に出かけて、そこで見聞きしたもの、感じたことをイラストに起こす「ルポ形式」が大多数。

イラストレーターと聞くと部屋にこもってひたすら絵を描き続けるというイメージがあるかもしれませんが、私の場合は外に出て取材することも含めて仕事なので、少し特殊なのかなと思います。

絵に興味を持ったのは幼稚園とか、物心つく前だったと記憶しています。私は3姉妹の末っ子なのですが、3歳上の長女が子供の頃からお絵描きが好きで。気付いた時には姉のまねをして絵を描くようになっていました。

旅のイラストルポの下書き中。雑誌の見開きページの中に旅の要素をどう配置するか、レイアウトを考えるのも大切な作業。「出版社で雑誌編集の仕事を見てきたのが生きていると思います」

と言っても、小さな頃から絵を描く人になろうと思っていたわけでは決してなくて。中学生時代には映画にハマって、ちょっとませた映画女子。父がハリウッド映画が大好きで、小学生の頃からよく地元の映画館に半ば無理やり連れて行かれていました。

高学年になると友達と一緒に映画館に出かけて、「ハリソン・フォードがかっこいい!」とかキャーキャー言っていましたね(笑)。映画雑誌もよく読んでいて、今思えば雑誌好きの入り口はそこだったかもしれません。

高校ではソフトボール部に入部して部活に没頭しました。絵は変わらず好きでしたが本格的に習ったりは特にせず、進路にも芸術関係という発想はありませんでした。たぶんそれには一番上の姉の影響があって……。

その頃、姉は美術大学に進学していました。美大専門予備校の課題を覗き見したり、大学に入ってからの楽しそうな様子も聞いていたので、心のどこかで自分も同じ道に進みたいという気持ちもありました。

でもそこは姉妹の性と言いますか。子供の頃からずっと姉の後を追ってきたような気がしていて、「姉と同じことは絶対にしたくない!」とかたくなに思っているようなところがあったんです。

ところがいざ高校3年の夏になって部活動を引退すると、めちゃくちゃ成績が悪いんですね(笑)。部活漬けでほとんど受験勉強をしていなかったので当然です。

下書きができたら次は彩色。下絵をパソコンに取り込み、デジタルで着色することもあるが、最近は水彩で直接着色する方が好きなのだそう

それじゃあまあギリギリ受かりそうな大学に行こうかとも思ったのですが、「はて、大学で何を勉強したいのだろう?」と。

その時になって初めて、「せっかく勉強するなら、自分が好きな絵やデザインの勉強がしたい!」と自発的に思えるようになったんです。それまでは姉がどうこうと理由をつけていたのですが、もしかしたら決心がつかないことを姉へのコンプレックスのせいにしていたのかもしれませんね。

もちろん現役時代の受験は失敗。一年間浪人して、都内の美術大学へ進学しました。絵はもちろん、雑誌を読むのも好きだったので、デザインを専攻して、イラストやパッケージデザインなど、平面デザインについて学びました。

大きな転機となったのは山岳部への入部でした。きっかけは椎名誠さんの“怪しい探検隊”シリーズにハマったこと。“怪しい探検隊”は椎名誠さんが主宰する野外キャンプの会なのですが、特に探検活動をするわけではなく、離島等に行っては野営して、たき火を囲んで宴会をするという(笑)。それがものすごく面白そうなんですよね。

でもまねしたくても、自分の周りにはキャンプなんてする人はいないですし、ましてやそんな場所で夜な夜な宴会をするなんて、なかなかないことですよね。それで思いついたのが山岳部。山に登る人たちならたき火もするだろうし、お酒も好きそうだし……。単純な発想ですね。

8年間続けている山小屋取材。いつか一冊の本にしようと原画は大切に保管してある。「長く続けることで、山小屋という文化の記録を後世に残すお手伝いができたらとも思っているんです」

幸い美大にも山岳部があって、早速部室を訪ねて入部したのが2年生のとき。入部するやいなや毎日走り込みや筋トレがあってなかなかハードでしたが、いかんせん登山初心者だったもので。とにかく先輩について行かねば! と体作りにいそしみました。

山デビューは春の北アルプスでした。まだ雪がたっぷり残る高山を重い荷物を背負って登るのは地獄のようで、もちろんすぐにバテました(笑)。それでも、山では見たことのないような景色の連続で、辛さも忘れていっぺんに虜(とりこ)に。これが間違いなく人生の分かれ目になったと思います。

大学3年生になって就職活動が始まると、同級生たちはデザイン会社や広告会社など、まっとうな道に向かって進み始めました。でも、私はどこかグズグズとしていて……。

「絵で食べていきたい」という気持ちはありましたが、いきなりフリーランスのイラストレーターになると言っても、業界にツテやコネなんてありません。かといって自分が会社員に向いているかというとまったくもって自信がなくて。

それで改めて「絵以外に自分が好きなことってなんだろう?」と考えてみたとき、一番に浮かんだのが山でした。絵と山、これをセットにして働けるところはないだろうか。考えた末に思いついたのが、山岳専門雑誌の編集部で働くというアイデアでした。


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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

小林百合子

1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

野川かさね

1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
http://kasanenogawa.net/

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写真

1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
http://kasanenogawa.net/

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