スリランカ 光の島へ

<11>姐さんの美容院

  • 文・写真 石野明子
  • 2018年12月7日

BLOOMオーナー さおりさん

「私、1人じゃなんもできないと思ってた。ダンナにもそう言われ続けてたし。でも実際1人になったらさ、できた。やるしかないからな」

美容師のさおりさんは我が家の近くに美容室を開いた人。初めて会ったのは昨年の3月。旦那さんと一緒に「スリランカで美容室を開きたいんですけど、スリランカで起業してどんな感じですか?」と私たちのスタジオを訪ねてきた。

さおりさんは日本で10年美容室に勤めたあと、中国人のお得意さんに一緒に中国で美容室をやらないかと誘われ、上海で美容室を開いた。が、ビジネスパートナーに裏切られ閉店。金銭トラブルに巻き込まれたところを旦那さんとなる人が救ってくれた。結婚して、経理面などをサポートしてもらいながらもう一度上海で美容室を開いた。

美容室は10年続き、大忙しの毎日だった。しかしその「大忙し」、従業員の起こすトラブルが多くを占めていた。スタッフの引き抜き、盗難、果てはトイレの使い方まで。そして仕事で遅くなっても、家事も全てさおりさんがこなす毎日だった。

「お客さんとの時間を大事にしたいのに、仕事とは別の問題がありすぎて全然集中できん。収入はよかったけど、もう最後の方は消耗してたなぁ。仕事の帰り道、涙が止まらんこともたくさんあった」

なんで私こんなに頑張っているんだろう? その疑問が頭から離れなかった。そんなとき友人に「スリランカで美容室を開いてみたら?」と言われた。その友人の旦那さんはスリランカ人だった。聞くとスリランカには日系の美容室が1軒もないという。上海は日本人のコミュニティーも大きく、競合店がひしめいている。だったら必要とされる場所で自分1人でお店をやりたい、そう思った。旦那さんとの関係も冷えたものになっていたけれど、スリランカで2人で頑張れば関係を修復できるかもしれない。そんな気持ちも少しあった。そして旦那さんと2人スリランカで美容室開店の準備を始めた。

忙しいお客さんのためにさおりさんはカットを平均20分前後でこなす

スリランカで起業するなら、スリランカ人のパートナーを見つけ、共同出資することが一番手っ取り早く、労働ビザも取りやすい。だがトラブルになることも多く、もし裁判沙汰になっても外国人が勝てることはほぼない。だからさおりさんは自分たちだけでビザの申請をした。だが審査は厳しく待てど暮らせどビザがおりない。日本と上海とスリランカを行ったり来たりしながら開店準備をし続けた。

そんな最中、旦那さんが言った。「俺、スリランカ行かないから」。耳を疑った。「スリランカ、つまらないし行きたくない」。定期的にスリランカに来てサポートするとは言う。でも英語もできない、地理もよくわからない、親しい友人もいない、不安だらけなのにさおりさんは突然スリランカの一軒家に1人にされた。結婚当初は複雑な地下鉄に乗るだけでも心配し、ついて来てくれた。なのに。もう自分は大事にされていないんだとわかってしまった。

「私は離れていたら結婚している意味はないと思う。でも私は彼がいないとなんにもできない。悲しいし苦しいけど離婚できない」。最初さおりさんはそう言っていた。でも実際一人暮らしが始まったら、自分で何でもやるしかない。さおりさんは、みるみる強くなっていった。

片言の英語と関西弁で、家の修理を怠る大家を叱り飛ばし、家に蛇が出れば見知らぬご近所に助けを求めた。ビザがおりるまではお金は稼げないから、カットモデルを募集して美容室の存在を知ってもらうと同時に知り合いもどんどん作った。言葉やまだ土地勘もない不安で1人では出かけることもできなかったさおりさん、新しく知り合った人たちに、買い物だったり、スリランカでの財務処理のことだったり、とにかくできないことは人を頼った。そんなとき彼の不貞もわかりもう我慢の限界だった。さおりさんは離婚を決意する。そして冒頭の言葉となった。

「今まで人に甘えるなんてしちゃいけないって思ってた。だって日本も上海も人に頼らなくていいようなシステムになってるし。でもな、人ってこんなに優しいんやなって実感できたんはスリランカに来たから。それに人間関係がこんなに深まるってそうそうないやん」

カット後、お客さんとおしゃべり

私もそうだったけど、日本では「人に頼ること=迷惑をかけること」が暗黙の了解になっている気がする。けど実際に人に頼られ、そして感謝されたらどうか? 私はうれしい。少しでも誰かに必要とされたらとてもうれしい。自分のできる範囲のことならしたいと思う。頼ったり頼られたりすることで確実に人との距離は縮まっていく。スリランカはこれからの国で、どうしても助け合わないとできないことがある。通販もまだまだだし、ネットで調べきれないこともたくさんだ。みんなで情報共有したり、物を貸しあったりも日常茶飯事。コミュニティーが小さいからうわさ話が回るのはとっても早いけど!

ビザの申請をしてから10カ月以上が過ぎた頃、さおりさんのビザがやっとおりた。これからは開店準備も掃除も自分でやらなきゃいけない。だけど全く苦じゃない。お客さんに喜んでもらう事がさおりさんの原動力。お客さんにはこれまで以上に真摯(しんし)に対応できるし、自分のペースで仕事ができる。夕方カットが終わったお客さんとさおりさんお手製のおつまみでそのままお店でちょっと一杯、となることもある。

「これまでで一番理想の形で仕事ができてる。1人になることは不安やったけど、思いがけず自由で幸せになれた。私には仕事もあるし、友達もおるしね」。まだ開店1年も経っていないけれど「姐(ねえ)さん聞いてくださいよ~」と、たださおりさんとおしゃべりしたくて訪ねてくる人も多いとか。

スリランカに住んでいる日本人でさおりさんの美容室「BLOOM」を知らない人はいないんじゃないだろうか。そのぐらいさおりさんは今までやったことのない営業も1人で頑張った。立ち上げた私のスタジオがうまく回っていないとき、さおりさんも大変だろうに「諦めんかったら絶対大丈夫やって!」と落ち込んだ私を姐さん節で何度となく励ましてくれた。スリランカライフはどうかと聞くと「女ひとりと思ってなめられることも多いけど、絶対負けん! 言いたいことは言わな! でもまぁそんなトラブルも楽しんでるわ」だそうで。そんな姐さん、独身に戻り恋することも忘れていません。

■BLOOM
Rajagiriya
40/40A, LAKE GARDENS

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PROFILE

石野明子(いしの・あきこ)

いしのあきこ

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。
Instagram @studiofortlk
http://studio-fort.com/
http://akikoishino.com/

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いしのあきこ

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。
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http://studio-fort.com/
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