川島蓉子のひとむすび

<55>グランドセイコー×HIROKO HAYASHIの限定コラボ「Miss.K」

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2018年11月21日

  

セイコーウオッチの腕時計ブランドである「グランドセイコー」が「HIROKO HAYASHI」とコラボレーションした限定モデルを出すというニュースを耳にしました。

「HIROKO HAYASHI」は、林ヒロ子さんが1993年に立ち上げた革製品のブランド。使い勝手が良くて上質さのある造りが気に入り、名刺入れや財布などを愛用してきました。かつてはパリコレなどでモデルを務め、現在はイタリア・ミラノと東京を行き来しながらデザインを続ける林さん。インタビューしたこともあるのですが、きりりとしたエレガントなたたずまいは、生み出された革製品に相通ずるものがあると感じてきたのです。

一方「グランドセイコー」は、グッドデザイン賞の審査委員を務めたのが出会いでした。時計の老舗であるセイコーが、“最高峰の腕時計を目指して、正確さ、美しさ、見やすさといった腕時計の本質を追求したもの”であり、1960年にスタートしたというのですから半世紀以上の歴史あるブランド。日本一のメーカーが真摯(しんし)にモノ作りを究めようとする姿勢に深く共感しましたが、メンズのイメージが強くて、レディースがあるのは知りませんでした。「HIROKO HAYASHI」とコラボして、どんな腕時計ができあがったのか好奇心が湧き、取材に行きました。

大人のエレガンスを漂わせている林さん

「以前から腕時計に強い関心を抱いていて、手がけるのが夢のひとつだったのです」と林さん。豊かに波打つ白いロングヘアにかっちりしたメガネ、細身の黒いニットをまとった姿に知性と品位が備わっていて、こういう風に歳を重ねることができたらと憧れます。

一方、セイコーのデザイン統括部長を務める種村清美さんは「コラボするなら表層的なものでなく、本質的な取り組みにしたい。グランドセイコーに欠けているモード的なエッセンスを表現するには、林さんしかいない、と思いました」という熱いラブコール。相思相愛のかかわりから、このプロジェクトはスタートしたのです。

両者ががっぷり組んでできあがったのが「Miss.K」

できあがったのは「Miss.K」をイメージした腕時計。コンセプトをつづった一文は「彼女は正に大人の不良だ。いつも自分勝手だが、なぜか約束の時間に遅れた事は今まで一度もない。彼女は腕時計に付いているダイヤモンドをガラス玉と呼ぶ。大事なのは、思い出と夢を身につけている、という事らしい」――自分の価値観を持っていて、安易にそれを譲らない。人への敬意や礼節を大切にする。世の中の評価軸に寄りかかることなく、自分の好き嫌いでものを選ぶ。過去と未来にわたる生き方に夢を抱いている。そんな女性像とともに、彼女がいとおしむ腕時計がヴィヴィッドに浮かび上がってきます。

「時をどう解釈するか。コンセプトは考えに考え抜きました。最後に登場したのは、実在する知り合いの女性でした。人間的に素直で、やると決めたら徹底してやり抜く。すごい行動力を持っている人で、彼女のようなキャラクターの女性に添うデザインをしたのです」と林さん。

ダイヤモンドが付いているパーツは、セイコー独自の技術で美しく研磨されています 

文字盤の両側を、優美な弧を描いたダイヤモンドの連なりが彩っています。何げないように見えて、つけてみると予想以上に華やかですし、声高に主張しているわけではないのに、確かな優美さを感じさせます。決してお安くはないのですが「欲しい」と思わせる魔力のようなものを持っています。

腕時計のベルト部分もユニークです。二つのパターンがあり、ひとつは文字盤の上下で異なる皮を使ったもの。ブルーグレーを基調に、片側はベージュで片側はシルバーを重ねています。もうひとつは、皮に網目状に立体感を施したシャンパンゴールドのもの。シーズンによって付け替えられます。どちらも、あまり見たことがない独自性がありながら、奇をてらったところがみじんもない、シックで上品なデザインになっているのです。

  

また、オリジナルのケースが付いているのもうれしいところ。やわらかい皮で作ってあるコンパクトなケースですが、ウィンクしている目の刺繍(ししゅう)が施してあるのです。ウィンクの意図するところを聞いてみると「何かを成し遂げた女性が、ヤッタ!と感じている気持ちを表現したかったのです」と林さん。他人に向けて誇るというより、自分に向けてひそやかにうれしがる気持ちは誰もが持っていると思いながら、そういう時に指輪や時計など、自分の視野に入る愛用品は、大切なサポーターになっていると感じました。

プロジェクトを推し進めた取締役常務の庭崎紀代子さんは、「グランドセイコーが目指してきたのは、技術が美しさにつながっていくということ。究められた技が美しさをかたちづくっていくという精神性を、今回のコラボは体現しています」。腕時計はこれからますます、「持っている人の気持ちを高揚させる、まさにエモーショナルな価値こそが大事になってくるのです」という言葉に深くうなずかされました。どんな女性がどんな風に「Miss.K 」を身につけるのか、思いを巡らせるとワクワクしてきます。

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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