てまひま

ウェブ編集者があえて紙の旅雑誌へ……山若マサヤさんの選択

  • 文・山畑理絵/写真・茂田羽生
  • 2018年12月21日

  

デジタルの進化が進み、世の中がどんどん便利になっている昨今。めんどうなことはすべてロボットが私たちの代わりにやってくれるという時代もくるのでしょうか。もちろん、歓迎すべき未来ではありますが、一度、足を止めて考えたいこともあります。

この時代にあって“てまひま”かけて毎日を過ごしている人がいます。便利の波に乗らない彼らの価値観のなかには、私たちが忘れがちなこと、見落としがちなことが少なくありません。そんな“我が道を貫く”専門家の元を訪れ、生きるためのヒントを得る企画。今回は、『モウタクサンダ・マガジン』の編集長を務める山若マサヤさんです。

    ◇

ボリュームは100P以上。一冊まるごとひとりで企画し、書き上げ、本屋へ売り込む

2013年11月、ウェブマガジンとして始動した『モウタクサンダ・マガジン』。翌年2014年秋には、ウェブから紙の雑誌へと発信の場を移し、紙が売れないと嘆かれる現代であえて、デジタルからアナログへと活動の場を広げました。

テーマは、「(必ずしも) 旅に出ない旅行誌」。旅に出る必要はないので、一般的な旅行誌のようなお店の紹介や、観光スポットの紹介はありません。その代わりに、何気ない日常にじつは潜んでいる“旅の感覚”を再発見する方法や、新しい感覚で世界を眺めるアイデアを、ユニークな視点で発信しています。

例えば、『MOUTAKUSANDA!!! magazine ISSUE0』の特集は「生活を旅する」。オリジナル・ラブの田島貴男さんへのインタビューをはじめ、歌舞伎町の日常や、脳内への旅、好きな道を紹介してもらう企画など。食・ファッション・街の景色・言葉・音といったあらゆる生活の要素を、旅の視点で再定義する1冊となっています。

ISSUE2では「毒と楽園」がテーマに。「僕たちが旅に出るのは、毒に当てられたいからだ。毒とは危険なもの……」「僕たちが旅に出るのは、楽園を求めるからだ。楽園は、歓喜にあふれる場所……」と毒と楽園、相反する2つのテーマが同時に展開されます。特集は「『毒 魔女・媚薬・晩餐』『楽 おばあちゃんのひみつパーティー』」「『毒 死と錯乱を招くもの』『楽 富と栄光を招くもの』」と、こちらもなかなか旅に直結した情報じゃないから面白い。

タイトルには、“つまらないと言い訳して生きるのはモウタクサンダ”、“タクサンであることは素晴らしい”という意味が込められている

これまでに刊行した数は、3冊。デザインや写真、寄稿文という面では、他の人が関わっていますが、企画、構成、ブッキング、ライティング、印刷所や製本所探し、それから本屋などへの営業……すべての作業を行っているのは、山若さんただひとり。

そんな手間をかけなくても、すでにウェブマガジンとして形になっていた『モウタクサンダ・マガジン』。時代の流れに逆らって、あえてウェブから紙にフィールドを移した理由は何だったのでしょうか。

「紙媒体は触って体験できるというか、実態がある気がして好きなんです。ウェブでできることはどんどん広がっているし、需要もある。でも、“広さよりも深さ”が僕には大切でした」

  

最初にウェブマガジンからスタートしたのは、「コストが安く、はじめやすかったから」。

もともと大手出版社で雑誌の編集部員を務めた経験のある山若さんは、いずれ「自分の雑誌を作りたい」と思っていたものの、当時は資金もなければ人のつながりもなく、ウェブマガジンというスタイルを選んだのは必然的だったと言います。

ウェブは文字数の制限がないうえ、写真をたくさん使ったり、動画をはめ込んだりと自由に作ることができますが、紙にはスペースに限りがあります。

けれど、雑誌編集者からスタートした山若さんにとって、それはデメリットではなく、むしろ好条件。

「紙の雑誌はページという制約が前提のメディア。レイアウトやビジュアルの作り方にも制限がある。そうした制限をどう逆手に取るか工夫することが、想像力を生むと思うんです。それに紙は完結して変化のしようがないメディアだし、どこに持っていってもその形でしかないから、作品のように作り上げていくならやっぱり紙がいいなと」

ドイツ・ベルリンで出会った1冊のフリーマガジンが人生を変えた

山若さんが紙媒体に興味を抱いたのは、大学生の時に1年間休学して旅に出たヨーロッパ。その道中に訪れたベルリンで『ヴァイス・マガジン(*1)』に出会い、のちに山若さんを紙の編集者へと導くことになります。

