相棒と私

大原櫻子さん「1回キスしたら免疫がついたから大丈夫!」

  • 文 坂口さゆり
  • 2018年10月11日

撮影 田中聖太郎  

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、上演中の舞台『メタルマクベス』 disc2でランダムスター夫人を演じている大原櫻子さんです。

  ◇

私:大原櫻子(歌手・俳優)
相棒:横田美紀(俳優)

よこた・みき 1989年12月27日生まれ、東京都出身。舞台、ドラマ、CMなど幅広く活躍中。主な舞台作品に、ミュージカル『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』(18年)、幽霊(16年)、悪い芝居vol.17『キスインヘル』遠ざかるネバーランド(以上15年)、劇団☆新感線『ZIPANG PUNK 五右衛門ロックIII』(12年)ほか多数。

現在、劇団☆新感線の『メタルマクベス』disc2でランダムスター夫人を演じている大原櫻子さんが相棒に選んだのは、俳優の横田美紀さんだ。今年2月に日本で初演されたミュージカル「FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇」で共演したことで大切な「相棒」となった。

『FUN HOME ファン・ホーム』はアリソン・ベクダルの自伝的なグラフィックノベルを原作に、葬儀屋の家族の悲喜劇を描いたミュージカル。父が自殺した時と同じ年齢になったアリソンの回想を軸に、少女時代、父が自殺する前、その後の三つの時代を行き来しながら、父の死の理由を探る。2013年9月にオフブロードウェーで初演され、2015年3月にブロードウェーに進出。同年のトニー賞で最優秀ミュージカル作品賞など5冠に輝いている。

大原さんが演じたのは大学時代のアリソン。横田さんが彼女の恋人ジョーンを演じた。初めて対面したのは本読みに入る前のこと。横田さんが大原さんのライブに来てくれた。

「初対面の印象は、《この人、もうレズビアンの役作りに入っている!》でした(笑)」

「私はまだライブ中でしたので、舞台のことを意識していませんでしたが、ライブの感想など私と話している彼女の目を見て、強烈なエネルギーを感じたんですね。相性が合うのか合わないのかわかりませんでしたが、”本読みを楽しみにしよう!”と思っていました」

横田美紀さん

「当日は、最初の印象とは違って落ち着いて話ができた。息は合うし飾らないファッションや立ち居振る舞いを見た時に、私と似ているところがあるかもと。年齢は彼女の方が6歳上ですが、これは親しくできそうだと感じるものがありました」

稽古はゲームで始まった。それが1週間。さらに本読みに1週間。そんな演出家の小川絵梨子さんの稽古手法で立ち稽古が始まる時にはすっかり役者同士のコミュニケーションが深まっていた。大原さんにとってこの作品は芝居の怖さを教えられ、自分でもよくわからなかった壁を一つ乗り越えられた舞台だったと振り返る。

「絵梨子さんがよく言っていたのが《自分を信じなさい》ということでした。私は22年間生きている中で自分を信じることが本当に難しいと思っていました。でも、この舞台で演じている時だけは自分を信じていいんだ、と初めて思えた。美紀ちゃんも《自分を信じていいんだよ、もっともっと自分を愛さなきゃ》と言われていたので、2人でよく《絵梨子さんってすてきな言葉をくれるよね》という話をしていました」

互いに励まし合いながら稽古をする日々。そんな中、大原さんが稽古中に扁桃炎(へんとうえん)で体調を崩したことがあった。

「ちょうどキスシーンがあったんです。うつらないとは聞いていたんですが、もしうつしてお互い喉(のど)がガラガラになったら大変だと思った。“今日はやめようね”と言ったら、《全然問題ないよ》と美紀ちゃんからキスをしてきた。真剣に役に取り組む姿に“この人だったら身を全部任せられる”と思っちゃったほど(笑)。毎回謝って“今すぐうがいしてきて”と言っていました」

けれど彼女は「1回キスしたら免疫がついたから大丈夫大丈夫」と。

「彼女は恥ずかしいことを晒(さら)すのも厭(いと)わないオープンな人。私も彼女の前では恥を晒すことができました」

役者仲間であり、本音をかくすことなく言える相棒

公演がスタートした時は、一緒の舞台に立つにもかかわらず、朝から「おはよー」とLINEをし合い、「楽屋に着いた?」「着いたよ?」は当たり前。東京ほか地方公演も入れて1カ月強の間にすっかり仲良くなった。

今や毎日連絡を取り合う。思わず「その関係って相棒ではなく、親友なのでは?」と大原さんに尋ねてしまったほどだ。だが、大原さんは言う。

「確かに私たちは意味のないことを楽しめる友達でもありますが(笑)、私は仕事をする上で、素直な気持ちを伝えられる人こそ相棒だと思っています。私の言葉で傷つくかもしれないけど、“私はこう思うよ”と言える。本音をかくすことなく言えるのが相棒かなと。相手のことを一番思っていないと傷つくことも言えないのではないかと思うんです」

