猫と暮らすニューヨーク

芸達者な猫、“お手”は飼い主とのコミュニケーション

  • 文・仁平綾、写真・前田直子
  • 2018年12月3日

エリが2人を困らせていることはある?という質問に「なにもない!」と2人。「朝早くにマットの髭(ひげ)にすりすりして起こすことぐらいかな」(アイさん)。ほのぼの平和な一家です。

[猫&飼い主のプロフィール]
猫・Eli(エリ)11歳 メス 黒白のタキシード猫
飼い主・アニメーターのMathew Amonson(マシュー・アモンソン)さん(愛称はマットさん)と、プライベートシェフのイトウアイさん夫妻。ブルックリンのウィリアムズバーグにある元工場のロフトに暮らす。

    ◇

アイダホ州のロッキー山脈近くにある牧場で、牛、犬、猫と育ったマットさんは、大の動物好き。「自分たちの暮らしに動物がいるということは、特別なことだし大切なこと。犬も猫も、それぞれ付き合い方は違うけれど、どちらも人間の良きパートナーです」と話すマットさんが、約10年前に保護施設から譲り受けた猫が、まるでタキシード服を着ているような黒白の毛並みから“タキシードキャット”と呼ばれる猫種のメス猫エリ。

「いろんな保護施設をまわったけれど、心のつながりを感じられる猫がなかなかいなかった。でもエリちゃんは別でした。初めて会った時、ケージの中にいたエリちゃんがすぐに寄って来たんです。この猫だって思いましたね」(マットさん)。またしても猫に選ばれし飼い主。なぜ猫の飼い主は、こうやって猫に“選ばれる”人が多いのだろう……。

シャイで怖がり。家に来たばかりの頃は、小さな物音ひとつにも驚いて、部屋の隅へ逃げ隠れてしまっていたというエリ。もの静かな猫で、そのしぐさは不思議と気品にあふれ、「椅子に座っている姿はレディーのよう」なんて、マットさんも思わず親ばかぶりを発揮するほど。

艶(つや)のある立派なタキシードを着こなし(メス猫ですが)、気品ある姿でたたずむエリ。実は保護される前は野良猫で、ストリート暮らしだったというワイルドな面も。

さらに、猫界では一目置かれるであろう、とんでもない特技をもつ芸達者。「フラフープの輪をジャンプして越えたり、おすわり、お手、ふせ、ロールオーバー(体を横に倒し、背中を床につけてから起き上がる)もできるんです」と妻のアイさん。それらの芸を教えたのはマットさん。おやつを使いながら、少しずつ覚えさせていったという。

マットさんがフラフープを持ちだすと、「ミャッ」と声をあげ、嬉々(きき)として軽快に輪をくぐるエリ。お手やふせを披露した後は、ちょっと得意げな様子すら見せる。マットさん曰(いわ)く、これは猫の芸というより、「飼い主と猫が心を通じ合わせる、コミュニケーションみたいなもの」。お手やふせを通して、飼い猫と会話をしている気持ちになるのだとか。「もちろん、エリちゃんが僕に伝えたいのは、“おやつください”ってことだと思うけどね(笑)」。

マットさんは以前、犬にお手を教えたことがあり、猫のエリにもできるかも、と試してみたのがきっかけとか。「犬はお手を覚えるのに1カ月かかったけど、エリちゃんはたったの3日で覚えましたよ」(マットさん)

マットさん&猫のエリという家族に、後から加わった形になるのが、妻のアイさんだ。犬と追いかけっこをして遊ぶのが大好きなアイさんは、「正直なところ猫にはあまり興味がなかったんです。猫って追いかけても、逃げられっぱなしでしょう」と笑う。ところが一転、夜はベッドで一緒に寝たりするエリのかわいさに心を奪われ、すっかり猫派に。マットさんのようにお手やふせでエリとの会話も楽しむようになったという。

「猫は、飼い主との時間と自分だけの時間、両方を楽しみます。そのバランスがすごくいい」とマットさん。膝(ひざ)の上に乗ってマットさんを独占しつつ、左手でアイさんもキープする、欲張りエリです。

そんな猫好き夫妻にとって、思い出深い旅がある。昨年秋に友人と3人で日本を旅行したときのこと。京都の伏見稲荷大社近くで、まだ小さな白い子猫を道で発見し保護したのだった。お風呂場でノミだらけの体を洗ってあげ、翌日は動物病院へ。「稲荷大社から名前をとって、イナちゃんと名づけました。保護施設に預けようとインターネットで探して、何カ所か電話をしたけれど、いずれ殺処分されるところばかりで、驚きました。お金と見返りに保護猫を受け取り、里親は探さないという悪徳な業者もいるとか。びっくりです」(アイさん)。結局その後5日間ほど、保護施設やもらい手を探しながら、子猫を携え東京まで旅をした3人。子猫は無事、東京で友人のもとへ引き取られた。

保護施設が充実しているNYでも、殺処分は避けられない問題。猫との暮らしを享受し、すべての犬猫の幸せを願う身としては、夫妻のエピソードに考えさせられたのでした。

>>つづきはこちら

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連載「猫と暮らすニューヨーク」では、ニューヨークで猫と生活するさまざまな人を訪ね、その暮らしぶりから、ユニークなエピソード、インテリアや飼い方のアイデアまでを紹介します。

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マットさんのウェブサイト
https://mosomos.com

アイさんのインスタグラム
https://www.instagram.com/ajitothehideout/


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PROFILE

仁平綾(にへい・あや)編集者・ライター

仁平綾

ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

http://www.ayanihei.com
http://www.bestofbrooklynbook.com
photo by Naoko Maeda

前田直子(まえだ・なおこ)写真家

前田直子

24歳で渡米。サンフランシスコのAcademy of Art Universityで写真を学んだ後、日本へ帰国し、フォトグラファーの前田晃氏に師事。2010年に独立し、雑誌や写真集、ウェブなどで幅広く活動。2013年に再び渡米、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に、日本&アメリカの雑誌や広告、ウェブなどで撮影を手がける。猫アレルギーでありながら、子どもの頃から無類の猫好き。10代の頃、実家で飼っていた猫の名前はチノ。
http://www.naokomaeda.net

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仁平綾

ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
http://www.ayanihei.com
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photo by Naoko Maeda

前田直子(まえだ・なおこ)写真家

前田直子

24歳で渡米。サンフランシスコのAcademy of Art Universityで写真を学んだ後、日本へ帰国し、フォトグラファーの前田晃氏に師事。2010年に独立し、雑誌や写真集、ウェブなどで幅広く活動。2013年に再び渡米、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に、日本&アメリカの雑誌や広告、ウェブなどで撮影を手がける。猫アレルギーでありながら、子どもの頃から無類の猫好き。10代の頃、実家で飼っていた猫の名前はチノ。
http://www.naokomaeda.net

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