上間常正 @モード

10回目のファッションズ・ナイトアウトのゆるやかな楽しさ

  • 上間常正
  • 2018年9月28日

いくつかのショップが集まっている広場

 猛暑が続いたのに、9月になったら突然の秋。もう来年春夏物ファッションの新作発表のシーズンが始まっていて、今週はパリでコレクション・ウィークが開かれている。東京では15日に青山界隈(かいわい)でヴォーグ誌主催の「ファッションズ・ナイトアウト」が開かれ、秋のファッションシーズンの皮切りとなった。

 この催しは、もう今年で10年目。世界的な不況で沈みがちなファッション業界を元気づけようと、米ヴォーグ誌のアナ・ウィンター編集長の呼びかけで始まった。ニューヨークだけでなく世界の主なファッション都市で、ほぼ一斉に毎年この時期に開かれている。日本では東京の一週間後に神戸で開かれ、ついで名古屋、大阪でも来月以後に開かれる予定という。

グッチ

 東京では、青山・表参道・原宿地区のブランド店やセレクトショップ、複合店舗施設、レストラン、カフェなど約480店舗が参加。表参道ヒルズなどで冨永愛など人気モデルやタレントらが参加しての記念セレモニーなどが開かれ、各店では営業時間をいつもより延長して飲み物や記念品を配ったり、この日のための限定商品や企画展を用意したりしていた。

 10年前と比べて店の数は増えているが、よりリラックスして落ち着いた印象を受けた。東京や首都圏のおしゃれな人たちが、なんだか楽しげに気になる店をのぞいて品定めをして、ちょっとした買い物も。最近はこの界隈でも昼間はよく見るインバウンドの外国人客のように、大きな買い物袋をいくつも手にしている人の姿は少なかった。

コムデギャルソン

 たった1日の催しでは、売り上げということでは直接的な効果はさして大きくはないだろう。この10年の間でも、銀座や六本木、汐留などでも若い世代も対象としたファッション店舗の新展開が進み、ファッション関連の店舗の集積が多様化してきている。そうした中で、この青山界隈でのファッションズ・ナイトアウトの一見ゆるやかな変わりぶりは、注目すべきなのではないかと思える。

 新たな顧客層を取り込んだり、店舗の効率化やコスト節約でよりいっそうの売り上げ増を狙ったりする売り方は、もう限界にきている。こうしたやり方はファッションの質的低下や均一化にしかつながらない。そうではなくて、ファッションの発信の仕方を広げて多様化していく試みが必要なのではないだろうか。

アンダーカバー

 たとえば、アンダーカバーのショップでは、デザイナーの高橋盾が制作した二つのビデオ映像作品を上映していた。一つはアンダーカバーがこの6月にパリでは初めて発表した2019年春夏のメンズコレクションのドキュメンタリー映像。東京のストリートファッションの帝王といわれた高橋の鋭い時代感覚と反抗精神が、今回のメンズ作品でより現代的な感覚でリフレッシュした息吹が伝わってきて、かつてデビューした頃に見た彼のショーのインパクトを思い出した。

 もう一つは、現代の吟遊詩人とも称されてしる歌手前野健太の曲「夏が洗い流したらまた」のミュージックビデオ。日本で働く外国人のカップルの揺れるせつない心と愛の模様が、日本の夏の終わりの風景と重なって心に染(し)みてくるようだ。こんな貴重な日本の夏はもうすでに失われようとしているのだが、それはいったい誰のせいなのだろうか? 高橋はビデオ映像制作に本格的に取り組みだしたようだが、これもやはり間違いなく美しいファッションの発信の仕方なのだ。

プラダ

 コムデギャルソンやプラダ、グッチなどの店のいつもとは違うゆるやかなにぎわいも、やはり華やかで楽しかった。一回目のナイトアウトでも感じた、いい物をゆっくりと選ぶ楽しみは、ファッションには欠かせないのだ。



>>上間常正 @モードのバックナンバーはこちら

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

今、あなたにオススメ

Pickup!