確かに年齢を重ねれば本音を言い合う機会は少なくなるのは誰もが感じるところだろう。実は大原さん、『メタルマクベス』disc2で夫人を演じることが決まった時、自分が役と「かけ離れている」という思いが拭えなかったという。性格や見た目が幼いと言われ、妖艶(ようえん)なイメージもない。相手役の尾上松也さんとは10歳も離れている……。

「2人並んで夫婦に見えるのかな、こんな悪女でいいのかな、と悩んでいました。美紀ちゃんに“どうしたらいいんだろ?”って尋ねると、《役者をやっているんだから自分と同じ要素がないのは当たり前でしょ》って。《だってその役に染まるわけでしょう? 自分にあった役というより自分とかけ離れている役を演じる役者さんは逆にいっぱいいるんじゃないの?》と言われたんです」

  

「確かにそうですよね。悪役をやる役者さんは実際会うと魅力的な人が多いですし、《楽しんじゃいなよ》と言われたのは、心強かったです」

役者なら誰もがリアルなキャラクターを創り上げようと知恵を絞り、苦しみもがく。だが、生き馬の目を抜くような厳しい芸能界にあって、誰もがそんな相談ができる役者仲間=相棒を持てるわけではない。厳しいことばにも耳を傾けることができるほど、信頼できる出会いは滅多にない。

「『メタルマクベス』の今日から立ち稽古という日だったと思うんですが、稽古前の午前中に1時間くらい空きがあったので、美紀ちゃんに連絡したんです。“新宿にいないよね?”と。そうしたら《いいよ、行くよ》って来てくれました」

撮影 田中聖太郎

「“これから稽古なんだけど”と言うと、開口一番《私も6年前に新感線の舞台に出たんだよね、いのうえ(ひでのり)さんはめっちゃいい人だよ。いのうえさんは怒らないし優しいし、お芝居を全部見せてくださるからすごくわかりやすい。だから安心して飛び込んで全然大丈夫。ただめっちゃ動くから食べなね》って。それがどれだけ私を安心させてくれたか。ありがたい言葉でした」

大原さんを見守るかのような横田さんだが、意外にも大原さんは「美紀ちゃんとしては私を支えようと思っていないと思うし、私もそういうつもりはない」ときっぱり。だが、「ずっとお互いのことを思っているし、本当にすごく大事な存在」とも。

「私たちの間では気を使わないことがルール。“こうしたほうがいいと思う?”という意見は互いに言うけど、最終選択はあなた次第。あなたがやることについて反対だったら反対するし、あなたがやることを応援するという感じ。お互い相手から好かれようとしていないんです」

「だから好きだし一緒にいて楽。私たちは仕事を通じて知り合った人生の相棒。まだ出会ってから短いですけど、おばあちゃんになっても仲良くありたいです」

  ◇

大原櫻子(おおはら さくらこ)
1996年1月、東京都生まれ。日本大学藝術学部映画学科卒業。小学2年生の時にミュージカル「アニー」を見て、歌や演技に興味を持つ。2013年に映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の全国ヒロインオーディションで5000人の中から抜擢(ばってき)され、俳優と同時に歌手デビューを果たす。2018年の主な出演作にドラマ「この声をきみに」(NHK)、舞台「Little Voice(リトル・ヴォイス)」、映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」など。2019年陽春、映画「あの日のオルガン」が公開予定。また、2018年は9枚目のシングル「泣きたいくらい」、3枚目のアルバム「Enjoy」をリリース。11月にはLIVEを収めた「大原櫻子 5th TOUR 2018~Enjoy?〜」のブルーレイ、DVDが発売予定。

ONWARD presents 新感線☆RS『メタルマクベス』disc2
Produced by TBS

2006年に初めて劇団☆新感線と宮藤官九郎がタッグを組み、初めて挑んだシェークスピア作品。新感線の中でも特に音楽を重視し、ロックバンドの生演奏にこだわる「音モノ」だ。西暦2218年の衰退した世界と空前のバンドブームに沸く1980年代の日本を舞台に、野望に取りつかれた夫婦の破滅を描く。脚本:宮藤官九郎 演出:いのうえひでのり 出演:尾上松也 大原櫻子/原嘉孝(宇宙Six /ジャニーズJr.) 浅利陽介/高田聖子 河野まさと 村木よし子/岡本健一/木場勝己 他。10月25日までIHIステージアラウンド東京(豊洲)で上演中。
公式HP


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