東京ではたらく

タクシードライバー:奥富もえさん(25歳)

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2018年10月11日

  

職業:タクシー運転手
勤務地:東京都三鷹市
仕事歴:4年目
勤務時間:不規則
休日:不規則

この仕事の面白いところ:日々、様々な人と出会えるところ

この仕事の大変なところ:どんなお客様に出会うかわからないからこそ、その場で臨機応変な対応が求められるところ

    ◇

タクシードライバーとして勤務して4年目です。現在は三鷹の営業所に所属し、毎日都内各所を走っています。

タクシードライバーという職業に興味を持ったのは大学3年生の時。大学では経営学を専攻していたのですが、正直なところ、就職についてはっきりとした夢や目標を持てずにいました。

それでも就職活動は待ってくれませんから、とりあえず様々な企業が合同で開催する会社説明会に参加したのですが、そこに今勤務している国際自動車のブースがあったんです。

タクシードライバーというと、なんとなく年配の方が多い職種かなと思っていたのですが、ブースで説明を担当しているのは若い社員さんだったんです。当時は東京オリンピックの開催が決まったばかりの頃で、「これからのタクシー業界には若い力が必要なんです。一緒に頑張りませんか?」と熱く語ってくださって。

もし自分が入社するとしたら2015年に1年生。6年目の2020年に東京オリンピックを迎えることになります。それ自体もワクワクしましたし、何より「自分たち若い世代が新しい発想で業界を盛り上げていけるかもしれない」という点に魅力を感じて、一気に興味が湧いてきたんです。

点呼を終えて仕事に出発する車のライト点灯点検をしたり、声かけして見送るのも大切な仕事

もともと車の運転は嫌いではなかったですし、大学時代はレストランで接客のアルバイトも経験して充実感も感じていたので、自分としては問題ないだろうと思っていたのですが、やはりまだまだ女性が少ない職種ということもあって、両親は少し心配していましたね。

私自身は女性であることをあまりネガティブに捉えていなくて、採用試験の段階から「女性だからできないこと」より、「女性だからこそできること」について考えていました。

「タクシーに乗るのはどんな時だろう?」と改めて考えてみると、大抵は何かの事情で急いでいたり、困っていたりする時なんですよね。例えば急に雨が降ってきたとか、体調が悪くなったとか、寝坊して仕事や約束に遅刻してしまいそう!とか(笑)。

そんな困っている人を手助けするのがタクシーですから、「これはもう究極のサービス業だ!」と学生時代の私は思っていて。

だとしたら女性だからこそできる細やかな気配りやサービスはあるし、そこを必要とされるドライバーに自分はなりたい。採用選考が進むうち、そんな風に強く考えるようになりました。だから採用が決まったときはとてもうれしかったですね。

営業所の掲示板には最近起きた交通事故の事例や最新の道路工事の情報などが。毎日数回行われるドライバーの点呼時に共有している

入社後はまずタクシードライバーとして勤務するのに欠かせない二種免許を取得するため、教習所通いが始まります。それと並行して接客の対応やマナーを学ぶ研修を受けます。

接客とひとくちに言っても色々ありますが、ことタクシーでの接客で一番難しいのはお客様の顔や目を見てお話しできない所なんですよね。特に運転中はなかなか振り返ることができないので、お互いの表情を読み取れません。

そういう状況だと、こちらは普通にお返事をしているつもりでもお客様に聞こえづらかったり、少しぶしつけな印象になってしまったりすることがあるんです。そういうタクシーならではの接客についても新人研修で徹底的に学びます。

その後は都内各所にある営業所に配属され、今度は運転についての実践的な研修が始まります。またタクシードライバーとして勤務するためには所定の地理試験をパスしないといけないのですが、これもなかなか大変で……。都内の主要な幹線道路や交差点、施設などを頭にたたき込みます。

営業所の班長を務めている奥富さん。出発前のドライバーたちの勤務表をチェックしたり、身だしなみについて指摘することもある。「みなさん大先輩なので恐れ多いのですが(笑)。それでもやりがいのある役割です」

私は東京出身なので少しは土地勘がありましたが、地方出身の同期は大変そうでしたね。それに東京の街並みはどんどん変化していくので、前まであった商業施設が別のビルに変わっていた!なんてことも珍しくありません。そういう意味では東京の変化にとても敏感な仕事だと思います。

毎日都内を走り回っているので、季節ごとの街並みの素晴らしさも感じます。特に春の桜と秋の紅葉は素晴らしくて、何度見ても飽きません。特に好きなのは外苑前のイチョウ並木ですね。紅葉の時期はあの辺りまでと注文していただくと少しうれしくなったりします(笑)。

そして入社から1カ月半ほど、すべての研修や試験をクリアするといよいよ初乗務の日を迎えます。緊張しすぎていて一番目のお客様だったかどうか定かではないのですが、初日に接客した年配の女性のことは覚えています。

たしか病院までお連れしたと記憶していますが、「今日が初めてなんです」と伝えると、「頑張ってね」とやさしく声をかけていただきました。

「タクシーは困っている人の手助けができる仕事だ」。学生時代に持ったその気持ちを現実に感じられた瞬間でもあって、やっとドライバーとしてのスタートラインに立ったんだなという実感が湧きましたね。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
http://kasanenogawa.net/

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