ART&MOVIE

家族の苦悩や離散、再会、愛と罪悪感…感情を揺さぶる映画『運命は踊る』

  • 文 坂口さゆり
  • 2018年10月12日

&w(アンド・ダブリュー)編集部がおすすめする、アートや映画の情報を随時ご紹介します!

今回ご紹介するのはこの映画!『運命は踊る』

(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

最近、中近東の映画が注目されている。イスラエル映画『運命は踊る』は、昨年の第74回ベネチア国際映画祭で監督賞の銀獅子賞を受賞。アカデミー賞で外国語映画賞のイスラエル代表に選ばれるなど、世界各国で多くの賞を受賞してきた話題作だ。監督はこれが長編2作目となるイスラエル出身のサミュエル・マオズ(56)。残酷な誤報によって運命の歯車が狂い出した家族を取り上げ、ミステリータッチのヒューマンドラマを完成させた。

ある日、ミハエルとダフナの夫婦のもとに軍の役人たちがやってくる。息子ヨナタンの戦死を知らせるためだ。ダフナはショックで気を失い、ミハエルは平静を装うが、その後しばらくして息子の死が誤報だったことがわかる。ミハエルは激怒し、息子をすぐさま呼び戻すよう要求する。だが、この要求が思わぬ悲劇へと繫がっていく……。

(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

本作のきっかけとなったのが、マオズ監督自身の体験だった。ある朝、朝が苦手な高校生の娘にタクシーを呼んでくれと頼まれた。だが、それに腹を立てた監督はバスを使うように命令。娘は父の言葉に従って家を出たのだが、30分後にそのバス停でテロ事件が発生したとニュースで知る。バスは爆発し何十人もの人が亡くなった。監督は人生で最悪の時を過ごすはめに。幸いにも娘はバスに乗り遅れたため、1時間後に無事に帰ってきたという。

「娘のその事件が本作のインスピレーションになりました。同時に、運命は人生をつかさどることができるのか、もしできるならその代償はなんなのか、映画ではそんな哲学的な問いも提示したかった」

(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

前作『レバノン』では、20歳でレバノン戦争に従軍したマオズ監督個人のトラウマを描いた。今作では「一個人に焦点を当てながら、ホロコーストというトラウマを抱えたイスラエル社会全体の有り様を描きたかった」とマオズ監督は言う。

英題は『FOXTROT(フォックストロット)』。1910年代のアメリカで流行した4分の4拍子や2分の2拍子の社交ダンスのことだ。前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろへ、後ろへ、左へ、ストップと、もとの場所に戻ってくるステップを、どうあがいても元の場所に戻ってきてしまう、人間が運命とともに踊るダンスに例えた。

(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

「この映画は政治色を帯びていたり、哲学的な問いを投げかけたりという側面はありますが、家族の苦悩や離散、再会、愛と罪悪感の葛藤などを描きたかった。私はどの作品も人の感情を揺さぶるヒューマンドラマでなければならないと思っています」 

監督のその言葉通り、子を思う親の気持ちを一つにしても世界共通。中東映画は難しそうという色眼鏡は外して身を委ねたい。

監督:サミュエル・マオズ 出演:リオール・アシュケナージー、サラ・アドラー、ヨナタン・シライ、ゲフェン・バルカイ、デケル・アディン、シャウル・アミールほか。ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

    ◇◇◇

『運命は踊る』が気になる方へ、おすすめしたいもう1本!

『ピンク・スバル』

日本人がイスラエル、パレスチナと聞けば、多くが「紛争」をイメージするに違いない。だが、そんなイメージを見事に打ち破ってくれるのが「ピンク・スバル」。散々待ち焦がれ、納車された「スバル」を盗まれた主人公ズベイル(アクラム・テラーウィ)が、愛車を取り戻すべく奮闘するコメディータッチの人間ドラマだ。

主な舞台となるのは、ズベイルが住むイスラエル・タイベと、そこに隣接するパレスチナ・ヨルダン川西岸地区の街トルカレム。タイベはイスラエル国籍のアラブ人が多く住み、車泥棒が多く住む街としても知られる。彼らはカーディーラーが少ないトルカレムで車の供給を担う。この地域においてイスラエルとパレスチナは、持ちつ持たれつの“共犯関係”にあるのだ。

ズベイルが20年間コツコツためたお金でやっと手に入れた憧れの新車スバル。妹の幸せを願う彼は、そのマイカーで彼女を結婚式場へ運ぶという夢を思い描いていた。近隣の人々とお祭り騒ぎをして納車を喜んだズベイルだが、翌朝、スバルは跡形もなく消えていた。盗難車がトルカレムで解体されるのは時間の問題。ショックを隠せないズベイルだが奪われたスバルを奪還すべく、すぐに大泥棒に助けを求めるが……。  

常に紛争を抱えるイスラエルとパレスチナにありながら、平和に生きる人々の顔を映し出したのは、日本人の小川和也監督。映画公開当時にエグゼクティブ・プロデューサーを務めた宮川秀之さんに話を聞いたが、タイベとトルカレムの街はいつも平和で爆撃を受けたことがないのだとか。紛争どころか共存関係にあるという事実には本当に驚かされた。大いに笑って楽しみたい。

監督:小川和也 出演:アクラム・テラーウィ、ラナ・ズレイク、ジュリアーナ・メッティーニ、川田希、ダン・トレーン、小市慢太郎、ニダル・バダルネ、ミハ・ヤナイほか。DVD発売中 4800円(税抜き) 販売元:TOブックス

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