(*1)世界25か国でリリースされているフリーマガジン。斬新な切り口と圧倒的なビジュアルで多くの注目を集めている

  

「高校生の頃に読んでいたファッション誌など、この雑誌カッコイイと思ったことはあっても、雑誌を作っている側の人がカッコイイという発想にはならなかった。でも、ヴァイス・マガジンを見たとき、デザインも写真もクールでカッコよくて、憧れてたミュージシャンとかスケーターとかフォトグラファーと同じように、これ作ってるヤツ絶対カッコイイなって」

その時はじめて雑誌を作ってみたいと思った山若さん。大学卒業後に大手出版社へ入社し、編集経験を積んだ後、フリーランスの編集者として独立しました。

100万円集めて1500部を自費出版。採算は度外視。だけど、やめられない

かつて出版社で編集経験を積んだとはいえ、本の売り方や印刷所とのやり取りなどはまったく未知の世界。

「印刷所と直でやり取りしたことなんてなかったし、何部くらい刷っていいものなのかも分からない。そもそも委託と買い取りの違いもよく分からなかった」

とくに装丁は「ルールを作りすぎないようにしている」という。自分の足で製本所を回り、請け負ってくれるところを探した

なんとか100万円の資金を集め、第1号となる『モウタクサンダ・マガジンISSUE0 生活を旅する』を1500部製作。それをカバンに入れ「この本置いてください」と飛び込み営業したのだそう。

ほとんどの作業をひとりで行うことにこだわるのは、「その方が偏った本ができるから」。

「自分が掲げたコンセプトに向かって、とことん寄り添いたいと思っていて。みんなで知恵を出し合ってやるのもいいと思うんだけど、色々な人の意見があるぶん内容が中和される。だけどひとりで作ると、自分がイイと思ったものをひたすら信じるしかないから、見たことないものに近寄る気がするんだよね」

ISSUE0の半年後には、2冊目となる『モウタクサンダ・マガジンISSUE1 1.3時間のタイムトラベル』を刊行。このときはクラウドファンディングの力を借りて支援を呼びかけることに。その結果、印刷費として設定した目標金額30万円をはるかに上回る87万円が集まり、151人もの人が支援者に。

ISSUE1では、中途半端な「1.3時間」をテーマに、「感覚する/五.五感へのトリップ体験記」「通勤する/通勤ユートピア」「死ぬ/あと1.3時間で人生が終わるなら? 」といった特集を展開。世界遺産や海外リゾートを案内するようなものではなく、日常に隠れた“旅”の部分が浮き彫りになるような視点がぎっしりつまっています。

  

雑誌を作っていた方が「僕にとっては生きやすかった」

採算度外視で、出版資金も100万円必要。日々の生活をしながらその資金を貯めるためには、請負仕事が不可欠です。そこまで利益が出るわけでもなく、作業も膨大。それなのにモチベーションを保てているのは、「作っていた方が生きやすいから」と、山若さんは話します。

「こういう雑誌作ってると、なんか変なヤツって思われてハードルが下がる。世の中と仲良くなりやすいというか、無理してマトモな人のふりしなくていいし、もはやできない(笑)。20代前半は自分の作品を作っていなかったから、生きづらかった。なにか作りたいと思っている人は周りにいっぱいいたけど、自分含めてやってるヤツはいなくて、そういう状況にストレスを感じていたから、こんな状況は“もうたくさんだ”って思ってました」

雑誌という“作品”を作ることが自分の名刺であり、生きやすさにもつながっていく。山若さんにとって『モウタクサンダ・マガジン』とは、いわばライフラインのようなもの。

  

「企画を考えるとき、文章を書くときはすごい時間かかるし、苦痛にも感じます。外注の仕事の場合は、“この対象をこうよく見せたい”とか明確なゴールがあるからある意味で書きやすいけれど、モウタクサンダ・マガジンの場合は伝えたいことが“感覚的”だから、それを記事にして伝えるのがすごく難しくて。でも、良いものができた瞬間って、他では得られない高揚感があるんです。アドレナリンが出るというか、血管を逆流してくる感じの。だから続けちゃうのかも」

最近モウタクサンダ・マガジンの別冊『渋谷区東』が完成し、4冊目となるISSUE3は、現在制作中。近いうちに出るかもしれないし、1年経っても未完成のままかもしれません。旅を直接的に描かない山若さんが、今度は何に引っかかり、どう表現するのか……。

日常に転がっている“旅”を探しつつ待つのがいいかもしれませんね。

(文・山畑理絵 写真・茂田羽生)

INFO / 取材協力:モウタクサンダ・マガジン
Website/http://moutakusanda.com
Facebook/https://www.facebook.com/moutakusanda

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