鎌倉から、ものがたり。

江ノ電を眺めながら味わう、地元産ジェラート「GELATERIA SANTi」

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2018年10月12日

>>「GELATERIA SANTi」(前編)から続く

 鎌倉駅西口から歩いてすぐ。御成商店街の細い路地の突き当たりにたたずむ「GELATERIA SANTi(ジェラテリア・サンティ)」は、本場イタリア仕込みのジェラートを売るジェラテリアだ。

 ジェラテリアをわかりやすく説明すると、「イタリアのアイスクリームショップ」となるだろう。ただ、ジェラートと、日本の日常になじみのある市販のアイスクリームとは、特徴が少し違う。

「イタリアのジェラートは、『地元の新鮮な素材をぜいたくに使っていること』と、『その場で職人が手作りをしていること』のふたつが大きな特徴になっています。うちでも隣接する工房で毎日、その日その日の素材を大切にしながら作っているんですよ」

 と、オーナーの松本愛子さん(33)。ジェラートを語る時、その大きな目がきらきらと光る。

 ともに経営にあたる夫の松本純さん(34)も、ジェラート愛では負けていない。

「ジェラートには、確立した製造理論があります。水分、糖分、脂質、乳固形分といった要素の適切な構成が不可欠で、その理論を忠実に守ることで、本物の味わいが実現できます。そんな本物のジェラートを、多くの方に味わっていただきたいので、店では調達のポリシーも明確にしています」

 国内外から仕入れる材料の品質を吟味することはもちろん、国内産を調達する時は、生産者を訪ねて、互いの思いを確認し合う。ジェラートに不可欠な牛乳や卵は、牛や鶏が幸せそうに暮らしている農場のものを選び、果物や野菜は地場産を中心に、自然に近い農法のものを使う。

 地場産品の調達は、鮮度を大事にするとともに、配送などにかかる環境的な負荷を減らすため。保存料、香料、着色料といった人工添加物も一切使わない。

「ふたりで世界中を旅した時、都会よりも、経済が発展していない土地にいる時の方が、体調がよかった。それは、複雑な流通を経ないで、土地のものを新鮮なまま、食べることができたからだと思います」(純さん)

 店の舞台となる木造家屋は、戦後に建てられたもので、改装前は、木の床板が抜け落ちていたり、雨もりがしたりと、老朽化が目立っていた。路地の突き当たりで、表通りに面していない立地条件にも、一抹の不安があった。

 しかし、商店街を通る人々は、細い路地の先にたたずむ店を見て、「あそこに何があるんだろう?」と、ワクワクした気持ちとともに足を伸ばす。しかも店の真横は江ノ電が走り、江ノ電「鎌倉」駅も目と鼻の先だ。

「ほかにも物件候補をいろいろ見ましたが、ここほど心躍る場所はありませんでした」と、愛子さん。どうしても、この立地でやってみたいと願ったふたりは、自作のジェラートを携えて、持ち主に会いに行ったという。

「そうしたら、その方が『アイスクリーム命!』ということで、意気投合。味にも納得していただけたんです」(愛子さん)

 まもなくオープンから半年。大量生産・大量消費と対極のやり方を通しているので、ミルクもチョコレートも果物も、季節によって味わいが変わっていく。試作を何度も繰り返す一方で、ひらめきから作り出す「ローズマリーハニー」や「スパイスブッシュ(和名はクロモジ)」といった個性派フレーバーも、鎌倉では人気を呼ぶ。

「会社員時代は、人の仕事を外からあれこれいっているだけでしたが(笑)、いざ自分でやるとなると、おじけづくこともあります。でも、手と体を動かしていると、どんどん前向きになっていきます」

 ふたりのような若い世代の地域起業が、鎌倉のまちをますます活性させていく。

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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

清野由美

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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清野由美(きよの・ゆみ)

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ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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