このパンがすごい!

3時間かけて250個のぶどうの皮をむく……こだわりのフルーツサンド/円居

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年10月10日

フルーツサンド。マンゴーキウイとバナナキウイ

 世にもうつくしいフルーツサンドが岐阜にあった。まるで大理石のキューブに色とりどりの宝石が埋(うず)もれているように見える。

 岐阜城のお膝(ひざ)元である岐阜市長良。しっとりとした街並みにある、築100年の古民家。日本家屋独特の陰影の底に、木箱にフルーツサンドが居住まい正しく収まっている。うつくしさゆえに思わず伸ばした手は、そのあまりに傷つきそうな繊細なたたずまいに、取るか取るまいか逡巡(しゅんじゅん)してしまう。

 そうなのだ。形あるものと流れ去るもの。両者ぎりぎりの境界上にこのフルーツサンドはいる。私が訪れたとき並んでいた「巨峰マスカット」。輝くばかりの果肉は、口に入るや果汁と香りをほとばしらせる。と同時に、キューブ状に固まっていたはずのクリームはみずみずしくとろけだし、果汁と混ざり合って、甘美な甘美なスムージーとなる。

 ありえない。果物からは果汁が出るし、クリームはやわらかな立て加減。なのに、注文後に作れるイートインならまだしも、四角く端正な形をして店に鎮座していたのに、舌を濡(ぬ)らし、喉(のど)を奔流が駆け下っていくのだから。夢の中にしかないようなフルーツサンド。門脇磨奈美さんはそれを形にした。

フルーツサンド バナナキウイ

 「パンに水分が滲(し)みてるのが残念なんです。数時間あとでも滲みだしてこないのを作りたい」

 フルーツサンドはみずみずしく豊潤であればあるほどおいしい。でも、そうであるほど作るのは困難だ。水分に強い食パン生地を考案、フルーツの水分は丹念に拭き取る。それでも、ぶどうだけは水分が多すぎてどうしてもはさめなかった。 

 「岐阜はぶどうの産地。あのうつくしい色の断面を絶対に作りたい。なんとかしたい。できないと思うほど、やりたくなっちゃうタイプで」

 あらゆる手段を試し、ついにぶどうの果汁を滲みださせない方法にたどりついた。

 「一皮残してむく。250個のぶどうの粒をむくのに3時間かかります」

フルーツサンド 巨峰マスカット

 どんなに困難でも、自分のこうしたいという思いを決して裏切らない。原価度外視で、地元の果物屋から最高のクオリティーのフルーツを仕入れる。口に入れた瞬間、香りと豊潤さで、そのことは確実に知れる。

 多くのクリームサンドにおいて、パンは、手を汚さないためのカバーにすぎない。果物とクリームの風味を損なわない淡麗さこそあれ、そこに小麦本来の香りが求められることはなかった。ところが、ふるると揺れるこの食パンが滲(にじ)むと、小麦のでんぷん質の口溶けと果汁が融合し、むんむんする香りが鼻を抜けていく。フルーツサンドが生命をはらみそれ自体ひとつの果実のように感じられるのだ。

 門脇さんのパンはなににも似ていない。一言でいえば、素朴を素朴のままどこまでも洗練させていったという感じ。

楚々/プレーン

 ランチのサンドイッチで出た、「楚々/プレーン」というまるぱん。自家製のツナと焼きトマトをはさんだ、丁寧な具材もさることながら、パンの印象は圧倒的。新しいしっとりやわらか感。ふにふにふにとされるがままに歯に押しつぶされていく快感。甘さは溶けるとともに液体に変わり、喉を流れ落ちていく、その心地よさ。後味にも、海辺の風のようなミネラリーなさわやかな旨味(うまみ)が口の中にずっとある。

雪/焙じ茶きなこ

 「丘/コーヒーホワイトショコラ」というマフィンのしっとり感、やわらかさ。口に入るやいなや、ねっとりしつつちりぢりばらばらになり、流星群のように、尾を引きながらそれぞれが溶け、消えていく。コーヒーの香り、ミルキーさ、小麦の香りをふりまきながら。

 門脇さんは、ベーカリーでの修業経験もなく、パンを独学で作り上げたという。

 「正解は自分の中にしかない。自分が答えを出していくしかなくって。料理もパンもものすごく試作します」

 「食べ物はまず視覚」が門脇さんの信念。うつくしいものはおいしい。誰もがなんとなく思っている経験則は、円居で確信に変わる。

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■円居(まどい)
岐阜市長良142-1
058-374-0820
11:00~16:00
水曜・金曜・第一日曜営業

※フルーツサンドは季節ごとに旬の果物で作られます。ここに取り上げたフルーツサンドは取材時のものです。


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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

写真

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰

日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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写真

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