川島蓉子のひとむすび

<54>糸井重里さん “皆でつくって『足し算』を実感”。大阪「生活のたのしみ展」

  • 川島蓉子
  • 2018年11月7日

前回は、糸井重里さんが率いるほぼ日が、9月に大阪の阪急うめだ本店で行った「生活のたのしみ展 出張巡回展」をご紹介しました。デパート内の2フロアにわたり、たくさんの店が軒を連ねる市場のような場で、多くの人が集い、買い物していました。そこには、わざわざたのしみ展を訪れた人と、デパートに来てたのしみ展に出会った人とが混ざっていて、過去に六本木ヒルズや恵比寿ガーデンプレイスで開かれた、たのしみ展とは少し違う――幅や奥行きが、一段と広がったように見えたのです。

お店でおしゃべりしながら、じっくり商品選びを楽しんでいる人がたくさん

これは、ほぼ日と阪急うめだ本店が、互いに良いかたちで握手しているイベントと感じました。そして、このおもしろい場がどのようにしてできあがったのか、もっと知りたいと思ったのです。

「実際にお会いしたのは、2回目のたのしみ展がちょうど終わった、昨年の末くらいのことでした。うめだ阪急の方たちが、僕らのやっていること、やりたいことを、すでにとてもよく理解してくれていたんです」と糸井さん。

「チームが意見を忌憚(きたん)なく交わしていて、社員の人たちがうめだ阪急で働いていることに誇りを持っているんです。それはいいことだし、ほぼ日の会社の考えに似ていると思いました」。そういう相思相愛のかかわりがあったから、イベント全体にいい空気が流れているのだなと腑(ふ)に落ちました。

入り口付近に、糸井さんと阪急うめだ本店からのメッセージが

会場の一画に、糸井重里さんと阪急うめだ本店からのメッセージが記された、黄色い看板がありました。そこには、「劇場のような、たのしさにあふれた百貨店でありたい、と、阪急うめだ本店は考えてきました」と綴(つづ)られています。

9階に「たのしみマーケット」と名づけられた、たくさんのお店がぎゅっと並んでいるエリアがあったり、10階に「すてきなプロムナード」という、おしゃれなショップがゆったり並んでいるエリアがあったり、2つのフロアをつなぐ大階段を上がったところに「LDK&CAFE」という、服とコーヒーのお店があったり――大きな吹き抜けの下にある大階段に座っておしゃべりしたり、コーヒーを飲んでいる人もたくさんいます。そこも含めた風景は、ちょっとした劇場のように見えました。

メッセージに綴られていた「お客さまとつくり手と、お店の人たちと、みんながそれぞれのファンになるような、そんな広場が出現してくれるはずと思ってやりました」という糸井さんの考えと、「いまだかつてない時間が流れるのではないかと、みんなワクワクしています」という阪急うめだ本店の意図するところが、出張巡回展として実現したのです。

ほぼ日のチームに聞いてみると、「ゆっくりおしゃべりして買い物するお客さまが目につきました」「三世代で楽しんでいるお客さまがいるところにも、デパートらしさがあると感じました」という話などなど。「お客さま、つくり手、お店の人」が良いかたちでつながるたのしみ展が、阪急うめだ本店と良い化学反応を起こしたとも――。

会場の一画で行われたトークショーは立ち見もでる大盛況

会期中、スペシャルなトークショーも開催されました。この6月、糸井さんが企画して行った「はじめての前川清。」と題したコンサートのようすを収めたCD発売の記念トークや、伊藤まさこさんと糸井さんが「生活のたのしみってなんだろう?」と語り合う場などが行われ、どれもぎっしりの人だかり。歌手の前川清さんと、スタイリストの伊藤まさこさん、それぞれとのおしゃべりが、まったく違う分野だけどひとつの線でつながっている――振れ幅は大きいのに、違和感がなく楽しめる。これが本来のデパートの持っている力であり、ほぼ日がめざしていることかもと思いました。

伊藤さんとの対談の中で、「お客さんがたのしそう。このイベント全体にかかわっているというか(伊藤さん)」「そうなんです。出展する人、働く人、買う人、全員がじつは同じなんです。みんなでつくり上げて、仕上げているんです(糸井さん)」というやりとりに、うんうんとうなずくところがありました。

お店に並んでいるものも楽しいけれど、それと一緒に、人のストーリーや人と人のつながりがあるのが、このイベントの魅力になっているのです。

詰め合わせが楽しい「おいしいもの つめあわせ BOX」/撮影・鈴木愛子

ふたをあけると「おいしいもの」が飛び出してくる/撮影・鈴木愛子

私が買ったもののひとつに、ほぼ日オリジナルの「おいしいもの つめあわせ BOX」があります。「おやつミックス」「紀州の、うめ酢」「カレーの恩返し」に「ほぼ日のジャム」などなど、ほぼ日ならではのおいしいものが、ミニサイズで箱に入っています。それぞれのアイテムを買ったことはありましたが、小ぶりのものが詰め合わせになっていると、また違った顔つきになるし、お店の人の丁寧な説明を聞きながらおしゃべりしていると、あの人に贈ると喜ばれそうと想像が広がっていきます。

「たのしみ展は、ほぼ日のみんながつくっているということが『足し算』になっていると実感できるようになりました。ぼくが思いつかなかったことを、みんながじぶんで考えて、『あれはよかったね』ではなく、『前はこうだったけれど、次はこうやりませんか』と言ってきてくれる。それが着実に増えたんです」と糸井さん。

前に進もうとする独自の知恵がたくさん盛り込まれているから、お客さんも「次はどんなことをやってくれるんだろう」とたのしみに訪れる。そんな場ができているのだと思いました。

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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